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侵略者の夏やすみ  作者: 碓氷烏
第六話
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第六話3

 ミコトと分かれた後、わたしとリディアちゃんは何で遊ぼうかと探しながら歩いていた。スギたちみたいにボートも良かったけど正直あんまり漕げる自信なかったのでパス。ロープウェイもあったけど他に人が来そうだからそれもパスした。ちょっと二人きりで話したかったから。

 じゃあどうしようか?と思ったところでリディアちゃんがあるものを発見した。

「由衣さん由衣さん!あの大きいの何ですか!?」

 リディアちゃんが指さした先、それは駐車場の端の木の下で留まっている二頭の乗馬体験用の馬だった。大きさ的にあれはサラブレッドかな?

「あ~、あれは馬っていう動物だよ。昔はあの背中に人とか荷物とか乗せて移動してたのよ」

「あんなかわいいのをそんなこき使ってたんですか!?」

 間違ってないけど何か言い方!

「ま、まあ今は車の時代だから馬なんて観光用ぐらいしか見ないけどね。リディアちゃんよかったらあれ乗ってみる?」

「えっ?でもわたしが乗ったら馬さんがかわいそう……」

「大丈夫よ。あのお馬さんもきっとリディアちゃんに乗ってもらったら喜ぶに決まってるから」

「そ、そうなんですか。じゃあ行きます!」

 と、動物にも気遣う心優しい侵略者を促し、わたしたちは馬のいる場所まで向かった。

「えっ……2千円……」

 スタッフのおじさんに値段を聞いて正直そんなするの!?と思ってしまった。二人だと4千円、バイトしてるとは言え高校生にはちょっと出費がでかすぎる……。

 しかしそばには馬の顔をスリスリしながら戯れているリディアちゃんの姿が……。

「由衣さん?」

「えっ?ああ、何でもない何でも。あっおじさん、彼女だけ乗るんでわたし馬引いてもいいですか?後ろからついて行くんで」

 と、咄嗟に考えた策はリディアちゃんだけ乗ってもらってわたしが縄で馬を引く、お姫様と従者みたいな構図だ。幸いちょうど他にもお客さんが来ていたのでもう一頭の馬に追従する形となる。おじさんも「助かるよ」と言ってOKをもらった。

「いいんですか、わたしだけなんて……」

「いいのいいの。こっちの方が二人っきりで話しやすいし。さっ、左足をその足かけに乗っけて」

 と、おじさんに代わり馬の乗り方をレクチャーする。向こうのお客さんを見様見真似でやってるだけだけど。

「わぁ~!たっか~い!!由衣さん由衣さん、さっきより湖が広く見えます!!」

 リディアちゃんは馬上から見える景色に目を輝かせていた。

「わたしも、ここから見る景色最高よ……」

 と、周りに広がる大自然をよそに、わたしはほぼ目線と同じ位置に来たリディアちゃんのきれいな生足を有り難く拝んでいた。

「あ、あの由衣さん。どうしてわたしの足をじっと見ているんですか……?」

「何故ってそりゃあわたしにとって絶景だからに決まってるじゃない。ぐふふふふふ……」

「ちょっ!さりげなく触らないでください!?かっ顔スリスリしないでください!?いやああああ!?」

 なんて、リディアちゃんから思いっきり蹴りを喰らいつつ、おじさんの先導の元ゆっくりとお散歩を始めた。

「け、結構揺れるんですね、馬さんの上って」

「わたしも小さい頃にポニーに乗ったことあったけどバランス取るの難しいのよね」

「でも、この前マリアさんのドラゴンに乗ったときよりはバランス取りやすいですよ」

「そ、そう……」

 マリアに拉致された時は微かに記憶があり、心臓が飛び出るんじゃないかってくらい乱暴に振り回されていたので正直かなりトラウマになっていた。

「リディアちゃん、そこにある綱を握ってみて。どっちか引っ張るとその方向に進むから」

 と、話を逸らすためにリディアちゃんに手綱の使い方をレクチャーする。左手を手前に引くと馬は左に進路を取り、右に引くと右に進路を取ってくれる。言うとおりに動いてくれることにリディアちゃんも思わず「おお~っ!」と驚きの声を漏らした。

「あの、由衣さん。何だかわたし、支配者みたいな偉い人になった気分です!!」

 むふ~~っと興奮しながら喜んでくれてる。確か君は侵略のために来たんだよね?

「そうですよ姫様、この子はもうあなたの虜になったしもべですよ」

 と、わたしも乗り気になって彼女の配下になったように恭しく返答する。

「じゃ、じゃあ。おほん……、さあ進め!わたしの従順なるしもべ~!」

 と、世界史の教科書に載っているナポレオンの肖像画よろしく馬上から人差し指をビシッと指しながら声を上げる。あれ?さっきまでこんなかわいい子をこき使うんですか!?って言ってたような……。ともかく、馬を少し操れるだけでリディアちゃんのスイッチが入るなんて、やっぱ純粋でかわいい。

 なんてたわいもない話で盛り上がっていると、ふとリディアちゃんは真面目な顔でわたしに振り向いた。

「由衣さん、わたしにお話したいことがあるんですよね?」

「えっ?……あはは、そうね。大丈夫よそんな構えなくたって」

「もしかして、ミコトさんのことですか?」

 たまにリディアちゃんて勘のいいとこあるなって思う。まあ他に真面目に話す話題なんてないんだけど。

「そっ、リディアちゃんにとってアイツをどう好きなのかなって気になっちゃって」

「ミコトさんですか……。わたし、この星に来るまで好きという気持ちがわからなかったんです。あ、別にタルーヴァの人がみんなそういうわけではなくてただわたしがそういう気持ちに疎かっただけなんです」

 あ~、この前のスクールの話を聞いてて何かわかる気がする。のほほ~んて暮らしててそういう浮いた情報に鈍感そうだし。

「だからミコトさんと最初に出会った頃は『わたしを助けてくれた優しい宇宙人さん』って思ってたんです」

 そうだよね、リディアちゃんから見ればわたしたちって宇宙人扱いなんだよね……。

「でもミコトさんが強制送還から救ってくれたときすごい心がドキドキしたんです。それが一体何なのかわからなくてずっとモヤモヤしていたんですが、海でこの星のキスの意味を教えてもらってやっと気づけたんです。わたし、ミコトさんに恋してるんだって」

 わたしがリディアちゃんのキスを見たあの時か、何か複雑……。

「それからです。ミコトさんがかっこいいヒーローに見えるようになったのは。ただの優しい人じゃ括れなくなっちゃったなって」

 括れなくなった、か。

「あはははは!まさかアイツをヒーローみたいって言ってくれる子がいるなんてね」

「わ、笑わないで下さいよ!?ミコトさんはああ見えてかっこいいんです!」

「ごめんごめん、そういうつもりで笑ったんじゃないから。まぁ今はぼ~っとしてるとこあるけど昔はかっこいいとこあったなぁ」

「昔のミコトさん……、あのっ!昔はどんな感じだったんですかっ!!」

 と、ミコトの過去についてリディアちゃんがぐいっと馬から落ちるんじゃないかってぐらい身を乗り出して聞いてきた。

「あああああ危ないから姿勢戻してっ!?……まあこれぐらい話してもいいか。アイツのお母さんが亡くなってるのリディアちゃんも知ってるでしょ?うちとミコトの家は昔っから仲良くってさ、わたしもおばさんには良くしてもらってたから亡くなったときはすごいショックだったわ。お葬式の時だってわたし泣いちゃってたんだけど、アイツだけは泣かなかった」

「泣かなかった……」

「そっ、あの時アイツ痩せ我慢してたのよ。一人っ子だから泣いちゃいけないってその時はずっと涙を堪えてたの。でもお葬式の後一人おばさんの部屋で泣いてるのを見ちゃって。それ見たらわたしが守ってあげなきゃって思ったの。アイツ、たまに一人で抱えこんじゃうとこあるから」

 そう、わたしが毎朝ミコトの家に手伝いに行く理由はその出来事からだった。おばさんが亡くなってからもミコトは元気な素振りを見せていたけど、わたしにはそれが無理しているってすぐにわかった。たまに力が抜ける瞬間が目についていたから余計心配だった。

「そんなことがあったんですか。ごめんなさい、そんな事情だとは知らずに……」

「いいのいいの。それにね、わたしが甘やかしたせいでアイツちょっと腑抜けになったっていうか……」

「そ、そんなことないですよっ!?ミコトさんはいつでもかっこいいんですっ!!」

「あははっ、そういうことにしておくわ。まあそんなアイツをだんだん好きになってったのも事実だし」

「あの……由衣さん、わたし」

「ストップ、わたし同情とか嫌いだからっ。それはそれ、これはこれ。リディアちゃんとは正々堂々戦うつもりだからそんなんで降りないでよね?」

 と、リディアちゃんの言葉を遮る。けれど彼女が次に言うことは予想もしないことだった。

「わたしもミコトさんを守ります。ミコトさんには俺が守ってやるって言われちゃいましたけど、わたしはわたしなりの方法でミコトさんを守ります!」

 わたしなりの方法……。

「そうね、それでこそわたしのライバルだわっ!言っとくけど、わたし負ける気なんて全然ないからねっ!」

「わたしも、望むところです!!」

 と、わたしたちは互いにグータッチで思いを交わした。この夏が過ぎたらリディアちゃんはきっと星に帰るだろう。だからと言って彼女が手を引くなんて思っていない。わたしも全力でアイツを好きになってやるんだから!

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