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侵略者の夏やすみ  作者: 碓氷烏
第二話
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第二話4

「あれっ、みこっちゃんは?」

 うちとシスカちゃんがパラソルに戻ると、そこには由衣とリディアちゃんだけだった。

 相変わらず由衣はリディアちゃんにべったりと張り付き、リディアちゃんは「うぁ~~~~」とした表情を浮かべている。

「え~~~?どっかで黄昏てるんじゃない?」

「昼飯も食べないで?」

「さぁね~、お腹空いたらひょろっと来るでしょ」

「ところで由衣様、お嬢様に何をしているんでしょうか?」

 と、うちの傍らでシスカちゃんがわなわなと殺気立っているのでとりあえず振り返らないことにしよう。

「なぁに~?シスカちゃんも揉まれたい?てか、普段あの服着てて気付かなかったけどシスカちゃん揉み甲斐があるわね……。ちょっとお姉ちゃんといいこと……」

「その辺にしとけ由衣。そしてシスカちゃん、頼むからその剣隠してくんないかな?」

 何処から取り出したかはさておき、これ以上は事案になるのでシスカちゃんの静かに伝わる怒りを制止させた。

「さて、リディアちゃん分も補給したことだし、食べ物も冷めちゃうから早く食べましょ!」

「あの、わたし……やっぱりミコトさん探しに行ってきます!」

 と、突然リディアちゃんが立ち上がると走って行ってしまった。

「リ、リディアちゃん!?」

「安心してください、お嬢様には追跡カメラを付けさせてありますから。それよりスギ、早くしないと食べ物が冷めてしまいます。どこから行っていいですか?」

 と、主人の身より食い気が大事なこのメイドさんに少し苦笑いしつつ、目白押しの海の家グルメを満喫することにしよう。みこっちゃんもトイレ行ってるだけかもしれないし、時間たてば来るだろう。

「……………………」

 まぁそんな単純な話ではなさそうなのは気付いてはいたけど。


「この夏休みが終わったら……」

 本当に俺は鈍感な人間だ……。ずっとあいつらと一緒にいて全然由衣の気持ちなんてわかっていなかった。ずっと三人でバカみたいに遊んで、色んなとこ行って、辛いときもずっと寄り添っていて。

 ずっとこのままでいられたらなんて、ずっと心の中で思っていた。

「俺は……」

「……………………」

 そこで俺の思考は停止した。

 そんなに人のいないこの岩場の端っこで座りながら黄昏れていたのに、一人の少女が俺のところにやって来るや否や、俺の膝の上にちょこんと座り込んだのである。

「……………………???」

 ……んっと、なんだこの子は。迷子の小学生だろうか?それにしても長い金髪で肌が透き通るように白い。「真珠のよう」って表現もしたくなるようなきれいな肌だ。外国人だろうか。

「な……なぁお嬢ちゃん、こんなとこで何してんだ?」

「あなたの膝に座っていますの」

「いや見ればわかるよ!どうしてわざわざ俺の膝の上に座ってんだよ。迷子でもなったか?」

「アタシがそうしたいからこうしてますの。文句でもあるかしら」

 いや文句しか思い浮かばないんですが?ホントにさっきから何なんだこの娘は……、何故に俺の膝の上に座り込んだ……。

「あなたこそこんな人気のないところで何をしてましたの?アタシからして見ればあなたも十分怪しい人ですわ」

 全く以てその通りだ。端から見れば幼女を連れ込んだ怪しいお兄さんの図が説明不要で成立している。ここで叫ばれたり防犯ブザーなんて鳴らされたらソッコーお縄確実だ。

「一人になりたくてここにいるんだよ。お兄さんぐらいになるとこの海みたいにと~~っても深い悩み抱えちまってな。まっ、お子ちゃまにはまだ早い話だけどな」

「そうですわね。他人の恋愛話聞いたところでアタシには何の得にもなりませんし、時間の無駄にしかなりませんわ」

 コイツ、いちいち癪に障る言い方をするっ!?

 ……ん?俺コイツに恋愛で悩んでるなんて言っただろうか?

「まぁいいですわ。このアタシが特別にあなたの悩みを聞いてあげましょう。それで、あなたは誰を選んでどんな結末を迎えたいんですの?」

 と、ニヤリと笑みを浮かべながら少女は俺に問いかけた。

「どんな結末って……、そんなもんすぐ出せるわけないだろ。急にこんな展開になって、どっちがいいかなんて……」

 俺はリディアを選べばいいのか。それとも俺を好きと告白した由衣を選ぶのか。そんな大事なこと、今ここで選ばなくてはいけないのか。

「ずいぶん優柔不断ですわね。でも、あなたにはそんな悠長に悩んでるヒマなんてもう用意されてませんわよ?」

「はっ?何でそんなことっ!?」

「さてっと、アタシもうあなたと話すの飽きたから帰りますわ。せいぜい心残りのない日々を送りなさい」

 と、俺の言葉を遮り少女は膝から降りるとそのまま人混みの中へ消えていった。悩んでるヒマなんてない……?確かに由衣は夏休みが終わるまでって言っていたけど。

 てか、どんだけませた女の子だよ……。

 その時の俺はそれが最大限の結論だった。

「ミコトさ~~ん!みぃこぉとぉさ~~~ん!!」

 遠くの方で誰かが呼んでる。リディアだ。心配して探しに来たんだろう。そういえば、俺たちお昼買ってきてそのままだったんだっけ。すっかり忘れてしまってたわ。

「リディ……」

 一ヶ月、長いようでとてつもなく短い夏休み……。その短い間に俺はちゃんと決断が出来るのか。

 平凡を取るのか、非日常を取るのか。

「そんなん……すぐになんて決められるわけ無いだろ。リディア~~!こっちだ~~!!」

 アイツがリミットを決めたなら俺もギリギリまで悩み続けて決めてやる。今の俺なんかに、答えなんて見つけられない!!

「はぁ……はぁ……あの、ミコトさん!!」

 大した距離でもないのにヘトヘトになっているリディア。心配かけちまったな、そう思い頭を撫でてやると彼女は真剣な眼差しで、

「わりぃな、心配かけちゃって。さて、アイツらのところに……」

「あの!わたしミコトさんのことが大好きです!!」

 ……………………えっ?

 思いも寄らない彼女の告白に俺の思考回路が追い付かず、リディアが何を言っているのか認識できなかった。

 えっと、今とっても大事なことを……。

「あの……その、こんなわたしを受け入れてくれたミコトさんが大好きで、一生懸命になってくれた由衣さんもスギさんも大好きで……えっと、つまりぃみんなみんな……そう!みんなみんな大好きなんですっ!!」

 と、リディアはあたふたしながらも何とか気持ちを伝えようと言葉を模索していた。そんな彼女の一生懸命さを見ていると、なんだか今まで悩んでいた自分がバカバカしく思えた。

「そ……っか。ありがとよリディア。俺もお前のこと、シスカのことも大好きだよ」

 愛とか恋とか今はその結論は出せない。それに俺はまだリディアのことを全然わかっていない。

 だから、一つずつわかっていこう。由衣の気持ちさえ、全然わかっていなかった俺だしな。


 時が過ぎるのは早く、気が付けば太陽は江ノ島の方へ沈む準備をしていた。あれだけ騒がしかった浜辺も今は人はまばらで、みんな駅や駐車場に向かって帰って行った。

「すごい……きれい…………」

 沈みゆく太陽に照らされながら、リディアはこの景色に見とれていた。海のない群馬では絶対に見れない沈みゆく夕焼けだけに、この景色は絶対見せたかったものだった。

「ああ……」

 俺はというとそんな感傷にふける余裕もなかった。あれ以降由衣に告げることもなく、由衣も告白したことについて打ち明けることなくいつも通りに振る舞っていた。だがどうしてもモヤモヤした気持ちが頭の片隅にあり、時々ぼぉっとする時が何度か目にした。

「そうでしょそうでしょう!群馬で見るのとは全然違うんだから!ねっシスカちゃんもそう思うでしょ?」

 と、スギが押し売りのようにこの感動を伝えようとする。

「えっ?はい、この星の人間がこの地を愛してる気持ち、何だかよくわかった気がします。お嬢様、また良いレポートが書けそうですね」

「はいっ!戻ったら早速今日のレポート書かなくちゃ!」

 リディアはそう言いながら沈みゆく太陽に向かって大きく伸びをした。そしてそのまま俺たちの方へ振り向くと急に真剣な顔に変わった。

 リディア……?

「わたし、まだ皆さんのことをわかっていません。どんな思い出があってどんな想いがあるのか……、そしてそんな中にわたしが入ってしまって

いいのか」

 「そんなこと……」と俺が言いかけたところでリディアは話を続けた。

「でも、引っ込み思案なままじゃいつまでも皆さんと距離を置いてしまうと思うんです」

 リディア、ずっとそんなことを考えていたのか。

「だからわたし決めました。わたし、ミコトさんに恋できるように頑張ります!」

 ……………………はい?

 それは予想斜め上を行くリディアの告白だった。「今この娘なんて言った?」と、ここにいる四人がぽか~んと口を開けていた。

 えっ?恋出来るよう、頑張る……?

 それはつまり、まだ好きじゃないって……、

「由衣さんっ!」

「は、はいっ!?」

 突然呼ばれた由衣はつい声をひっくり返ってしまった。

「わたし、負けませんから!ミコトさんのこと、好きになってみせますから!」

 と、全てを言い切ったかのようにリディアは誇らしげに由衣に宣戦布告した。

「由衣……」

 あまりのことに最初は面食らっていたが、何とか正気に戻しリディアに問いかけた。

「ぶっちゃけよくわかってないけど何となく大体わかったわ。でもリディアちゃん、一つだけ聞いていい?リディアちゃんはどうしてコイツとキスをしたの?まだ好きでもないのに」

 まだ好きでもない。

 その言葉は由衣にとって精一杯の強がりだということは俺でも気付いていた。ふと彼女の右手を見るとふるふると弱く震えていた。

「それは……」と言いかけてリディアはシスカに視線を送る。呼応するシスカは「ノー」と静かに首を振った。

「いいえ、隠しません。あの時のわたし、ものすごいお腹が減っていて、無意識にエネルギーが欲しくてミコトさんにキスしてしまいました」

「無意識に、エネルギー…………?」

「そう、わたしたちにとって『キス』いうものは恋愛の意味ではなく、エネルギーを供給する手段……つまり食事と同じなんです。そしてこの星の人たちはどんな星よりも比べものにならないほどの最高のエネルギーを持っている……」

 それを聞いてスギは昼間自分が倒れた理由に納得した。結果的にシスカを助けたことになっていたのか。

「その摂取によってわたしたちは回復し、命の時間をも増やせるんです。皆さんの命を削って……」

「えっ、命を……削る?」

 それは今まで聞いたことのない事実だった。以前リディアは俺らは高級食材のようなものだと言っていたが、命の時間まで摂取していた……。

「俺たちの命を奪っていたってことか……」

「はぁ……、そういうことになりますね。これでわかったでしょう。あなたたちを奴隷と呼んでいた理由を」

 と、シスカはため息をつきつつ補足を加えた。頑なに奴隷と言い続ける意味をようやく理解できた。

「じゃあ、あの時俺は……」

「はい、この星の時間で一時間ほど命を奪ってしまいました……」

「……………………はい?」

 地球サイド全員固まった。一……時間だと?それって減ったのか認識できないレベルの話じゃねえかっ!?

「はぁ~何だよ、そんなちっちゃいことなら別に気にしなくても……」

「上等じゃない……」

「由衣?」

 傍らで聞いていた由衣が俺を押し退けると、グッと拳を突き上げる。

「いいわリディアちゃん、わたし負けないから!例え宇宙人でおっぱい大きくて全然かわいくてそんなトンデモ能力を持っていたとしてもわたし負けないからっ!」

 それ、完全に敗北宣言してるようにしか聞こえないんだけど……。

「だから……」

 と、由衣は突然リディアに抱きつきそのままキスをした。

「由衣っ!?」

「……これで、おあいこだからね」

 そう笑顔で呟いた由衣はふっと電池が切れたようにそのままリディアに覆い被さって倒れ込んだ。

「ゆゆゆゆゆゆゆ由衣さん!?ちょっとしっかりしてください!由衣さんってばあ!?」

 唐突なことに慌てふためくリディアをよそにスギはニヤニヤしながら肘で突っつき、

「この~モテモテ野郎~~、どうすんだこの展開?」

 誰も予想できなかったこの訳のわからない展開に俺は「はぁ……」と目を覆うしかなかった。今まで恋愛経験なんて皆無に等しかった俺がいきなり二人に告白されるこの状況、簡単に結論なんて出せるわけがない。

 まぁ、強いて言うなら……。

「夏休み終わるまでに決めとく!」

「は、はぁ!?ちょっ……みこっちゃん!?」

 そうだ、答えを焦る必要なんてない。むしろこんな中途半端な気持ちでコイツらに告白したところで本当に幸せなんてなれるのだろうか。それなら、じっくり気持ちを知って決断したい。例え悩むヒマなんてないと言われても。

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