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侵略者の夏やすみ  作者: 碓氷烏
第一話
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第一話3

 そして俺たちはゼェゼェと息を切らせながら、始業時間5分前に教室に到着した。

「お、二人揃って遅刻ギリギリか?朝からお熱いねぇ」

 到着して早々俺らを茶化したこの金髪のチャラい男は昔っからの腐れ縁、杉村央すぎむらひさし。通称スギ。俺とは違いイケメンフェイスで何度かラブレターもらうほど人気が高い。けれども何故か付き合った娘はいないという。

「そんなんじゃねえよ。まったくあんなことなかったら」

「……そうねぇ、かわいい女の子に抱きつかれたらそりゃもうねぇ?」

 と、由衣が少しトゲのある口調で俺に迫る。

「え?みこっちゃん、朝から女連れ込んだのか?」

「ちげえよ。昨日従姉妹が泊まりに来て、寝てるとこ襲われたんだよ」

「なぁんだ従姉妹か。で、その娘かわいい?」

「間違っても!!お前には紹介しないからな!」

 仮にもコイツは恋愛沙汰には精通している。もし付き合ったりしたら、

「付き合ったら……」

「みこっちゃん?」

「ミコト?」

 え?と二人の怪訝そうな顔に気づくと、不意に始業のチャイムが鳴り出した。

 それと同時に引き戸をバン!と開け、「はああ~~い!」とイマドキ誰も言わないセリフ、そしてグラマラスな格好で一人の女性が入ってきた。

 もちろん、うちの(一応)担任の芝塚苺先生だ。

「皆さん一週間ぶりですねぇ、元気にしてましたかぁ?いちごぉ、皆さんに会えなくて本当に淋しかったんですぅ」

 一応言っておくが、これはキャラを作ってるわけではない。ガチでこうなのである。

「今日は、遅刻者はいないようですね。はぁ……せっかく新しい服の試着を頼もうかと思ったんですが……」

 ちなみに苺先生は美術の担当で、趣味で服飾をやっている。『服』と生易しい言葉で言ってるが中身はかなり本格派なコスプレ衣装だ。噂では遅刻者を昼休みに拉致しそのコス衣装を着させるらしく、男子だろうが女子だろうが構わず脱がすという。それを聞いたこのクラスの生徒たちは今まで遅刻者を出したことがない。

 とまあ、そんなヘンテコな先生の朝の挨拶も数ヶ月経てば慣れるもので、クラスの大半は「また始まったよ……」とうんざりしている。

「はぁ……」

 まぁちょっと変なとこあるけどこれもまた普通の日常。いつも眺める窓の景色も変わることなく、まだまだ暑い教室の窓際でいわゆる普通を満喫していた。

「ここっていい景色ですね」

 えっ?

 ふと辺りを見渡すが誰もそんなこと言うはずがない。そしてまさかと思い、ちらっと窓に振り向くと……、

 窓の向こうにちょこんとリディアが顔を出していた。

「ぶふぉあっ!?」

「どうしましたぁ?進藤くん」

 全員がこちらを向いたが間一髪リディアを手で引っ込めて隠し、

「な、なんでもないです!あ、あはははは……」

 と、笑いながらなんとか誤魔化すことができた。

「み、みこっちゃん。今、そこに女の子が……!?」

 できてなかったーーー!?隣の席のスギがまるでこの世のものじゃないのを見てしまったような顔でこっちを見ていた。

「いいかスギ、お前は何も見ていない。窓の向こうにかわいい女の子なんているわけない。それはきっと幻覚だ、俺も見えていない、そうだ幻覚なんだよ!」

「じゃあ、その窓の向こうにいるそちらの方は……?」

 と、嫌な汗を垂らしながら窓に振り向くと、緑の長い髪をなびかせながらリディアが立っていた。

「もう!ひどいじゃないですかミコトさんっ!せっかくお弁当持ってきたのに頭押さえつけるなんて!!」

 リディアは忘れていた弁当箱を俺に向かって見せつけた。

「…………」

 静寂は十秒間続いた。

 そして騒ぎはどっと広がり、悲鳴を上げる者、写メを撮る者、「ミコト!てめえいつの間にそんなかわいい娘を!?」って詰め寄る者、「ああ~んダメじゃな~い教室にそんな不思議っ娘連れて来ちゃあ。わたしが没収しちゃいますよ?」って冗談に聞こえないことを……って何言ってんだ先生!?

「えっと、俺の従姉妹で……」

 この状況でそんな言い訳が届くわけがない。もっと気を引く内容を言わないと!?

「ぇ~っと、世界屈指のプロマジシャン、リディア・ル~なんちゃらマチイです!!」

 あまりに壮大にわかりやすいその嘘は、クラスの全員をぽか~んとした静寂に包んだ。

 ああ、この時ほどこの三階の窓からフライハイしたい瞬間はない……。仕方ない、こうなったら誰もが納得するとっておきの言い訳を言ってやる!

 俺は意を決しキリッと皆の方を向き、

「今のは無しだ!コイツはこの地球を侵略しに来た宇宙人だっ!!」

 …………。

 キーンコーンカーンコーン。

「あ、一時間目集会だから体育館に行ってね。じゃあ日直」

「きりーつ、ちゅうもーく、礼」

 如実に微妙な空気のまま苺先生は強制的に話を締め、クラスを移動させた。

「進藤く~ん?後で先生のとこに来てね。それとその娘も連れてきてね」

「は、はい……」

 かくしてこの混乱は俺の高度な言い訳とボロボロに傷ついた心によって収拾はついた。……ことにしよう。


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