第四話9
時間は少し遡る。
シスカがマリアを追った後、残された俺たちは気を失ったスギをベンチに寝かせると、微かに見える二人の戦闘を見つめていた。
「シスカ……」
「まずいな、このままだと大変なことになる……」
「大変なこと……、まさかシスカは!?」
「落ち着け、まだ時間はある。だけど……」
「時間?」
リディアは状況を理解できていなかった。これから起こる大変なこと、そして時間がないこと……。一体これから何が起きるのだろうか?
「なあリディア、俺をあそこまで移動させてくれないか?」
「えっ!?できることはできますが……」
リディアも突拍子もないことに困惑した。できなくはない話だが自分たちが行ったところで戦闘に参加なんてできやしない。
「でも、わたしたちが行ったら……」
「時間がない。行くぞリディア!」
と、俺はリディアの手をぎゅっと握った。一瞬ドキッとしてしまったがすぐに、
「わかりました!行きましょう!」
リディアはじっとあの二人の方を向き、集中をした。
そして俺たちは一瞬で移動した。
「うわっ!?」
よりによってマリアの背後に、しかも体勢を崩して彼女に抱きつくような形で……。
「きゃああ!?」
突然の悲鳴に気づき目を開けると、マリアの後ろでミコト様が抱きついていた。しかもその後ろにはお嬢様まで!?
「どういうことだこれは……」
すると集中力が切れたのか彼女が放とうとしていたホワイトボールがみるみる小さくなり消えてしまった。
「は、離せっ!どこ触ってるんだ!?」
よくよく見るとミコト様の手が彼女の胸を掴んでいた。
「こ、これは不可抗力だっ!?」
「ミコトさん!えっちなことはダメです!」
「おまえはどっちの味方だよ!大体こんなとこに飛ばされるなんて思う訳ないだろ!?」
「ミコトさんがもっと詳しく指示してくれたらこうならなかったんです!」
「ウルサーーーイ!!」
ドラゴンの上で始まった痴話喧嘩に耐えきれずマリアが叫ぶ。
「お前たち……、最後までアタシの邪魔をしてただで済むと思うまひゃあぁ!?」
マリアの怒りが最高潮になっているが後ろを取られているため、ミコト様は彼女のがら空きな背中につーーっと指をなぞらせていた。
「おっ結構こういうの弱いんだな」
「ミコトさん!!」
「くうぅぅぅ……!」
あれだけ戦闘に狂喜していたマリアが恥ずかしそうに小さく縮こまっている。こんな姿、今まで見たことない……。
「由衣をさらった罰だ。返してもらうぜ」
「か、返したところでお前たちを逃がすわけないだろ?」
「そっか、じゃあ俺はおまえのためにとっておきのやつをお見舞いしてやるよ」
とっておきのやつ……?ミコト様にそんな秘策があったのだろうか。
「大した自信だな?なら、あの子もろとも落ちて死んでしまえ!」
「おわっ!?」
マリアがジーナの腹部を蹴ると突然上下に揺すられ、お嬢様とミコト様は由衣様とともに落とされてしまった。
「お嬢様!?」
「俺らに構うな!やれ!!」
そうだ、この機を逃しちゃいけない……!わたしはすぐさま体勢を整え、再び突風を繰り出す。
「なっ!?きゃあ!?」
二人に気を取られていたマリアに避ける余裕などなく、ジーナもろとも直撃してしまった。
それと同時に由衣様を捕まえた二人。するとミコト様が、
「シスカぁ!!早くここから離れろ!!巻き添え喰らうぞ!!」
それだけ言い残し、三人はあっという間に空中で瞬間移動してしまった。
巻き添え?何のことだ……。
「最後までよくわかりませんが……」
本当はわたしの手で決着をつけたかったが、ミコト様に何か策があるならそれに賭けてみましょう。
「どうやらここまでのようですね」
「まだ……まだお前を、お前をを殺せてない……!もっと、もっと戦えーー!!」
先ほどの一閃で彼女はかなり負傷している。ジーナも飛ぶのがやっとなくらいだ。
「そんな体で何ができるんです?もう勝負はついているでしょう」
「いやッ!もっと!もっと戦え!?」
マリアがこれほど狂うなんて……、ここにきて恐怖さえ感じてしまった。
「悪いな、わたしはもうただのメイドだ。主の元に帰るのがわたしの責務なのでな」
そう言い残し、わたしは皆さんがいるあの場所へと戻った。
「待てよ……待てって言ってんだよシスカーーーー!!?」
ひゅ~~~~~~~~~……、
それと同時に、どこからか笛のような高い音が響く。
何だ、この音は……?
ドンッドンッドンッドンッドン!!
突然爆弾が爆発したように大きい音が連続して続き、さっきまで真っ暗だった夜空が明るく照らされた。
「これは、爆弾……!?ぐぁっ!!」
まだ至近距離だった故、爆風で飛行が乱れてしまう。振り返ると眩しいほどの閃光があちらこちらに散らばり、その中にマリアが攻撃を受けているのがかろうじで確認することができた。
まさか、この星の人間がこんなものを用意していたのか!?いや、この星にそんなことをやれるわけが……。とにかく、お嬢様たちのいる場所まで戻ろう。




