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侵略者の夏やすみ  作者: 碓氷烏
第六話
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第六話1

「リディアちゃんってさ、あんまり宇宙人っぽいことしてないよね?」

 蝉の鳴き声が絶え間なく鳴り響く午前中、「親戚からもらったスイカが余ってるから」と由衣がうちに訪ねてきた。俺は庭にあったステンレスの大きなバケツに水を入れすぐにスイカを冷やし、リディアとシスカはこの妙な柄の大きな玉に怪訝そうな顔で見つめている。ちなみにスギはここ最近毎日うちに来てはシスカとイチャイチャしているので既にうちの縁側でくつろいでいた。「君は他に行くところないのか?」と、親父が少し心配にはなっていたが。

 そんな中、由衣がぽろっとそんなことを言い出したのである。

 今までは瞬間移動や部屋にあるホログラムなど見てきたけど正直それ以外はまだ何も見ていない気がする。リディアたちが乗ってきた宇宙船なんて最初竹にカモフラージュしてたし……。

「わたし、そんな異星人っぽくないですか?」

 と、唐突に言われた当の本人は自分の容姿をキョロキョロ見ながら訊いてみた。

異星人っぽいって言われても・・・・・・」

「リディアちゃんたち、もう普通に町に馴染んじゃってるしな」

 その地球ではまず見ないエメラルドの髪で十分だと思うけど、他に何か特徴があるかって言ったら確かに思いつかなかった。ましてシスカなんてもう『町のメイドさん』として地域の人にもう馴染んでいるし。

「じゃあ、俺らの考える宇宙人ぽいコーディネートしてみる?」

「えっ!そんなのあるんですかっ!?」

 おっ!見事に話題に食いついてくれた!

 俺と由衣は彼女の食いつきを見て密かにナイスッ!のサインを送っていた。そんな俺たちをスギはアイスをかじりながら「何やってんだか」というような顔で眺めていた。

「宇宙人の定番って言ったらこれだろ。何かビョンビョンが付いたカチューシャ」

 イマドキ子供向け番組でもこんなの付けねえよって思うほどの定番アイテム、バネの先にピンポン球のような玉を付けたアンテナカチューシャ。

 偶然にも由衣がそれを持参していて、早速リディアの頭に装着した。

「…………」

「…………」

 すごい、ただこれを付けるだけで昔のバラエティ番組みたいなアホっぽさが伝わる……。

「なんでしょう、わたしでもこれは騙されてるってわかりました……」

 リディアにしては珍しくこれは違うと認識したらしい。なんていうか、ごめん。

「じゃあ次はこれ着てみようか」

 と、そんなことお構いなしに由衣はどこからか銀色のテッカテカしたワンピースのような衣装を用意した。衣装には星の形をしたモールやら電球やらが散りばめられ、いかにもバブル時代に出てきそうなキラキラしたデコレーションだった。

 それを頭から装着させ、完成した宇宙人の姿は……、どう見ても昭和のコント番組にありそうなおもしろキャラクターにしか見えなかった。

「…………」

「…………」

「…………」

「今度ペルセウス流星群あるからみんなで榛名山行かない?」

「せめて何か言ってください!?」

 ということで、俺たちは由衣の提案で毎年8月に来るペルセウス流星群を見に榛名山へキャンプに行くことになった。


 榛名山。群馬県民で知らない人はいない上毛三山(他は赤城山、妙義山)の一つで、山頂にはカルデラ湖の榛名湖があり、その外輪ではロープウェイで登れる榛名富士や険しくそびえ立つ掃部ヶかもんがたけ、また巨大な白鳥の形をした観光船やカヌー、観光馬車やゴーカートなど夏休みのレジャーにはもってこいの観光地である。また湖畔には林間学校があり、俺たちも中学生の時にそこで泊まり登山をしたり手漕ぎカッター体験をしていた。

 二日後、俺たちは親父の運転する車で榛名山に向かった。天気は良好、絶好の天体観測日和だ。ただうちよりも標高は高いものの暑いことに変わりはなかった。

「じゃあキャンプ場で受付してくるから、お前たちはこの辺りで遊んでなさい」

 親父は湖畔近くの駐車場で俺たちを降ろし、今日泊まるキャンプ場に先に向かった。

「あの山の上がこんな風になっていたなんて、この星にはまだまだわからないことが沢山あるんですね」

 と、目の前に広がる風景に驚くシスカ。

 俺らの住んでいる高崎市から北東に赤城山、西に妙義山、そしてその中間の北の位置に榛名山が鎮座していて、県民はその山々を見て自分の方角を把握している。それぐらい目に映る山なので数週間しか住んでいないシスカでもこの山のことを認識していた。

「うちもここシスカちゃんと来たかったからちょうど良かったよ。ねえねえシスカちゃん、あそこに手漕ぎボートあるから後で一緒に乗ろうよ!」

 と、早速スギはデートの定番をシスカに提案する。

「あの小さな船のことですか、わかりました。この後一緒に乗りましょう!……ですが」

 ちらと後ろに振り向くシスカとスギ。その視線の先は山道で見事にやられ、リディアと由衣に介抱してもらってる俺だった。親父の運転が荒かったわけではないが俺は昔から車酔いしやすく、ましてここまでの連続ヘアピンカーブの山道に勝てるはずもなかった……。

「……ああ、俺のことは気にしないで二人で楽しんで来な」

 と、俺は二人に担がれながらスギとシスカを見送った。

「ああ、このバカのことはこっちが何とかするから二人は楽しんでてよ」

「誰がバカだ……ぅっ!?」

「無理しないでください!今お水持ってきますから」

「ああ、悪いな……。折角の楽しみを台無しにしちゃって……」

「そんなこと言わないでください!さ、そこのベンチで休みましょう」

 と、二人は俺をベンチまで運びそのまま横にさせた。そしてそのままリディアは近くの自販機へと向かった。

「あ~~ホンット何やってんだ俺……」

「アンタは昔っから乗り物ダメよね。中学校の林間学校だってバスの中で吐いてたし」

「そういやそうだったな……。一日中グロッキーで何やってたか全然覚えてねえわ」

「確かアンタその後のカッターもヘロヘロになってたわね……。ねえミコト、この後リディアちゃん借りてもいい?」

「えっ?うんまぁ、せっかくここまで来て何もしないんじゃもったいないからいいけど、変なことすんなよ?」

「しないわよ。たまには二人っきりで女子トークもしたいなって思っただけ」

「お前にそんなスキルあったのか?」

「殴るわよ」

「すんません……」

「とにかく、女の子には女の子の事情ってのがあるのよ」

「女の子の事情……ねえ」

 と、ここでタイミングよくリディアがペットボトルのスポーツドリンクを持って帰ってきた。

「ミコトさ~ん!買ってきました~!」

「お帰り~。ねえリディアちゃん、コイツこんなんだからわたしたち二人で遊びに行かない?」

「ぅえええええっ!?」

 と、リディアは反射的に固まった。絶対また胸を触られるって警戒してる……。

「そんなあからさまに嫌がらなくたっていいじゃない……。大丈夫よ、今日のサイズを測るだけだから」

 そう言いながら由衣の両手がまた触手のようにいやらしい動きをしていた。いやだからその動きだって!ってツッコむ気力もなくなってた。

「あ、あのわたしこれから用事が……」

「な~んて冗談よ。たまにはリディアちゃんと二人っきりで遊びたいなって思っただけ。それにこの前わたしを助けてくれたお礼まだしてなかったしね」

「そうですか。ほ、ホントに大丈夫ですよね?」

「わたしどれだけ嫌われてるのよ……」

「まずその手の動きをなんとかしろよ……」

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