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侵略者の夏やすみ  作者: 碓氷烏
第四話
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第四話10

 俺とリディアがあの駐車場に戻って数秒後、ドンッドンッドンと夜空に花火が打ち上がった。

「どうやらギリギリ間に合ったな」

「あれが……花火なんですか?」

 彼女にとって初めての花火、それがまさかこんな形で見るとは思わなかった。

 シスカは無事なのだろうか。そう思ったのも束の間、微かに見える羽を持った人影で無事が確認できた。

「シスカちゃん、やったみたいだね……」

 ベンチで横になっていたスギが目を覚ます。遠く見える彼女の帰りに思わず笑みがこぼれた。

「ああ、それに由衣も無事に連れてきたしな」

 俺の背中で由衣がすやすやと寝ている。ほぼ丸腰の状態であの場所に入っていったので生きるか死ぬか本当に瀬戸際だった。それにあと数秒遅かったらあの花火で大変なことになっていただろう。

「ミコト様っ!!」

 シスカが帰ってくるなり俺に怒鳴ってきた。

「えっ?どうした、そんな怒って……」

「どうもこうも、こんな奥の手を持っているなら先に言ってください!爆弾を持っているなんて聞いていませんよ!!」

 さっきからシスカは何を言っているのだろう?爆弾……、ああ。

「シスカちゃん、ちょっと向こう見てみなよ」

 上体を起こしたスギがシスカに促す。スギに言われて怪訝そうに振り向くと、

「……これは!」

「そう、これが花火」

 これが、スギが言っていた花火。さっきまで真っ暗だった夜空に無数の花が咲いたその光景は、今まで見たことのない芸術だった。

 リディアもシスカも、初めて見るこの光景に言葉を忘れていた。

「こんな形になっちゃったけど、二人にこれを見せられてよかった。どうかな、喜んでもらえたかな?」

「最高ですミコトさんっ!!こんな素敵なもの見たことありません!!」

「ええ、まさかこんなプレゼントになるとは。ありがとうございます」

 と、二人とも目をキラキラさせながら振り返る。

「そっか。は~~~すっごい疲れた!10回連続でジェットコースターに乗せられた気分だよ」

 俺はゆっくりと由衣を降ろすと任務が完了したかのように緊張の糸が切れて地面に寝ころんだ。

「ふふ、今回はミコトさんかなり頑張りましたからね」

「そうですね、今回ばかりはあなたにも感謝をしなきゃいけません。もちろん由衣様も、スギも」

「本当に皆さんに出会えてよかった。あの時もし出会わなかったら、この星でこんないっぱいの体験できなかったですもんね」

「そんな大げさ……でもないか。リディア、まだまだこれから楽しいこといっぱいするぞ。明日も明後日も!それと……」

 不意にこれからのことを思い出した。この夏が終われば彼女たちはスクールに帰ってしまう。そしたら俺はどうなるんだろう、と。

「ミコトさん?」

「ん?いや何でもない。あっ!スターマイン始まったぞ!」

 振り返るとまた夜空を照らすように花火が打ち上がる。キラキラした瞳で見とれている彼女を見ながらこれからのことを考えていた。

 でもやめた。考えたところで想像のつかないことが起きて思考が追いつかないだろう。

 とにかく、今を楽しむって決めたんだから今はリディアとこの時間を共有していたい。

「わたし、このまま時間が止まればいいなって思うことがあるんです。この星に来てスクールでは知ることができなかったことが多すぎて、毎日が楽しいんです。明日はどんなことが起きるんだろう、どんな人と出会えるんだろう、そんなことを考えるともうワクワクでいっぱいなんです」

 ワクワクでいっぱい、か。この夏休みが始まるまでそんな気持ちどこにもなかったな……。やっぱりあの時、リディアと出会ってなかったらこの花火大会も『日常』として過ぎていたのだろう。

「俺も、リディアに出会ってから毎日がワクワクでいっぱいだよ。こんな予測不能な夏休み初めてだ。明日も楽しみでしかたないよ」

 明日は何が起こるかわからない、だから面白い、こんな経験二度とないだろうな。

「リディア、俺やっぱりお前のこと……」

「す……」と声が出かけた時、俺たちのすぐ近くでズシンと地響きがした。

「な、なんだ!?」

 駆けつけると、そこにはマリアとジーナが倒れていた。

「マリア!?」

 気絶しているのか、ともにぐったりとしていた。ところどころ焦げたような痕も残っている。まさか、あの花火の爆風でここまで飛ばされてきたというのか……。

「気絶しているならちょうど良い……」

 と、シスカは再び細剣を取り出しマリアの首もとに切っ先を向けた。

「ここであなたの息の根、止めてあげましょう」

「待てよ!もう決着はついてるだろ!?」

 咄嗟に俺はシスカの腕を掴んでしまった。あれだけ俺たちを殺そうとしていた相手なのに自分でも何故そんなことをしてしまったのかわからない。

「離してくださいミコト様!ここで彼女を仕留めなければまたいつ命を狙われるかわかりませんっ!」

「それでもっ!俺はお前のその手を血で汚したくないんだよっ!リディアだってそう思ってるはずだっ!」

 シスカはふと、リディアの方に振り返る。あの日「あなたを殺人鬼にさせません」と決めた彼女の表情は憂いに満ちていた。

「……わかりました」

 と、シスカは静かに剣を納める。

「ホント、バカな人たちですわね」

「っ!?」

 安心したのも束の間、そばで気を失っていたはずのマリアが俺たちの前で立っていた。それもSっ気のある大人バージョンからゴスロリ姿の子供バージョンに。

 俺たちはすぐさま身構えたがマリアは降参したかのように両手を上げた。

「安心なさい、もう戦う気なんてありませんわ。立っているだけで精一杯ですもの」

 確かによく見ると身体中に傷や焦げた痕が残っている。

「彼女はもしどちらかの人格が気を失ったとき、もう一つの人格でバックアップできるようにしています。ですが精神はバックアップしても肉体のバックアップまではできないはずです……」

 傍らでシスカが耳打ちする。ならば彼女の言うことに間違いはないようだ。てか肉体まで変わるほどのバックアップって……。

「ホントになんでもありなスペックだな……」

「原始的レベルの星の人間がこのアタシをここまで追いつめるとは思いもしませんでしたわ。あなた、中々やりますわね……」

 関心したように微笑んでいるがほぼ偶然が重なっただけになんとも言えない……。ただそろそろ花火が始まるから逃げないと危ないと思っただけで。

「これでわかっただろ。俺たちを甘く見ると痛い目見るって」

「そうですわね、あんなきれいな兵器を繰り出されたら手も足も出ませんわ」

 と、遠くで今も打ち上がっている花火に目を向ける。アタシを容赦なく攻撃した兵器があんなカラフルでキラキラしたものだったなんて……、と惚けたように。

「シスカとの間に何があったか知らないが、これ以上彼女を追い回すのはもうやめてくれ。コイツはもう殺し屋でもなんでもない、リディアの世話をする一人のメイドなんだ。だから頼む!シスカに平和な日々を送らせてあげてくれっ!」

 俺はマリアに向かって深々と頭を下げた。負かした相手に頭を下げるなんて自分でもどうかしていると思っている。けれど、俺は本気でコイツに日常を送らせたい、その一心だった。

「ますますこの星の人間がわからなくなってきましたわ……、負かした相手に頭を下げるなんて」

 さすがのマリアも呆れてしまった。シスカがとどめをさそうとした時には制止し、今こうやってアタシに頭を下げている。この男はどれだけ大バカなのだろう。

「嫌に決まってますわ」

「お前っ!?」

「ですが、殺しはしませんわ。このアタシをここまで追い詰めたんですもの、もう少しこの子を有効活用させて頂きます」

「それってどういう……」

「おっと、アタシったらつい口が滑ってしまいましたわ。ということでシスカ、命拾いしましたね」

 と、シスカに向かってニヤリと笑うとマリアは気絶しているジーナの腹部に軽く蹴りを入れ、無理矢理目を覚ませた。

「いつまでノビているんですの。戻りますわよ」

「貴様、まだこの星に居続けるつもりか?」

「ええ、せっかくこんな面白い星に来たんですもの。少しぐらいバカンスさせてもらいますわ。それに……」

「あ、あのマリアさん!」

 唐突にリディアが声をかける。

「あら、まだアタシに対して不満かしら?リディアお嬢様?」

 シスカの今の主ということへの皮肉か、少し誇張して返す。

「わたしはシスカを傷つけたあなたを許せることはできません。過去に何があったかわかりませんが今はわたしのメイドなんです。これ以上わたしのメイドを、大事な家族であるシスカをいじめないでください!」

 リディアは少し震えながらも声を上げる。そんな彼女になんて頼りないお嬢様なんだろうと思っているのだろうか。

「フフ、そうね。今はあなたのメイドでしたわね。安心なさい、もう彼女をいじめたりしませんわ。ただ、あの子に利用価値ができただけ」

「それって……!?」

「ごきげんよう。今日はすばらしい夜でしたわ」

 と、マリアは颯爽とジーナに飛び乗ると砂埃を巻き上げて一気に夜の彼方へと消えていった。

 多くの謎を残しながら……。

「俺たち、勝ったんだよな……?」

「ああ、勝った気がしなかったけどね」

 俺たちが勝ったはずなのに最後まで上から目線を貫いたマリア、そしてシスカを有効活用するという不可解な内容。いまいち後味の悪い勝利だった。

「ああああああああーーーーー!?」

 そんな後味悪い空気をつんざくような大声が突然響いた。

「なんだようるさいな!?」

「由衣さん!気が付かれたんですね!!」

 その大声の主はずっと気を失っていたままの由衣だった。

「うるさいも何も花火もう終わってるじゃない!?せっかくの一大イベントがぁ~~……」

「お前、マリアに捕まってドラゴンにあんだけ振り回されてたのによくそんなこと言えるな……」

「ドラゴン……?」

 すると由衣はあの時のことを思い出したのか、力が抜けたようにすとんとへたり込み、途端に泣き出した。

「うわあああああああああん!!怖かったぁ!怖かったよ~~~~!!?」

「わかった、わかったから、抱きつくなって」

 まあでも、あんなのに襲われたら怖いのもしょうがないだろう。ホント、由衣を救えてよかった。

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