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侵略者の夏やすみ  作者: 碓氷烏
第四話
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第四話4

「み、ミコト様……」

 そう、そこは祭りに合わせ歩行者天国となった道路のど真ん中にあったステージの上だった。

 幸い舞台転換中であったためステージ上には誰もいなかったものの、いきなり空から人が降りてきて周りがざわつかないわけがない。

「安心しろ。多分なんとかなる」

 そしてほどなくしてマリアが単体でステージの上に降り立った。さすがにこの場所にあのドラゴンが出てきたら街が混乱してしまう、彼女もそれを察したのだろう。

「できればこれで諦めてほしかったんだけどな……」

「フフン、アタシの執念舐めてもらっちゃ困るな。さあッ!民衆に晒されながら殺されるがいい!」

 と、改めて鞭を取り出しヒュンヒュンとしならせる。

「ホント、ヒーローものの悪役にピッタリだよ……」

 この光景、ただの男子と浴衣の女の子の前に現れた悪の軍団の女幹部と言ったところか。まわりの通行人も「なんだなんだ、ショーでも始まるのか?」と人だかりが出来始めていった。

 ならばこっちも全力でやるしかない。

「くそーワルワル団めっ!こんなところまで追ってくるなんて!このままじゃこの高崎祭りがワルワル団のものになってしまう!」

「わ……ワルワル団?」

 突然始まった俺の華麗なる棒読みの芝居に、そばにいたシスカがきょとんとしてしまっていた。

「よい子のみんな!このままでは高崎祭りがあのワルワル団に支配されてしまう!このお祭りを救うため、みんなの声援であのワルワル団を倒すんだ!」

 そう、正義と悪が屋外のステージに立つ。そんなシチュエーションと言ったらやることはもちろんヒーローショーしかない。俺は小さい頃にデパートの屋上で見たヒーローショーの記憶を何とか引っ張りだし、それっぽい演技をしてこの場を乗り切ろうと考えていた。幸いマリアのあの格好も悪役に見えなくはないし。

 これがヒーローショーだと納得した通行人たちはそれに呼応するように「がんばれー!」「負けるなー!」と声援が飛んでくる。ああ、こういうの幼稚園のお遊戯会以来だ。すごい癖になりそう。

「何を言ってるかわからないけど、これで存分に殺しあえるなっ!」

 マリアは俺にそんな猶予を与えてくれることなく、鞭を繰り出した。

「ミコト様、下がって!」

 シスカは俺の腕を引っ張り後ろに下がらせると、彼女の細剣で鞭を受け止めた。

「ヒャハハッ!」

 だがマリアは間髪入れず眼前まで一瞬で移動し、腹部に回し蹴りをお見舞いする。

「くっ……!?」

「シスカ!?」

「大丈夫です、少し不意をつかれただけですから」

 よろけながら体勢を整えるも、ダメージは大きかった。

「おいおい、こんなのでよろけるなんて平和ボケして力が鈍ってるんじゃないか?昔みたいなゾクゾクするぐらいの殺気はどこに置いてきたんだい?」

 と、拍子抜けしたようにため息を漏らすマリア。それもそうだ、シスカは今きっつきつの浴衣を着て動いているのだ。まともに張り合えるなんてほぼ不可能に近い。

「そうですね……、わたしに日常を教えてくれたお嬢様には感謝をしなければいけませんね」

「フフ……、アタシが丹誠込めて育てた駒がこんな弱っちくなるなんて。これはプライドを傷つけた罪であの娘にもきつ~い罰を与えなきゃ!いけないなあっ!」

 バチバチとマリアは怒り狂うように鞭を乱打する。防御することが精一杯のシスカは彼女の繰り出す鞭に身動きが取れないでいた。

「っ!?」

 突然攻撃が収まった。目を開けるとシスカの目の前には、

「ミコト様!?」

 シスカの前に立ち、マリアの鞭を受けるミコトの姿だった。

「女の子が攻撃されてるのに指くわえて見てらんないだろ……?」

「ですがっ!」

 カッコつけたはいいものの、正直ノープランでどうしたらいいかわからない。だって、こんな大勢の人が見てたら逃げ出すと思ってたんだもん……。

 なんてことシスカには言えず、今は黙って彼女の攻撃を堪えるしかなかった。

「そんなに死にたいならお前から殺してやるよ!」

 ダメだ、もう身体中が血だらけだ……。何か、何か突破できる策はないか!?

「そこまでだ!ワルワル団!!」

 えっ?

 突然ステージ横に置いてあるスピーカーからいかにもヒーローっぽい台詞が響く。続いていかにも登場シーンにありがちな勢いのあるBGMが流れ出すと俺たちの前に一人の男が現れた。

「えっ……誰?」

「高崎の平和は俺が守る!縁起ダルマの、ダルーマン!!」

 赤いヒーロースーツにダルマをかっこよくデザインしたようなマスク、間違いなくそれは戦隊物のヒーローだった。

「えっとあなたは……?」

 突然現れた謎のヒーローにシスカも動揺していた。そんな俺らをよそにダルーマンは、

「さあお嬢さんたち!今のうちに逃げるんだ!」

 と、いちいちポーズを決めていた。

「えっと、ありがとう正義のヒーローダルーマン!みんな!ダルーマンを応援してくれ!」

 俺もまた芝居を打ちここにいる客に応援するよう促す。ダルーマン目当ての客もいたのだろうか、すぐさま「行け~ダルーマーン!」「頑張れ~」と声援が飛んでくる。

「行くぞ!ダルーマンブレーーーード!」

 と、彼はカッコ良さげな形をした模造の剣を構え、一瞬でマリアの腹部に胴を入れる。

「かはっ!?」

 すごい、あれだけ隙がなかったマリアに攻撃するなんて……。

 そしてダルーマンは続けざまに攻撃を繰り出す。小手、次は右に胴、さらには突き、その動きはまさに剣道そのものだった。

「すごい……」

 隙のない太刀筋でしっかりと狙う。さっきまで恍惚の笑みを浮かべていたマリアが膝をつき表情を曇らせる。

「おかしな格好してるクセにやってくれるじゃない……」

「罪もない少年少女をいたぶり、この高崎の平和を脅かすワルワル団め。会場のみんな!もっともっとエネルギーを分けてほしい!この最後の必殺技、ダルーマンビームで星の彼方へぶっ飛ばしてやろう!!」

 と、ダルーマンなるヒーローは会場のお客さんを煽りながら奥の手である必殺技を繰り出そうとそれなりにポーズを取る。するとそれに合わせたようにスピーカーからキュインキュインキュインと何かエネルギーが溜まるような効果音が鳴り始めた。

「くっ、この星にそんな力があるなんて……、もう!覚えてなさいっ!!」

 本当にビームを打つと思ったのか、まるで悪党が退散するような捨て台詞を残してマリアは逃げていった。

「すげぇ……」

 正直ここまでうまくいくとは思わなかった。それにしても、突然現れた俺たちにこんなにも臨機応変に対応したこのダルーマンは一体何者なんだろう……。

 そんな俺たちをよそにダルーマンは最後まで観客に向かって演技を貫き、俺たちをテントのある袖に促しながら捌けていった。

「あ……ありがとうダルーマン、本当に助かったよ。それと悪いな、勝手にステージに上がっちまって……」

「まったく、急に空から降りてきた時はビビったよ。うちじゃなかったらこんなことできなかったからね」

 ん……うち?

 なにか聞き覚えあるフレーズに違和感を感じていると、彼はマスクを外した。

「おまっ!?」

「スギッ!?」

 そう、ダルーマンの正体、それはスギだったのだ。

「お前が言ってた野暮用って……」

「そう、本来うちの叔父がやる予定だったんだけど体調崩しちゃってね。代わりに急遽うちがやることになったってわけ」

 そういえばスギの叔父は役所関係の仕事をしていた。まさかこんなスーツアクターまでするとは、公務員も大変だな……。

「しかし、あれほど剣が得意だったとは……」

「コイツ、中学生の頃地元の剣術道場で習ってたんだよ。確か、馬庭念流だっけ……?」

 そう、スギは関西から帰ってきた時から地元に伝わる剣術道場で剣道を習っていたのだ。もっともやっているって話を聞いただけで、まさかあのマリアを撃退するほどの腕前だったとは……。

「ああ、まだ腕が落ちてなくてよかったよ。おかげで明日も使うこの剣もボロボロになっちゃったけどね……。とにかく、二人が無事でよかった。シスカちゃんも、その……浴衣、すごいかわいいよ」

 と、スギは少し照れながらシスカの浴衣姿を褒めた。

「ありがとう……、ございます。わたし、こういうの初めてで、似合うかどうか心配で」

 シスカもシスカで急に照れ始め、普段では見ない恥ずかしそうな表情を浮かべていた。

 おや、これ俺お邪魔ものかな……?ならここは大人しく退散でも……。

「あれ……?」

 テントから出ようとカーテンを開けると、突然俺の足に力がなくなりうつ伏せでそのまま倒れてしまった。

「ミコっちゃん!?」

「ミコト様!?」

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