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侵略者の夏やすみ  作者: 碓氷烏
第五話
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第五話1

 ぽつぽつぽつぽつ……。

 この星はとても不思議、何もないはずの空から水が落ちてくるなんて。ミコトさんたちに会ってから何日かそういう日に巡り会いましたけど、『雨』という天気の日は何故か心が少し心がざわつくのです。

 あれから2日、わたしたちには再び日常が戻りこうしてシスカと二人、家でお留守番をしていました。

 ミコトさんは補習と言うことで学校に行き、お父様はジンジャという施設の会合があると二人とも朝から慌ただしく家を後にしていきました。

「今朝はあれだけ天気が良かったのに、この星の空は気まぐれですね」

 わたしたちの星、タルーヴァでは居住空間のみ天気を制御しているので空から水が落ちてくることもなく、常に心地よい天気なのです。なのでこんな気まぐれな天気自体が不思議でならないのです。ミコトさんの話では『冬』という時期になると氷の塊が降ってくるとか。空から降る氷……、想像つきませんが一度見てみたい。

「本当に不思議な星……」

 少し物思いにふけっていると、家の掃除を終えたシスカはふと何かを思い出す。

「そういえばミコト様、傘をお持ちでなかったですよね?」

「え?ええ、今朝はいいお天気だったから確か持って行ってなかったような」

「ではちょっと届けに……、そうでした。午後から卵のタイムセールがあるんでした……」

 シスカはここに来てだいぶこの星のことに馴染んできてるようで、タイムセールというシステムには特に敏感になっているみたい。わたしにはそのタイムセールがどういう意味なのか未だにさっぱり……。

「じゃあわたしが届けに行きます。学校なら前に行ったことあるし」

「ですが、また何かあったら!」

「大丈夫、いざとなったら瞬間移動使うから。シスカはそのタイムセール行ってきて」

「……わかりました。ではくれぐれもお気をつけて」

「はい、行ってきます」

 わたしの瞬間移動の能力は一度見た場所を記憶していればそこに飛ぶことができます。では何故以前学校に一人で来れたかというと、お父様に送ってもらっていたからなのです。

「…………」

 玄関を開けると外はいつもと違う匂い。泣き疲れちゃった時に感じるあの独特の感覚と少し似ていて、とても切なくて心が安らぐ。隣の空き地の茂みには普段あまり聞き馴染みのない「ぐわっぐわっ」という不思議な鳴き声も聞こえる。一体どんな生き物なんでしょう?

「せっかくですし、歩いていきましょうか」

 ここからミコトさんの学校まで歩いて30分、少し道はうろ覚えなところもあるけど何とかなるでしょう。

「…………」

 あのお祭りが終わってから、わたしはずっと悩んでいました。

 もしわたしがミコトさんたちに会わなかったらあんな目に遭わなかったのではないか。もしわたしがもっとちゃんとしていたら事態は違う方に変わっていたのではないか。

 何とか危機は免れたけれど、誰かが死ぬ可能性はいくらでもありました。

「わたしが、もっとちゃんとしていれば……」

 わたしに何ができるでしょう。あの瞬間移動以外わたしには何の取り柄もない。結局皆さんに助けてもらってばかり……。

「わたしに何ができるの……」

 ふと我に返ると、いつの間にか見覚えのない草むらの道に出てしまいました。確か『田んぼ』という畑だったような。

「えっと、どっちでしたっけ……?」

 やっぱり、瞬間移動で行こうかな……。


 8月に入って数日が経ち、俺は今日補習を受けに学校に行っていた。補習と言っても別に成績が芳しくないからとかではなく、自主的なものだ。うちの担任の苺先生は容姿、言動こそアレだけど教師としてはちゃんとしていて、美術教師でありながら様々な教科にも対応できており、こうして補習には率先して参加してる生徒が多い。

「は~い、じゃあ今日の授業はこれで終わりぃ。わかんないところあったら視聴覚室まで来なさい?先生が手取り足取り教えてあ・げ・る」

「せんせーい、また教頭に怒られますよ~?」

 なんてたわいもない冗談を交えながら今日の補習は終わった。ていうか、こんな会話に慣れてる俺たちも俺たちだが……。

「あ、それと進藤君。あとで視聴覚室にこの資料持ってきてね?」

「えっ!?何で俺が」

「かよわい先生にこんな重いもの持たせるの?ほら、運んでくれたらいっぱいご褒美上げるか……」

「結構です」

「そんなキッパリ言わなくても……。じゃあお願いね~~」

 と、俺は教壇の上に置かれた資料を運ぶことになった。別に午後予定があるわけじゃないけど気が重い。それに苺先生、ホントにスレスレなことされそうで正直恐い……。

「……あれ?マジか雨降ってんじゃん」

 ふと窓に目をやると外はしとしとと雨が降っていた。お昼前から少し外が暗いなと思っていたが雨が降るなんて聞いてないぞ。

「あ~天気予報夕方から雨って言ってたけどもう降り出しちゃったねぇ」

「どうした進藤、傘忘れたんか?じゃあ俺と相合い傘でもするか?」

 二人はクラスメイトの倉持勇斗と笹本高史。高校に入ってからできた友達で放課後よく遊びに行く仲だ。

「誰が好き好んで男と相合い傘しなきゃいけないんだよ。でもどうっすかぁ……」

「そういえば進藤君、この前の祭りの時ヒーローショーやってたってホント?」

「ああそれ俺も聞いた。浴衣の美女連れてステージに上がってたって。おい、どこの女だよ。俺にも紹介しろよおいおい~」

 どうやら世間一般にはあの一件がちゃんとヒーローショーに見えたらしい。アドリブとは言えセリフが少したどたどしかったのであまり思い出したくないが……。

「えっ、あ~~……あの時は知り合いから急遽出てくれって頼まれてさぁ。あの娘はその時いた役者さんで面識は……」

「なんだよぉ、でも連絡先ぐらい聞いてるだろ?お前の力でさぁ、合コンとかセッティングしてくれよ~」

 そんなことしたらスギに殺されるし、シスカもシスカで軽くあしらわれて終わりになるだろう。

「気が向いたらな」

「ちぇっ、つれねえなぁ」

「笹本、前にも合コンやって撃沈したじゃん。俺、この前モデルスカウトされたんだって嘘までついちゃって。こんな田舎にスカウトなんて来るわけないでしょ」

「それぐらい手を打っとかねえと女も寄ってこないっての。そういやさ、この前あそこのスーパーで買い物してたらめっちゃきれいな女性見つけてさ」

「ふ~ん。それで?」

「ノリ悪いなぁ。んでその人めっちゃ目立つ格好してんの。あのフリフリのスカート、そうメイド喫茶っぽくて……」

 なんて女には目がないコイツが笹本、確かにピアスしたり髪染めてたりとルックスは悪くないが、いつも調子いいこと言って墓穴を掘っている。それがなければ好青年なんだけどなぁ。

 で、少し大人しめで真面目そうなコイツが倉持、学期末テストでは常にトップを飾っている見た目通りの優等生である。何故そんな優等生がこんなチャラ男とつるんでるかと言うと、単に小学生からの腐れ縁だからである。

 ……とまあ俺はこれぐらいしか二人の情報を知らないのでコイツ等の説明はこれぐらいにしておく。

「そうだ進藤。この前登校日に来たあのマジシャンの子!今度紹介してくれよ!」

 やっぱりコイツバカだからリディアのこと本気でマジシャンだと思っていたか……。

「お前みたいなバカに紹介なんかしねえよ……っと電話だ。もしもし?」

 携帯の画面には『自宅』と書いており、俺は笹本との会話を中断して電話に出た。

「えっ、リディアが学校に来てる?」

 相手はシスカだった。何でも俺が傘を忘れたことに気づいてリディアが渡しに出かけたらしい。シスカが渡しに行こうと思っていたが夕方からタイムセールがあるのでリディアに任せたという。 ちなみにリディアがここに到着していることは彼女の持っているGPSのような機械で把握しているという。

「いや、まだこっちには来てないと思うけど。俺もちょっと探してみるよ」

 リディアという名前に反応してか、二人が聞き耳を立てる。俺はシッシッと手で払いながら会話を続けて何かを思い出す。

 スーパーに買い物に来ているフリフリのメイド……。

「……そういえばシスカ、お前いつも何着て買い物行ってる?」

 突然の問いにシスカは「いつものあの服ですが?」と答える。マジか、アイツずっとあのメイド服でうちの近所のスーパーで買い物してたのか……。

「あ、あのメイド服か。いや、何でもない……」

 さらに聞くと何故か買い物行く度に色々サービスしてくれるらしい。もしかして俺の知らぬ間にこの街の名物メイドさんになっているのだろうか……。

 電話を切ると二人がニヤニヤしながら俺を見つめていた。

「な、何だよ?」

「いやぁ?何もしなくても女が寄ってくるお前が羨ましいなぁって」

「進藤君、もしかしてさっき話してたスーパーで買い物するメイドさんって……」

 質問する倉持はまだしも笹本は目が笑っていない。俺は悟った。これ以上コイツらにあの二人を教えたらめんどくさくなると。

「じゃ、俺はそういうことで!!」

「おいっ!そういうことってどういうことだよ~~!!」

「笹本、論点が違うよ」

 俺は二人を振りきり、先生から頼まれた資料を抱えてそそくさと教室を後にした。

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