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侵略者の夏やすみ  作者: 碓氷烏
第四話
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第四話11

 あの後、俺たちは帰り際に寄ったコンビニで花火セットを買った。花火を見逃した由衣のためでもあるが、正直あれではろくな思い出にならないのでこれで何とか思い出補正をしようというわけである。

「これもあの花火っていうんですか?」

 キラキラした紙の棒をまじまじと見つめるリディア。

「そう、まあさっきみたいにでかいもんじゃないけどな。見てろよ?」

 と、ひらひらしたところの近くに火をつける。ほどなくして先端からシューッとまばゆい光が現れた。

「はわぁ~~!」

 カラフルに現れる光に目を輝かせている。由衣もスギも続けて花火に火をつけた。

 俺たちはそのまま走り出し、花火をグルグルと回す。大玉の花火にはかなわないけど二人の記憶に焼き付けられたらそれだけでよかった。

「ほら、リディアも!」

 俺は彼女の手を握りながら花火を持って走る。リディアも楽しくなって同じように花火を回していた。

「ミコトさん!ありがとうございます!!」

「こっちこそ!この星に来てくれてありがとう!!」

 ずっと、ずっとこんな時間が続けばと思った。普通の高校生のたわいもない恋愛、この夏も秋も冬も春も、そしてまた来る夏も、何の変哲もないバカやれる恋愛を送りたかった。

 けれど、リディアに残された時間はもう一ヶ月を切っていて、この先がどうなるかわからない。

 俺も思い出として終わるのか、離ればなれになって終わりなのか、俺は、この地球は……。

「ミコトさん?」

「あ、いやごめん。ちょっと考え事してた。……ってあれ?もうこれだけ?」

 と、最後に残っていたのは細い糸状の束、線香花火だけだった。

「まぁやっぱ締めと言ったらこれしかないわよね。じゃあ、最後まで残ってた人が何か命令するってどう?」

「王様ゲームじゃないんだから……、いいぜ。受けて立とう!」

「やるんだ……。ほら、シスカちゃん」

「はい、ありがとうございます。今までのとは随分細いですね?」

「この花火もぶわーって出るんですか?」

 二人が怪訝そうに見つめる。まぁ少なくともこんな細いやつからぶわーって出たら怖いけど……。

「いい?この線香花火を最後まで落とさずに残った人の勝ちよ?」

 みんなそれぞれ線香花火に火をつける。恐る恐るつけてた二人も想像とかけ離れたこの小さな火の玉に「おお~~」と声が出た。

 微かにパチパチと音を立てて火花が散る。まるでスローモーションの世界にいるかのようにこの小さな花火を見つめていた。

「あっ」

 最初に落ちたのは由衣だった。ぽとっと音を立てて消える様はやはり何度見ても儚さを感じてしまう。

「あっ」

 続いてシスカ、スギも落としてしまうと、二人目を合わせてぷっと笑ってしまった。「何やってんだよ」と言ったのも束の間、俺の花火もあっさりと落ちてしまった。

「あ、やった!ミコトさん、わたし勝ちましたぁ!!あっ……」

 最後に残ったリディアは嬉しさのあまり揺らしてしまい、最後の光をあっさりと落としてしまった。

「ぷっ、あはははははは!!」

 リディアも堪えきれず笑ってしまう。

「あはははは……!じゃあじゃあリディアちゃん。何か命令してっ!」

 由衣に促されると、リディアはすぅと息を整えると急に真剣な表情になった。

「リディア?」

「……あの、今日は本当に楽しかったです。何もかもが初めてでみんなみんなキラキラ輝いていて、その、うまく言葉にできないんですが、生きていて一番素敵な思い出になりました!」

「うん、そう言ってもらえて嬉しいよ」

「ですが、それと同時に謝らなければなりません。わたしたちがここに来たばっかりにマリアさんとの戦いに皆さんを巻き込んでしまい、ましてや怪我まで……、本当にごめんなさい」

「な、なんだよそんな……」

「わたし、シスカの主なのに何も守れなかった。いつも皆さんに助けてもらいっぱなしで、何もできない自分が本当に悔しかった。もっと前に出なきゃって思ってるのに、恐くて恐くてしょうがなかった……」

「お嬢様……」

「もっと皆さんのように強い心を持てたら、もっと自分に自信を持っていたら、きっとこんなことにはならなかったのかもしれません……」

 その時、彼女の目から一つ、また一つと涙が落ちていくのが見えた。

「ミコトさん、由衣さん、スギさん、シスカ。お願いです、どうかこんな弱いわたしを嫌いにならないでください……。これからも、皆さんと一緒にいさせてください!」

 堪えきれなくなったリディアは全てを言い切るとどっと泣き崩れてしまった。彼女はずっと悩みを隠していた。自分の弱さを、自分のふがいなさを。

「何言ってんだよ、お前はちゃんと強い心持ってるじゃねえか。あのマリアに一緒に立ち向かってシスカはわたしのメイドだってガツンと言ったんだ。十分なぐらいお前は強いよ」

「そうだよ。あの時のリディアちゃん、一番頼もしかったよ」

「そうそう、もしリディアちゃんが一歩踏み出さなかったらわたし死んでたかもしれないもん」

「お嬢様、あなたはわたしを何度も救った命の恩人なんです。だから、あなたを護るのは当然の責務なんですよ」

「皆さん……」

「どうか涙を拭いてください。そしてもっと自信を持ってください。お嬢様が勇気を出したからわたしは生き延びることができ、そしてこんな素敵なお友達ができ、最高の思い出を作ることができたんですよ?」

「わたしの、勇気で……」

「そう!わかったらさっきのやり直し!!胸張ってもう一回命令しろ!!」

 俺はリディアの背中をポンと押すと、彼女に笑顔が戻った。そして……、

「命令です!みんな、わたしをもっと、も~~~っと好きになりなさ~~~い!!!」

「「「「りょうか~~~~~い!!!!」」」」

 こうして、今までで一番熱い夏祭りの一日は幕を閉じたのであった。そして、俺たちの日常の歯車は少しずつずれ始めていったのだった。

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