第六話4
結局俺はキャンプ場まで先に行き、少しフラフラしながら親父の手伝いをしていた。親父は昔からキャンプには凝っていて、俺が小学生の頃から家族でよくキャンプに出かけていた。テントやグリルなどの必需品はもちろん、女性陣にも喜んでもらえるようにとかわいらしい皿や装飾用のフラッグ、定番の大きめのマシュマロなどどっからそんな情報得てるんだと感心するほどのキャンプ女子グッズも完備している。
「まあこんなもんだろう。ご苦労様」
「ああ、やっとだよ……。ホント親父のキャンプ愛にはいつも感心するよ」
俺がキャンプ場に着いてから親父のキャンプ愛に振り回され、みんなが帰ってくる前にもうヘトヘトになっていた。こんなんだったら無理してでもみんなのとこにいれば良かった……。
「料理の下ごしらえは俺がやっておくからミコトは休憩してなさい」
「そうさせてもらうよ」
と、俺は適当にイスを選んで座り、そばにあった大きいマシュマロの入っている袋を開け一つつまみ食いしていた。
「あ~、みこっちゃんもうつまみ食いしてる~」
と、遠くからスギの声が聞こえる。「お~、やっと来たか」と振り向くと、かじってたマシュマロをつい落としそうになった。あのシスカがカップルよろしくスギの左腕を抱きながら歩いてきたのである。
「……お前ら、この短時間に何があった?」
「えっ?あ~まあその、愛をもっと深めたっていうか」
「そうです、スギとはあの湖のように深い愛を交わしたのです」
なんかそれ、やましいことに聞こえるんだが……。
「あっいたいた!ミコトさ~~ん!!」
と、ほぼ同じタイミングでリディアと由衣も帰ってきた。
「お~!こっちこっち!……って、二人ともやけに楽しそうな顔をしてるな。何かあったか?」
「ふっふ~ん。女の子には女の子の秘密があるの!だからミコトには教えな~い」
女の子の秘密ってなんだよ……。
「ミコトさんミコトさんっ!わたし馬さんを操れたんですよ!大きい馬さんを支配できたんですよっ!」
と、リディアは俺に駆け寄りキラキラした目で話してくれる。そういえばさっき降りた駐車場の端に馬いたな。さしずめちょっと手綱で動かしてみたんだろう。
「お~、あんなでっかい馬を操ったのか。リディア、お前は将来すごい支配者になるんじゃないか?」
なんて冗談を交えながらリディアの頭をナデナデする。リディアもよっぽど嬉しかったのか「えへへ~」と笑顔を見せる。
「ところでミコトさん、あの三角のものは何ですか?」
「あぁこれ?これが俺たちが今日泊まるテントってやつだよ。ほら、向こうで親父が夕飯の準備してて……」
「ええっ!?おじさんあの家を手放したんですか!?」
「どうしてそうなる!?」
「そうよリディアちゃん、今まで秘密にしてたけど実は進藤家は財政難であの家を出なきゃいけなかったの……」
「そんな……、わたしたちのためにあんな無理をしていたなんて」
「そこっ!勝手に他人ん家を貧乏扱いしない!!」
とりあえずこんな茶番の誤解は解け、シスカは親父の夕飯の手伝い、俺たちは二つあるテントの割り振りを決めていた。と言っても、二つとも大きめのテントなのでこっちは男性陣、あっちは女性陣という感じですぐに分かれ、各々荷物を中に置いていった。
「は~あ、シスカちゃんと一緒のテントがよかったなぁ」
「いいのか?あっちは鉄壁の由衣がいるんだぞ?」
「うっ……確かに」
「別にずっと別れるわけでもないんだからいいじゃねえか。男三人楽しく寝ようぜ」
自分で言って難だけど正直真夏のテントに男三人はなかなか暑苦しい光景である。
「みこっちゃんは、この8月が終わったらどうする?」
「どうするも何も普通に二学期が始まって……」
「ごめん、聞き方が悪かった。9月になってもしリディアちゃんたちと永遠に離ればなれになったらどうする?」
「そんなの……」
そうだ、二人が帰った後また会えるっていう保証はどこにもない。仮に地球を侵略したとしても会えるかどうかもわからないし、侵略しないとしたら永遠にこの地球に来ることはないだろう。わかってはいたけど敢えてそれについて何も触れなかった。
「うちはイヤだね」
「えっ?」
「うちはもうシスカちゃん一筋だから、何が何でもそばにいたい。二人でイチャイチャしてる未来しか想像できない。あの娘を絶対離したくない」
「まったく、ホントスギは直球で言うよな」
「みこっちゃんはリディアちゃんのこと好きなんでしょ?」
スギのストレートな質問に思わず振り向く。
「俺は……」
「…………」
俺はどうしたい?このままではいられないことぐらいわかっているのに、そのタイムリミットも迫っているとわかっているのに、このまま曖昧な日々を過ごしていいのか。
「こ、こんなタイミングで言わねえよ!言ったろ、この夏休みが終わったら言うって」
「それで二人はいいと思ってるの?」
「……よくないことぐらい俺だってわかるよ」
「ならどうして!?」
「今はアイツの課題を手伝うのが俺の役目だ。俺が今ここで決めたらきっとリディアの心がブレちまう。だからアイツには何も心配ないように課題を成し遂げてほしいんだ」
アイツは優柔不断だからきっと由衣を心配してしまう。そうしたらきっと課題どころではなくなるだろう。だから俺はこの答えを夏の終わりにすると決めた。
「それってもう結論出てるんじゃん……」
「えっ?」
「みこっちゃん、そこまで言うんならうちはそれ以上何も言わない。でも結構大変な道だってわかってるよね?」
「わかってるよ、ちゃんとケリはつける。絶対どっちも悲しませたりはしないから」
「わかった。それだけ聞けただけでも大きいかな。頑張れよ、みこっちゃん!」
と、スギは俺の背中をパンッと叩き、テントを後にした。
「ああ、ありがとよ。スギ」




