第五話4
「まったく、ちょっとだけって言っただろ。少しは加減ぐらいしろよ」
「ごめんなさい、ミコトさんの味が美味しいからつい……」
あの後俺とリディアは少しだけキスをした。……はずだったが、思いの外エネルギーを多く吸い取ったらしく俺はそのまま一時間ほど寝込んでしまった。目覚めると外は既に雨が上がっていて、結局傘もただのお荷物になってしまった。まぁただの補習がこんなに騒がしくなったんだから結果オーライだろう。
群馬のターミナル、高崎駅に着いた俺たちは駅ビルにある専門店で色んな服を探していた。以前由衣が彼女たちに服を選んでくれたがそれでもバリエーションは乏しかった。リディアはまだしもシスカはずっとメイド服だし……。
「リディア、何か欲しい服とかってあるか?俺が買ってあげるから」
「えっ!いいんですか!!う~ん、この星の服はどれもキラキラしててどれも目移りしちゃいます~。でも、ちょっと布地が少ないのが気になります……」
やはり彼女も普通の女の子らしく、かわいいものには目がない。でも布地が少ないってどういう……?
と、彼女の目線の先を向けるとそれはピンクでとてもキラキラした下着が並ぶランジェリーショップだった。
「…………」
「ミコトさん、どれがいいか迷っちゃうので一緒に選んでくれませんか?」
う~ん、俺に女性物の下着をチョイスするのはちょっときついかなぁ……。せめて由衣さんにお任せしてほしいなぁ。
「リディア、あのジャンルは由衣が居たときに選んでくれないかな?俺にはちょっと……」
「そうですか……、すみません。ミコトさんにもお金という物の事情がありますしね」
そこで俺は後悔した。せっかく彼女がキラキラした瞳で興味を示しているのに俺はそれを拒否しようとしてる……。いくら女子オンリーの下着専門店だからと言って俺が拒否したら思い出作りに支障をきたすのかもしれない。
「……さっきの前言撤回。リディア、お前の好きなの買うぞっ!」
「えっ!いいんですかっ!?でもお金が……」
いやだからお金の問題じゃないんだけど。
「問題なし!金ならあるから!!」
正直そんなにないけど。
「ありがとうございますっ!さっき沙雪さんから着させてもらった衣装の中でこれに似たのがあったんです。あれがすごい気に入っちゃって。確か、びきにあーまーって……」
ん?ビキニアーマー?
確か某RPGで出てくる防御力ゼロ的なあの鎧?
それと目の前のこのキラキラしたこの下着の数々……。
「ちょ、ちょっと待て。リディア、もしかしてあれが普通のファッションだと思っているか?」
「?」
おや?この反応もしかして……。
「そういえばどうして皆さんアレを着て歩いてないんでしょうか?あんなにかわいいのに」
疑問は確信に至った。彼女はこれが下着ではなく普段のファッションだと思い込んでいる。確かにかわいいよ、でもそれは隠すことによって魅力が出るってもので……。
そこで俺はまたある疑問が浮かんだ。これを下着と認識していないのならばリディアたちは普段下着をどうしているのか。確か由衣が二人の服を持ってきたとき当然一緒に入れてきたはず……。
「な、なあ。リディアって普段その……パンティはどうしてるんだ?」
俺は試しにそう耳打ちするとリディアは顔を赤くなり、
「いっいきなり何言うんですか!?ちゃんと履いてますよ!!」
「声がでかいって!」
女の子として当然のリアクションはしてくれたが如何せんお店の前なのでお客さんの視線は俺たちに向く。
「もうっ!いきなり何言い出すんですか。わたしだってちゃんとしてま……」
と、言い掛けたところでリディアは何かに気づいたのか、改めて商品をまじまじと見つめた。
「……ミコトさん、あの、あれ、もしかして服ではなくて下着……ですか?」
「…………」
俺はゆっくりと彼女に頷いた。
「ご……ごごごご……ごめんなさ~~い!?」
と、リディアは顔を赤くしその場から全速力で逃げていった。
それから数分後、ようやく止まってくれたリディアを宥めるために、俺は近くのカフェで買ったカフェオレを彼女に手渡した。
「少しは落ち着いたか?」
「……はい、まさかあれがその、この星の下着だったなんて……」
「ま、まあリディアの星と文化が違うのは当たり前だしな。こっちだって最初の頃はお前に振り回されっぱなしだったし」
「でも、他の人に見られないのにどうしてあんなにかわいいんでしょう。下着ってこんなのしか付けたことないので」
と、彼女が手のひらを前に出すと突然胸元からスライムのような銀色の柔らかい個体がにゅるっと飛び出し、手のひらに収まった。
「!!!!!???」
えっなになになになに!!?何か絵的に卑猥なものがあっさりと現れたぞっ!?
「そ、そそそ……それが……!?」
「そうです!これがわたしたちの星の下着なんです!装着することによって自動的に体型に合わせてくれるんですよっ!」
と、彼女は手のひらにスライムを乗せたまま「むふ~ん」とドヤ顔で語る。それがあまりにシュールすぎて言葉が出ない。ましてそれがブラであるとなれば余計……。
けれどやはりそういうところは宇宙テクノロジー、半分忘れかけていたが彼女の星はこの地球のかなり倍以上文明が発展している。俺たちの常識などもしかしたら原始人レベルなのかもしれない。
「あの、ミコトさん!ちょっとアレ見に行っていいですか!」
そんな呆気に取られている俺をよそに、リディアは物珍しいものに飛びついていった。スライム型のブラを手に持ったまま……。




