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侵略者の夏やすみ  作者: 碓氷烏
第三話
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第三話5

「なるほどね、要するにリディアは昔っから変わりもんだったってことか」

「なんでですか~!?そりゃあ、怖いもの知らずってレナによく言われますが」

 ルームメイトのレナ、君も相当苦労していたんだな……。

「それで、晴れてシスカちゃんがいた組織に狙われるきっかけがわかったところで、これからどうするつもり?」

「どうするも何も、普通に過ごすしかないだろ」

「え?」

 その場の皆が声を揃えて俺に注目した。

「だって相手はここより遙かに技術が発展した世界の悪党だぜ?それに引き替え俺たちは銃なんて持ってないし、ましてやおまえたちみたいに超能力なんてない。だったら、普通に過ごす。その時が来たらその時」

「み……ミコト様、それはいくらなんでも無責任じゃ…………」

「誰が殺されればいいって言った。そんなの普通じゃないだろ?」

「じゃあ……」

「前にリディア言ってただろ。この星でもしものことがあったらそのミカドの力でこの星ごと破壊されるって。だからあっちも迂闊に手は出せないはずだ。だから普通に過ごす」

 正直これは確証のない話だ。ミカドが危険だと判断しなければそれまでだし、マリアもそれを承知で向かってくる可能性だってある。だが今の俺たちにはそうするしかないのだ。

「確かにそうかもしれませんね。ですがミコト様、わたしに万が一のことがあったときは真っ先にお嬢様を連れて逃げてください。それがあなたの唯一の役目です」

「わかってるよ」

「ちょっと~、わたしたちも仲間外れにしちゃ困るんですけど!」

「そうそう、うちにもシスカちゃんを守るっていう使命があるんだから、絶対に死なせないからね」

「みなさん……」

「ということだ。俺たちは何も変わらずに過ごす!異論はないな!」

 こうして、俺たちは何があっても普通に過ごすという意思表示を決めたのだった。

「じゃあじゃあ!次はどんな思い出を作りますか!」

 と、リディアはキラキラした目で俺に寄ってくる。次のイベント、そういえばもうすぐ……、

「お祭りか」


 シスカとの話には続きがあり、どうして彼女がメイドという道を選択したのかについてリディアが話してくれた。


 それはシスカがわたしたちの部屋に居候することが決まって数日、怪我もほぼ完治してきた頃の話です。

「ふむ、大分良くなったようだ。ありがとう二人とも」

 救護ポットで治療し続け、シスカの体はあの日よりも回復し、手足の痛みもなくなっていました。

「そういえばアンタ、まさかあの服でこれから過ごすつもりじゃないでしょうね?」

 あの服とはシスカが初めて現れたときに着ていたあのボロボロの服のことでした。

「ん?何か問題でもあるのか」

「大アリよ!あんな格好でうろちょろされたらそうですわたしが不審者です!って言ってるようなものよ」

「確かに、あのままで歩かれると研究室に着く前に捕まってしまいますね……」

 そこでよ、とレナはクローゼットに向かうとある服を取りだしてわたしたちに見せたのです。

「それって……」

 わたしたちに見せつけたのは以前スクールのイベントの時にカフェで使われたフリフリのメイド服でした。レナは服を作るのが得意で、その時はクラスメート全員分の衣装を作っていて、これはわたし用に作られたものでした。

「かわいい……」

 えっ?

 聞き間違いかな……、振り返るとシスカはキラキラした目でメイド服を眺めていたのです。

 もしかしてシスカって……。

 この反応にレナも気付かないわけがなく、何かをひらめいたようにニヤリと一瞬笑みを浮かべました。

「シスカにはこの部屋のメイドを務めてもらうわ!」

「メイド……?メイドとは何だ?」

「メイドって言うのは主人のために部屋を掃除したり食事を準備したりするお手伝いさんのことですよ。これはそのために着る大事な服なんです」

「お手伝い……、こやつにか?」

 と、しらけた目でレナを指さす。

「ちょっと~~!何よその嫌そうな目!せっかくわたしがいいアイディア出してあげてるのにぃ!」

「わたしは別に何も言っていないぞ。ただお前に尽くすのは何となく嫌と思ってただけだぞ」

「そのままじゃないっ!」

「だが、その……着たくないわけでもない」

 わたしたちはその一言を待っていましたと言わんばかりにアイコンタクトをすると、一斉に彼女に飛びついて着替えを敢行したのです。

「なっなにをする!?お前ら!あっ……」

 そして数十分後、ボロボロだった状態から一気にメイドに変貌した彼女の姿にわたしたちはつい見とれてしまいました。元々シスカはスタイルがよく、引き締まっているのでかわいらしいといいうよりデキるメイドさんという感じでした。

「これが、わたしか……」

 シスカも普段こんな服を着たことがなかったのでしょうか、鏡に映る自分の姿に目がキラキラと輝いていました。

「気に入ってもらえましたか?」

「ああっ!ありがとうリディア!なんだか生まれ変わったみたいだ!」

 と、心の底から嬉しそうな表情でわたしの手をぎゅっと握ると、傍らにいたレナは何か不満そうな顔をしていました。

「まだなにか足りないのよね……」

「なにがだ?レナ」

「それよ!わたしたちのメイドなんだから主人に対しては敬語!そして『お嬢様』!」

「ちょ、ちょっとレナ!それはいくらなんでも……」

「なるほど、確かにそうでなくては雰囲気が出ないというものだな。リディアお嬢様、下僕、これからもどうぞよろしくお願いします」

 と、シスカは恭しくお辞儀をすると、今まで以上に優しい表情で微笑んでくれたのでした。

「ねえ、今さらっとわたしのこと下僕とか言わなかった?ねえ、ちょっと!?」

 それからシスカのメイドとしての成長は目覚ましく、それはまるで鎖から解放されたようでした。


「あの頃は珍しく気分が高揚してまして、今考えるとお恥ずかしい……」

「そうですか?わたしはシスカの素顔が見れて嬉しかったですよ。あの後一人でスカートをくるくる翻してはしゃいでたことも」

「やめてください!」

 ホント、この二人は仲がいいんだな。それにしても、レナって最後まで不憫なヤツ……。

「でも、あなたのメイドになれたこと、今でも嬉しく思ってますよ」

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