第五話6
「はぁっはぁっはぁっはぁ……」
どうしてこんなことになったのか、未だに理解できないでいた。
真っ暗闇の山中で僕、君塚沙雪は現実では存在しないはずのドラゴンに追われていた。下校中だった筈なのに何故ここにいて、何故ドラゴンに追われなきゃいけないのか、答えの出ない答えに涙を浮かべながら僕は迫ってくる大きな足音から逃げ続けた。
「どうして……、どうして……!?」
「こんにちは」
学校から帰る途中、僕は突然背後から誰かに声をかけられた。
「えっと、ぼ……僕のことかな?」
振り返るとそこには今の時季にあまりに不釣り合いな黒色のヒラヒラとしたロリータファッションの女の子が立っていた。身長的に小学生かな?顔の形的にどうやら外国の子っぽい。そんな知り合いはいない筈だけど……。
「ええ、あなた以外他に誰がいます?」
確かに夕方の住宅街とはいえ他に誰もいない。どうやら本当に僕に用があるみたいだ。
「お姉さんに何の用かな?もしかして迷子かな?」
「この星の人間はアタシをなんだと思ってるのかしら。こんな完璧なアタシが迷子になるわけがないでしょう」
今初めて会ったのにこんなって言われても……、どう見たって中二病入った迷子の小学生にしか……。
「まあいいですわ。あなたの素質を見込んでアタシ自らご招待してあげますわ」
「何を言って……」
「ついてきなさい」
と、少女が突然僕の腕を掴むと、景色はいつの間にかどこかの山林に変わっていた。
「えっ!?えっ!?ええっ!?」
さっきまで住宅街にいた筈なのに、何で!?どういうこと!?
気が動転してる僕などお構いなしに、少女は腕を引っ張り暗い森の奥へと歩き始める。
「ちょっと!ねえっ!君は一体何なの!?」
と、少女に問いただすと、
「あなた、この星を救ってみません?」
一体何を言っているのか理解できなかった。この星を救う?
「ちょ、ちょっと何を言ってるの!?僕をどうするつも……」
「着きましたわ」
少女の足が止まる。その先には突然西洋風の大きな古城がそびえ立っていた。もしかして僕、異世界にでも連れてこられたの?
「こんな森の中にお城が……」
それはまさしく異世界の魔王城と言っても差し支えないおどろおどろしさを醸し出していた。小窓からうっすらと浮かぶ灯り、壁を伝う長い蔦、さすがに雷など光ってはいないが他に灯りがないので余計不気味に見えてしまう。
僕、魔王の生け贄にでもされちゃうのかな……。いやいやそんなこと現実に起こるはずがない。これはきっと昨日見たアニメの余韻で見てしまった夢に違いない。
そんな結論を出したのもつかの間、僕の目の前に突然ドシン!!と黒い巨体が降りてきたのである。
「ひ、ひいいっ!?」
僕は思わず悲鳴を上げ、振動で尻餅をついてしまった。
そこに現れたのは二階建ての建物ぐらいの大きさのある幻想上の生き物、ドラゴンである。
「これは夢これは夢これは夢これは夢……」
そうだ、これは夢なんだ。だからドラゴンなんていても不思議じゃない。最悪食われそうになったところで目が覚めるに決まってる……!とは言うものの、いつ襲ってくるかわからない獰猛な顔、そしてずっと狙いを定めてるように睨み付けている鋭い眼光、正直耐え切れないよぉ……。
「驚かせてしまいましたわね。紹介しますわ、この子の名はジーナ。アタシの言うことをちゃ~んと聞く忠実なペットですの」
と、その巨大なドラゴンはまるで人懐っこい大型犬のように少女の顔に頬ずりをしだしたのである。
「ぺ、ペット……?」
「例えば、フフ」
と、僕に向かって少女が指さすと、ドラゴンはギリッとこちらに睨み付け、ゆっくりと僕の顔スレスレまで迫る!?
「ひっ!?」
「この子を食べてしまいなさい……」
「や、やっぱムリーーーーーーーっ!?」
僕は咄嗟に震えていた足を何とか動かし、全速力でその場から逃げていった。
「なぁんて、そんなことのためにあなたを呼んだわけじゃ……。あら?どこ行きましたの?」




