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侵略者の夏やすみ  作者: 碓氷烏
第四話
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第四話1

 八月の最初の土日、高崎の市街地では毎年恒例の高崎祭りが開催される。ねぷたまつりとか三社祭などテレビで紹介されるほど有名な訳ではないが、市内各地の大きな山車が街中を練り歩く光景は圧巻で、その周辺で太鼓や笛の音色が響き、年数は浅いものの立派な夏の風物詩となっている。また、日が暮れると市街地に近い河川敷から一万発の花火が打ち上がり、この日は一日中大いに賑わうのである。

「あぢ~~~……」

 俺はというと、朝からいつも通りうだるような暑さにやられ、うちでぐだ~~っととろけそうになっていた。宇宙人組はというと、朝から突然訪問してきた由衣に連れて行かれどっかに行ってしまった。まぁ午前中には戻ってくるって言ってたから心配することはないだろう。

「さてっと、ホントどうしたもんかね……」

 あの日から俺はずっと悩んでいた。あの後シスカから与えられたマリアに関しての情報、彼女に失敗という文字がないこと。彼女一人でこの星に来るはずがないということ。そして、俺たちのこの会話もどこかで監視されているということ。

「こんなの、打つ手ないじゃないかよ……」

 俺だってあれだけ地球人離れした戦闘能力を見せつけられて何も策を考えないわけがない。のうのうと生きてたらあっという間に消されるのが関の山だ。

 だがどうしろと?マリアに直接交渉してみる?俺たちに構うのやめてくださいって?

「それで済んだらどんだけ楽だろうな……」

 とりあえず、当分は外を歩くときは誰かと一緒に動いた方が安全だな。それと人混みの中。人の目につくようなシチュエーションなら暗殺を生業とする彼女も無闇に動くことはないだろう。俺にはリディアたちに地球のステキな思い出を作るという使命があるからな。

「まっ、お祭りはお昼からだからアイツらが帰ってきたら出かけるか」

 と、部屋を出ようとしたところで携帯にメールが二件入っていた。由衣とスギだ。

『ゴメン!二人に似合う着物選んでるんだけど中々決まらないから駅で集合しよっ!』

『みこっちゃん、ちょっと野暮用ができたから現地集合でいい??』

 一緒で行動しようって言った傍からこれか……、まあいい。少しぐらいなら問題ないだろう。

『りょーかい。じゃあ二時に西口の二階コンコースに集合な』

 と、二人にメールを送り俺は出掛ける準備をした。


「ミコトさんにですか?」

「ん?うん、わたしたち時間かかるからあっちで集まろうって」

 早朝、百合崎邸にリディアとシスカを連れ込んだ由衣はお祭りに向けて二人に浴衣を着付けていた。ただ、中々しっくりくる浴衣が見つからず、思いの外時間がかかってしまったのでミコトにメールを送っていた。

「お祭りですかぁ。この星でもそういう文化があるんですね」

「リディアちゃんたちの星にもお祭りってやってるの?」

「わたしはスクールから出たことがないのでスクールのお祭りしか見たことないんですけど、生徒たちで出店を開いたり、それぞれの特殊能力を披露したり、研究の発表をしたりと色んなことをやるんですよ。特に卒業した先輩たちの惑星レポートは面白かったなぁ」

「ふ~ん、そっちでも文化祭みたいのってあるのね。ずっと宇宙人ってわたしたちの想像を遙かに越えたことしてるかと思ってたけど、案外地球と似てるみたいで親近感持っちゃった」

 実際そのスクールではどんな感じでやってるか想像つかないけど、聞く限りやってることは日本の学校の文化祭と変わらないみたいだ。クラスで出し物したり出店をやったり。もしもリディアちゃんがうちの学校の生徒になったらどれだけ楽しいだろうな。なんて、由衣はつい思ってしまった。

「ところで、この服は一体なんでしょうか?この星に来てからあまり見慣れないものなんですが」

 と、先に着付けを終えたシスカが少し窮屈そうにしながら浴衣をまじまじと見ていた。

「これは浴衣って言って、この国の夏の伝統衣装なの。……ってリディアちゃんの星に季節はないかな」

「浴衣……胸の所が少し窮屈ですがこのきれいな柄、フフッ悪くはないですね」

 シスカは袖を振りつつまじまじと自分の浴衣の柄を眺める。薄い水色の生地に朝顔をあしらった模様は清楚で落ち着いた雰囲気を醸し出している。

「そっ、良かった気に入ってくれて。まったく、二人ともナイスバディなんだから帯締めるのも一苦労よ。わたしなんてあっさり巻けちゃうのに……」

 と、由衣は目線を下に落とし、深いため息をつく。

「由衣さん?」

「ああもう妬ましい!アンタたちどう成長したらそんなになるのよ!!このっこのっ!!」

 と、由衣は二人のこの悩ましいボディに嫉妬してリディアの胸を揉みしだいた。

「なんでそうなるんですかぁ!?やめてください~~!」

「……ふぅ。やっぱりリディアちゃんの胸は日本人にない柔らかさがぎっしり詰まってるからいいのよねぇ。さてと、これでよしっ!どう?苦しくない?」

 リディアは少しへたりながらも浴衣をまじまじと眺めていた。

「すごい……すごいかわいいです由衣さんっ!」

 紺色の生地に大きなひまわりをあしらった浴衣にリディアはくるくる回りながらはしゃいでいた。

「じゃあ、準備もできたことだし、わたしたちもそろそろ行きましょ」

「えっ、由衣さんも浴衣着ないんですか?」

「わたしはいいの。リディアちゃんたちと並んだらわたしなんて霞んじゃうし」

「そんなことありません!だって由衣さんこんなにかわいいのにもったいないです!」

 と、リディアは由衣の手をぎゅっと握りながら強く訴える。そんな彼女の真剣な眼差しに気圧された由衣は耐えきれず、

「わ、わかった!わかったから!もう、わたしが男だったらコロッとやられちゃうわ……」

 そして由衣はタンスからもう一着の浴衣を出し、手慣れたように着付けを始めた。その様子を二人はジ~~ッと眺めている。

「あの……、二人して見つめられるとやりにくいんだけど……」

「いえ、気になさらず。どうやってこの服を着ているのか学びたいので」

「あの、わたしは由衣さんがいつからミコトさんのこと好きなのかなぁって」

 シスカの勉強熱心なところはともかく、リディアのド直球な質問につい目が点になっていた。

「…………はい?」

 突拍子もない質問に締め付けていた帯が落ちるとすぐ拾い上げ、改めて締め直した。

「んっと、どうして急にそんなこと……」

「わたしがもっと由衣さんを知りたいと思ったからですっ!……だ、ダメですか?」

 リディアの相変わらず真剣なのか天然なのかわからない問いかけに由衣は一瞬答えを出しそうになったがギリギリで飲み込み、

「だ~~め。わたしの恋のライバルにそんな簡単に教えませ~~ん」

「え~~!教えてくださいよ~~!?」

「ほら、わたしも準備できたことだしそろそろ行くわよ!」

「そんなぁ~~……」

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