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侵略者の夏やすみ  作者: 碓氷烏
第三話
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第三話4

 翌日、わたしたちはシスカを部屋に残し、彼女を匿う方法を探しに出かけました。「アイツ一人残して大丈夫なの?」とレナに言われましたけど、大丈夫です!って押し通してきました。スクールもあれ以降侵入者の姿を確認していないので、外に逃げたのだろうと事態は既に収束していました。

「騒ぎが落ち着いてるのはいいんだけど解決策出さなくちゃ意味ないんだよね……。リディア、アンタ何か思いつかないの?」

「ごめんなさい、まだわたしも思いつかなくて……。この際ずっと部屋で匿っちゃいましょうか」

「却下。教師に入られて見つかったらわたしたち停学じゃ済まないわよ。卒業まで匿えられるわけないじゃない」

 確かに見つかったらいけないし、それがこの先ずっとできるはずもない。でもわたしはあの人にもう苦しい思いはさせたくない。誰からも逃げ続けるような人生を送らせたくない。

 こんな願い、やっぱりわがままなんでしょうか……。

「ねえ、ちょっとこれ見て」

 すると、レナはスクールにある掲示板に目が止まりました。

『教師のサポート人員募集のお知らせ』

「先生のサポート?でもそんなことしたら捕まっちゃうんじゃ……」

「ここここ、よ~く見て」

 と、レナが指さした先に書いてあった先生の名前、それを見た瞬間わたしでもピンと来ました。

「レナ……これです!!」


 そしてわたしたちは、そのサポートを募集している先生の研究室まで行くことにしました。先生の名前はクラウド、化学の授業を担当していて授業の内容についてはとてもわかりやすいのですが、普段から髪はぼさぼさでいつも気だるそうな目をしていて、何を考えてるのかわからないその風貌にみんな距離を置いていたのです。わたしも、あの先生は少し苦手でした……。

「どうせあの教師、まわりのことなんて全然興味なさそうだから今回の騒動なんて知らないに決まってるわ。適当に説明してサポートって正式に認めちゃえばシスカもまわりを気にせずに歩けることができる!」

「でも、そんなうまく行けるでしょうか……」

「ダメだったらその時はその時よ。また別の方法を考えればいいじゃない。すいませ~~ん」

 と、レナは間髪入れず部屋のインターホンを押すと返事は先生の声ではなく、ど~んという爆発とともに吹っ飛んできたドアでした。

「……え?」

 何が起きたのか、整理するのにわたしたちは5秒ほど時間を要しました。あれ、わたしたち間違えて起爆スイッチ押しちゃったんだっけ?ここ研究室だよね?などと考えているうちに煙の奥から一人の影が見えてきました。

「……これも失敗か、わたしの論理では間違いがないはずだが。おまえたち、ここでなにをしている」

「それはこっちのセリフですよ!先生こそ何してるんですか!?」

「わたしはただ研究に失敗して爆発しただけだ。それ以外に何に見える?」

「……はぁ、聞いたわたしがバカだった」

 この人がそのクラウド先生。ボサボサ頭がさらにボサボサになり、会話の通りまわりの心配など一切気にせず研究に没頭する一癖も二癖もある先生です。

「あの、先生。校内の掲示板にサポートを募集してるってありましたよね。あの募集ってまだやってますか?」

「ん、あああれか。まだ募集しているが、おまえたちがやってくれるのか?」

「そんな物好きなヤツがどこに……いえ、友人で仕事が欲しいって人がいて紹介しようと思って」

「ほう、してその物好きな友人とやらはどこに?」

「それなんですけど、ちょっとわたしたちの部屋に来てもらえますか?」

 と、わたしは自分の能力である瞬間移動を使い先生をわたしたちの部屋に転送しました。

「きみたちが言ってた紹介したい人とは彼女のことか?」

 半ば強制的に連れてかれて、動揺するかと思いましたが先生は至って冷静で、わたしのベッドで眠っているシスカをまじまじと見つめていました。

「そうよ、わたしの友人で職を探してたの。この前ちょっと足を滑らして怪我しちゃったから、代わりにわたしたちが先生に頼みに来たってわけ」

「なるほどな……」

 友人がわたしたちの部屋で怪我の治療してるということに特に気にすることはなく、先生は何か納得している様子でした。

「レナ、ホントに大丈夫なんでしょうか?このまま警察に連行されたりとか……」

「その時は先生を拉致するわ。バレたら全部水の泡だし……。ちょっと鎌を掛けてみる」

 そうレナが耳打ちをするとそっと先生に近づき、

「そういえば~、この前騒いでた侵入者ってどうなったの?外に逃げたって言ってたけど」

「侵入者?何の話だ」

 予想は的中しました。やはり先生はあの騒ぎのことには全然知ることはなく、研究に没頭していたみたいです。

「あっ知らないんならいいんです~~おほほほほ……」

 レナの少し不自然な笑みに不気味がりながらも先生はまた何か考えていました。

「セーーフ!やっぱりあの先生シスカのこと知らないみたい!!」

「よかったぁ!これで何とか大丈夫そうですね!」

「ところで、君たちとこの娘はどういう繋がりかね。スクールの関係者でない人間がどうしてここにいる?」

「それは……」

 突発的に考えた嘘なのでわたしたちもそこまで頭がまわることはできませんでした。このスクールは外部とはほぼシャットアウトされていて、私たち生徒たちは今まで一歩も外に出たことがないのです。そんなわたしたちに外の友人なんて当然いるはずがないのです。

「ご、ごめんなさい!実はこの人は外から来た侵入者なんです!」

「リディアあんた!?」

「この人、大怪我をしたままわたしたちの部屋に逃げ込んできてわたしが治療のために匿ったんです!シスカは組織から追われていて、この人を救いたいと思ったんです!この人に平穏な日々を送らせたいって思ったんです!それで先生のお手伝いとして働けば疑われることはないと思って……先生、騙すようなことしてすみません」

 言ってしまった……。

 わたしは全てを打ち明けてとても後悔してしまいました。せっかくレナが取り繕ってくれた嘘も全部水の泡にしてしまった……。

 わたしが冷静を取り戻して俯いていると、先生はわたしの頭を優しく撫でてくれました。

「そうか、では君はこの娘の命を救った。良いことをしたというわけだな」

「えっ……?」

 先生の返答は予想外のものでした。わたしのしてきたことは良いこと……。

「君は目の前で怪我している人間を助けてあげたのだ。何故それを恥じる必要がある?」

「だってこの人はアズールの!?」

「アズール……すまない、わたしは研究以外の情報には疎いのでその名前の意味がわからないのだが、彼女はもうその組織を抜け出しているのだろう?」

 そうでした。先生は他のことには本当に興味ない人間なので組織の名前を聞いてもピンときていませんでした。

「では、この娘……シスカと言ったか。シスカをわたしのサポーターとして迎えるとしよう。他の教師にはわたしの遠い親戚と言っておく。ついでに君たちの部屋に住めるよう手続きもしておく」

「え……えっ?」

 わたしたちはあまりにも予想外すぎる回答に思考が追いついていませんでした。つまり、これって……、

「やったじゃんリディア!!」

「えっあ、ありがとうございまふ!?」

 わたしはあわあわと気が動転してしまい、肝心なとこで噛んでしまいました。

「どうやら話はまとまったようだな」

「シスカ!」

 ずっと眠っていたシスカが目を覚まし、上体を起こして周りを見渡すと、

「ふむ、貴様がわたしの雇い主か。話は聞いているだろうが、わたしはアズールという組織で暗殺を行っていた。そしてミッションを果たせなかったためにこうして逃げ延びてきた。いいのか、いつ裏切るかもわからないぞ」

「構わん。わたしを殺したところで君には何のメリットもないだろう?」

 「それもそうだな」と笑うと、シスカはゆっくりと頭を垂れました。

「クラウドと言ったか、どうかよろしく頼む」

「言っておくが、何が起きても責任は取らないからそのつもりでいるように」

 その言葉にわたしとレナの脳裏にはさっきの爆発が浮かび上がりました。そんなことなど知るはずもなく、シスカは一人首を傾げていたのです。

「とにかく、これで契約成立だ。改めて君を歓迎しよう。怪我が治り次第わたしの研究室に来るように」

 先生はそう言い残すと無愛想に部屋を後にしました。

 残されたわたしたちはお互い顔を見合わせ、

「「やったああああああ!!」」

 とシスカに向かって飛びつきました。

「こ、こら。わたしはまだ傷が……」

「よかったです!ホントによかったです!!」

「ありがとうリディア……。こんなに真剣になってわたしを助けてくれて」

「ちょっと~~!わたしがあの掲示板見つけたんだからわたしも褒めてよ~~!」

「はいはい、レナもありがとう」

「ふっふ~~ん、それでよろしい!」

 そうして、わたしたちとシスカは晴れて一緒に住むことを許されたのです。

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