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侵略者の夏やすみ  作者: 碓氷烏
第四話
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第四話3

「くそっ!?」

 それでも俺はなんとか彼女から逃げ続ける。エレベーターのある入り口に逃げ込みたいが既にドラゴンによって塞がれているので、仕方なく真逆の方に逃げるしかなかった。

「次は追いかけっこかい?じゃあこの子も一緒に遊んでくれよ!!」

 と、マリアは颯爽とドラゴンに跨がると、巨大な羽を広げて飛翔した。

「あああああもう!!」

 くそ、あんな宇宙的な武器とドラゴン相手にただの地球人が勝てるわけないだろ!?

 それでも一般人相手にドラゴンライダーさんは容赦なく風を巻き上げながら追いかける。昔屋上遊園地だっただけあって敷地は広大で、ドラゴンで戦うにはもってこいの場所だ。

「ほらほら、もっと速く走らないとこの子に食べられちゃうぞ~?」

 振り向かなくてもドラゴンの興奮した呼吸音と翼の風圧が感じる。こんなの相手に俺の足じゃ簡単に追いつかれることぐらい理解してる。ならばと俺はすぐに目の前にある機械室の階段の下に潜り込んだ。鉄板でできているため、下が空いていたのが唯一の救いだった。あんな巨体相手、狭いところに入れば少しは鈍るだろうがどれぐらい時間を稼げるかわからない。

「ダメじゃないか、レディーからのダンスのお誘いを断っちゃ」

 ドラゴンの入れない隙間に入り込まれてマリアは膨れっ面になる。

「はぁ……はぁ……。悪いが、授業でもダンスはそんな得意じゃないんでね……」

「まったく、そんなんじゃ女の子に嫌われちゃうぞ!男ならもっと頑張らないとっ!」

 そんなもん男も女も関係ないだろ。とにかく何か策を練らないと……。

 隙間に目を向ければフーフーと鼻息を立てながらドラゴンが顔をねじ込もうとしている。コイツに時間が取れてもマリアが直接降りて来れば何の意味もない。はっきり言って万事休すに変わりはない。

「……ったく、まさかこんな人の多いお祭りの日に襲ってくるなんてな。それに駅の屋上とかよく選んだもんだよ」

「ふっふっふ、お前のためにこの星のこと色々調べてたのさ。どうだい、このアタシの完璧な作戦は?」

「完璧だよ。それにまさか大人の姿に変えて、おまけにドラゴンとか……。ホント、宇宙人てのはなんでもありだな」

「そう、アタシは使命のためならあらゆる特殊能力も惜しみなく使うのさ!」

 シスカの言った通りやはり彼女は多くの特殊能力を使えるみたいだ。

「つまり、何の能力もない地球人の俺に勝ち目なんて最初からないってことか」

「フフ、仮に能力があったところで勝ち目なんて元からないけどな?」

 ちょっとイラッとするが正論を言われ、ぐうの音も出ない。ならばこれ以上隠れ続けるのも無駄だろう。

「ほう?」

 俺はドラゴンとは反対側の出口から出ていき、ぐっと拳を握りながらマリアの真正面に躍り出た。

 マリアはドラゴンの首を軽くなぞると、俺の方に向き直した。

「おやおやぁ、怖くなってもう命乞いですかぁ?足なんて震えちゃってカワイイでちゅねぇ?」

 と、無意識に恐怖で震えている俺の足を見てマリアはうっとりとした顔で覗きこむ。

「な、なぁ……。どうせ殺されるんなら冥土の土産にお前らの話ぐらい聞かせてくれないか?」

「あら?命乞いするかと思ったら随分面白いこと言うんだな。まぁ、死ねば証拠なんて残らないし構わないわ」

「ありがとよ。それで、俺を殺したらアイツらはどうなるんだ?」

「そうだな、せっかくここまで追いかけて来たんだ。あの新しい主人を目の前でなぶり殺して絶望させてからシスカを殺すとするわ。あのリディアって娘、この鞭で叩いたらどんな悲鳴を上げるだろうなぁ?フッフッフ……」

 と、彼女は手に持っている鞭を舐めながら興奮気味に答える。

「ホント悪趣味な女だな……。どうしてこんなところまで来てシスカを殺そうとする!」

「言ったはずだ、アタシは完璧主義者だって。自分の不始末は自分の手でやるのがルール。だから例えあの娘がどこへ逃げようとアタシはどこまでも追い続けるんだよ!」

 自分の落とし前のために違う星だろうと労力を厭わないってことか、結構な話だ。

「そうかい、お前の執念はよく伝わったよ。だったら、余計ここで死ぬわけにはいかなくなったな」

「この期に及んでまだアタシに勝てると思ってるのかい?いいだろう、お望み通りこの子の餌になりな!!」

「っ!?」

 それはまさに一瞬のことだった。襲いかかるドラゴンの口が俺の腕をくわえると勢いよく上空へとぶん投げる。あまりの遠心力に脳がどこかへ飛ぶんじゃないかと思うぐらいで、気が付けば俺の体は近くのタワーマンションよりも高く上がっていた。

「ぅぅぅっっ!?」

 苦しくて声すらも上げられない。俺の体は重力に引っ張られて下降していき下を見るとドラゴンが大きな口を開けて待っている。

「くっそ……!?」

 その背中に跨がるマリアも俺を見つめながら不敵な笑顔を浮かべていた。くそっ、こんなんで俺の人生終わってたまるかよ!?

 バサッ。

 その時、翼の生えた何者かが俺の体を掴み一気に飛翔した。

「っ!?」

 突如現れた翼の生えた人物、シスカにマリアは目を疑った。

「ご無事ですか、ミコト様」

「あぁ……、ナイスタイミングだよシスカ」

 そう、俺はあの階段の陰に隠れている間由衣の携帯に電話を入れ、連絡を悟られぬようマリアと会話をしながら駅の屋上にいること、マリアに遭遇していることを伝えていた。正直これで伝わるかどうかは賭けに近かったが、スピーカーからシスカの「10分で行けます。それまで耐えてください」という言葉を聞き、なんとかこれまで時間稼ぎをしていたのだ。

「まさかジーナまで連れてくるとは……。これはあまりよろしくありませんね」

 ジーナとはあのドラゴンのことだろう。相手を知っている故、さすがにシスカもこの状況は不利に感じているのだろう。

「シスカ……、会いたかったぁ……」

 マリアは突然現れた標的に嬉しさを隠しきれず、最大の笑みを浮かべていた。これから殺すことができるという欲望の塊のようなそんな笑みが。

「出来ればわたしは貴方に会いたくなかったですけどね……」

「そんなこと言わないで遊んでくれよぉ!!」

 彼女は勢いよくジーナの腹部を蹴り、一気に飛翔する。俺を抱え両手が塞がっているシスカは仕方なくその場から逃げることにした。

「お前も追いかけっこかい?いいぞ、でもあまりがっかりさせないでくれよぉ!」

「くっ……」

 シスカは小回りが利くもののスピードに関してはジーナの方が上だった。ギリギリまで迫られては急旋回してかわし、さらにマリアの繰り出す鞭に何度も掠めながら逃げ続けた。

「大丈夫かシスカ!?」

「ご心配なく。ですがこれがいつまでもつか……」

「…………そうか」

 確かに闇雲に飛び続けて逃げきれる確率はかなり少ない。ましてこのまま続けばいずれ人に気づかれ大騒ぎに……。

「ミコト様?」

 それもアリか……。

「シスカ、あの場所に降りてくれ!」

「えっ!?でもそんなことをしたらパニックに!?」

「いいから信じろ!今はこれしか方法がない!」

「……わかりました。後はあなたにお任せします」

 そしてシスカは俺の指示した場所に向かって勢いよく降下する。

「ほぉ?そうきたか……」

 二人がある方向に急降下すると、マリアは追尾をやめ上空から様子を見ることにした。

 シスカは地上に降りる直前で羽を仕舞い、カタッと草履の音を立てながら降り立つと、一瞬で周りの視線を集めることになった。

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