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侵略者の夏やすみ  作者: 碓氷烏
第三話
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第三話2

「この期に及んで隠す必要もありません。わたしがこれまでやってきたこと、全てお話しします」

 朝食を終えた後、二人は俺たちを母さんの部屋に呼んだ。どっから聞きつけたのか、いつの間にか由衣も部屋に紛れ込んでちょこんと座り込んでいた(まぁ特に問題はないが)。

「マリアの言っていた通り、わたしは暗殺組織『アズール』で先鋒を担っていました。先の内戦で孤児となっていたわたしに「この狂った世界を壊さないか」と手を差し伸べたマリアに報いようと迷いなく役割を全うしていました」

「内戦?」

「昔ミカド……あっ私たちの星タルーヴァの中央政府のことですね、わたしが小さい頃、当時の王を倒そうと部下がクーデターを起こしたんです。わたしはあまり覚えていないんですがその頃の王は圧政を強いていたようで……」

 と、リディアはコンピュータから彼女の故郷タルーヴァという星のホログラムを映し出した。宇宙でもそういう問題が起きているのか……。そしてその内戦の混乱でシスカは孤児になり、マリアと出会ったわけか。

「アズールは現政権に対し反旗を翻すために結成された組織で、権力ある者、クーデターに加担した者を主に抹殺してきました。もちろん、その家族もろとも。もう、何人殺したかなんて数えるのも忘れてしまいました……」

 確かにシスカのどす黒い羽の色を見て理解が出来る。いかに彼女が容赦なく暗殺を行ってきたか、俺も校舎であんな必殺技を目の当たりにしたからよくわかる。

「そもそもそれをまとめているマリアって何者なんだ。あんな幼女が組織を統轄するなんて普通じゃ考えられないだろ」

「確かに我々の前に現れた時は幼女の体型ですが、彼女は特殊能力によって体型を自在に変えることが出来るんです。お嬢様には瞬間移動、わたしには羽を持っているように我々には一人一つずつ特殊能力が付与されるのです。ただ、彼女は数えきれないほどの能力を持っていて、いくつあるのかわたしにも見当がつきません……」

 確かに江ノ島の時、一瞬で道路の向こう側から目の前に現れた。体型が変えられる上に瞬間移動も使えて、さらにはあの蛇みたいに生きているような鞭もきっと特殊能力の一つだろう。こんなの、何の武器も持っていない一般的地球人の俺たちがいきなりラスボス戦に挑むようなことぐらい馬鹿げている。

「特殊能力付け放題って、それじゃもう為すすべなしじゃねえか……」

「彼女が何故そのような複数の能力を持つことができ、アズールという組織を作ったのか、本当を言うとわたしにもわからないところが多いんです。マリアには秘密が多すぎるんです……」

「メンバーにも内情を語らないなんて、どんだけガードきついリーダーだよ」

「それでも、わたしはマリアについて行きました。何もせずに孤児のまま死ぬよりはマシですからね」

 内戦の状態で生き残るために他に選択肢はなかったわけか。

「んで、そんな忠誠心強かったお前がそのアズールを抜け出すことになったんだ?」

 一番の本題はそれだ。命の恩人であるはずの主に何故シスカは裏切ってしまったのか。

「わたしがしくじったばかりに計画が失敗してしまった。それだけです」

「それだけで……、組織を追われることになるのか?」

「彼女は完璧主義ですので、失敗すれば切り捨てます。それがアズールのルールですから」

 まるでヤクザの落とし前みたいなやり方だ。一回の失敗でそれはやりすぎ……、という生易しい話は通用しなさそうだ。

「ねえねえ!それでリディアちゃんとはどんな感じで出会ったの?」

 由衣が喰い気味に問いかける。元暗殺者と汚れない少女、決して会うことのない二人がいかにして出会ったのか。

「それについてはわたしが話しますね」

 と、いつになく神妙な面もちでリディアが口を開く。


 それは、わたしがスクールの課題でこの星へ出発する数年前の話。

 ミカドの方針で全ての子供は生まれてからすぐスクールという施設に預けられており、わたしも外の世界に希望を抱きながらスクールで生活していました。

「ねぇねぇ、スクールを卒業したらリディアはどうするの?」

 わたしのルームメイト、レナ。小さい頃からこのスクールの寮で一緒に暮らしていて普段からぼぉっとしてるわたしをいつもフォローしてくれました。

「う~ん、まだ決まってないですけど、誰かの役に立つ人になりたいです」

「いつもぼぉ~っとしてるアンタが?アンタの場合役に立つんじゃなくて保護されちゃうんじゃない?」

「もうっ!わたしは真剣に考えてるんです!」

「はいはいわかったわかった。今日もリディアはかわいいですね~」

 なんて、他愛もない話で盛り上がっていたとき……、

「なんかやけに外騒がしくない?」

 レナに言われて初めて部屋の外が騒がしいことに気付きました。ドアを開けると先生たちがバタバタと廊下を走っていて、わたしでもそれが只事ではない状況だということが理解できました。

「どうしたんですか?」

「ああ二人とも!スクールに侵入者が入ったから部屋から出ないように!」

 そう言い残すと先生は他の部屋に向かっていきました。

「侵入者だって!面白そうじゃない!!リディア、わたしたちも探しに行きましょっ!」

「ええ~~!?先生が部屋から出ないようにって……」

「大丈夫よ。やばかったらすぐ逃げればいいんだし」

「そういう問題じゃあ……」

「いいわよ、じゃあわたしだけでも探しに行くわ!懸賞金ゲットしてもあげないんだからね!」

 と、レナは意気揚々と部屋から飛び出していってしまいました……。

「行っちゃった……。もう、レナったら先生に怒られたって知らないですよ」

 なんて一人部屋に残されたわたしは、みんな大変そうだなぁと相も変わらずぼぉ~っとしながらレナの帰りを待つことにしました。

 ガタンッ。

「えっ?」

 突然ベランダから何かが落ちる音がして、わたしは恐る恐るベランダのドアを開けました。

「……誰かいるの?」

 そぉっとドアを開けると、そこにはボロボロの布にくるまれた人が倒れていました。どうやら布はローブのようで、至る所が刃物によって切られ、腹部には血が滲んでいたのです。

「あ、あの!大丈夫ですか!?」

「近づくな……」

 掠れながら聞こえたその声は紛れもなく女性の声でした。

「女の人…………って、とにかく!早く手当てしないと!?」

 すると突然、わたしの頬に冷たいものが突きつけられました。

 ナイフ、いや剣……?

「近づくなと言ったはずだ、それ以上近づけば殺す」

 確信しました。この人がきっと先生が言っていた侵入者に違いない。マントの陰から覗かせる彼女の目はまるで威嚇した獣のようで、わたしは目を合わした瞬間身体全体が恐怖に飲み込まれてしまいました。このまま動けば殺されてしまう。死にたくない!?

「でも、このままあなたを見殺しになんてできません!」

 わたしは恐怖という感情を越えて、この人を守りたいという気持ちが言葉となりました。

「……フフ、怯えてるくせに面白いことを言……う…………」

 と、彼女は緊張の糸が切れたように力が抜けそのままわたしの身体に倒れ込みました。とにかく、今はこの人を助けるしかない。わたしは部屋にある救護ポットに容れ、彼女の回復を待つことにしました。

「外の世界から来たんだよね……」

 この人は外の世界でどんなことをやってきたのだろう。何故こんな傷を負ってしまったのだろう。外の世界で一体何が起きているのだろう。

 わたし、この人に知らないこと聞きたい!

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