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侵略者の夏やすみ  作者: 碓氷烏
第四話
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第四話5

気がつくと、俺は祭りの本部にあたるプレハブ小屋のベッドに横になっていた。

「ん、ぅん……」

「ミコトさん!!」

 目の前には浴衣姿のリディア、そしてみんなが心配そうに見ていた。

「よかったぁ!もう起きないのかもって心配しましたぁ!」

「大袈裟だよ。ちょっと緊張の糸が途切れて倒れただけだから」

 そう、駅の屋上でマリアの鞭の洗礼を受け、ドラゴンに喰われそうになり、そのままシスカと共に大空をジェットコースターのように飛び回り、地上に降りたと思えば急な三文芝居を繰り広げられる。普通の人間にこんなこと処理できる能力なんてあるわけがない。

「それより、悪かったな。俺の不注意のせいで折角の祭りの思い出作りに迷惑かけちゃって」

「いいえ、そんなことありません。ミコトさんが無事だっただけでそれだけで嬉しいです」

「まったく、アンタ本当にバカなんだから、少しは警戒心持って行動しなさいよね」

 と、由衣は少々怒り気味で俺に説教する。

「ああ、今度は気をつけるよ」

「な~んて言ってるけど、由衣のやつさっきまで「ミコト~~!ミコト~~!」ってすごい泣きじゃくってたんだから」

「ちょ!?何言ってんのよスギ!!」

 俺は堪えきれず笑ってしまった。よかった、本当に無事でいられて。

「それに、リディアも浴衣すごい似合ってるよ。それが見れただけでも生きててよかった……」

 そうだ、こんなところで俺は死ぬわけにはいかない。これから思う存分祭りを楽しむんだから!


 それから30分ぐらい経つと大分体は楽になり、俺たちは本部のプレハブ小屋を後にした。

 さすがにあの中でマリアの話をするのもまずいので祭りの中を歩きながらこれまでの経緯を説明した。

「はぁ!?アンタドラゴン相手に生き延びたっていうの!?」

「声でけえって。まっ俺にかかればあれぐら……」

「吹っ飛ばされて喰われそうになっていたのはどこの誰でしょうね」

 と、釘を刺すシスカに「うっ……」と言葉も出なかった。

「あれは彼女のペットのジーナだ。向こうでは敵の捜索と捕食をやっているが、普段は肩に乗れるぐらい小さくなっている。その時のジーナが愛くるしくてよくじゃれてたものだ」

 俺はその愛くるしいペットに何度も捕食されそうになったけどな……。

「確かにそんなものが人だかりのど真ん中に現れたら作戦が狂っちゃうよね。さっすがみこっちゃん」

「正直賭けだったよ。彼女がもしなりふり構わず襲ってきたら今頃……」

 想像するだけでも恐ろしい。そんなことが本当に起こったらパニック映画以上だろう。ただでさえマリアの宇宙的能力も十分危険因子だっていうのに……。

「そういえば何でマリアのヤツあんな急に成長してんだよ。前に会ったときは幼女だったのに」

「あれも彼女の特殊能力です。自分の身がバレないようにするのもありますが、大人の姿になると身体能力も上がるので。そうですね、あれは本気モードと言ってもいいですね……」

 一番わかりやすい表現だった。考えてみれば彼女のあの露出の多い服装、激しい動きにはバッチリの格好だ。彼女が大人モードで俺の前に現れたっていうことは、つまりそういうことだ……。

「わたしたち、どうなっちゃうんでしょうか……」

 ずっとポジティブが取り柄だったリディアにも表情が曇る。今のシスカの主である故、命を狙われる可能性も否定できない。けれど……、

「今は祭りだ!こんな時にそんなしょぼくれちゃ折角の楽しい思い出もできないだろ?俺たちにはリディアに思い出を作るっていう使命がある。だから今は思う存分楽しむぞ!」

 俺のその言葉についリディアとシスカは惚けてしまった。

「そうよ!お祭りなんだからこんな時に俯いてたってしょうがないわ!さあ!いっぱい遊ぶわよ~~!!」

 俺に続いて由衣も背伸びをしながら鬱々とした雰囲気をぶち壊す。

「皆さん……」

「だーいじょーぶ、何かあったらうちも助けるからさ。正義の味方、ダルーマン!!……なんてね」

 と、さっきのあのヒーローのポーズを取り冗談混じりに言う。すると二人は思わず「プフッ」と笑いがこぼれた。

「そうですね!折角こんなきれいな服を着てお祭りに来たんですから、わたしたちが楽しまないと!!」

 そんな俺らにシスカは呆気にとられていた。

「はぁ……まったく、あなたたちは本当に不思議な人たちですね。あんな目に遭っておきながらまったく怯えてないなんて」

「そりゃあドラゴンに追いかけられて怖くないって言ったら嘘になるよ。正直、今だって心臓がドクドク言ってる……」

 そう、どんなにポジティブに振る舞ってても本能は正直で、今でも手の震えは止まらない。

「それにこんな弱いところ、リディアに見せらんないだろ?」

 正直それはやせ我慢だ。今すぐどこかに隠れてやり過ごしたい気持ちでいっぱいだ。だがそんなことしても探られて命を狙われるのが関の山だ。

「そうですね。今はあなたの顔を立てることにしましょう。ただし、先ほどみたいにあなたを守りきれる保証はないこと、肝に銘じておいてください」

「わかってるよ、ヤバいと思ったらすぐ逃げる。もちろんリディアを守りながらね」

「それを聞けただけで十分です。ふふ、頼りにしてますよ」

 と、シスカはふっと笑みを漏らした。

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