第二話2
「これが、この星の大半を埋め尽くしていた青い水のエリア……」
「そうです、この『ウミ』というエリアも克服すればこの星の征服もより楽になります。さぁお嬢様、まずは体に馴染ませてから……」
「お前ら、何こそこそ水の掛け合いっこしてんだ?」
二人のその光景はすごいシュールなものだった。波打ち際で侵略者二人しゃがみ込んでぴちゃぴちゃと水を掛け合っていたのだ。
「ミコトさん教えてください!どうやればこのウミを支配できるんですか!!」
支配できるんですかと言われても、こっちが知りたいぐらいなんですが。最も支配して何のメリットもないけど。
そんなちまちまと侵略について研究なさっているリディアに俺は力添えしようと両脇を持ち上げ、
「ひゃえっ!?な……なんですかっ!?」
ひょいっと勢いよく海に放り込んだ。
バシャ~~ン!
「お嬢様ぁ!貴様、一体何を!?」
「ぷはぁ。シスカ~!冷たくて気持ちいいですよ!」
やはりちびちび水の掛け合いするよりも直接飛び込んだ方が海に慣れるには一番早い。
「つーことだ。ほら、シスカも警戒してないで行って見ろよ。別にそんな簡単には死なないからさ」
「で、ですが……」
「行くよシスカちゃん!うりゃああああ!!」
と、スギは彼女の背後から抱き抱え、そのまま一緒に海へダイブした。
バッシャーーーン!!
「っぷはぁ!どう?そんなに怖いもんじゃないでしょ?」
と、シスカの方に振り向くと彼女は両手両足を水しぶきを上げながらばたつかせていた。そう、その光景は絵に描いたような、
「もしかして、カナヅチ?」
ぶくぶくぶくぶく……。
そして力尽きると泡を吐き出しながらゆっくりと、
「シスカちゃんっ!!」
スギはすぐさま海に潜り、シスカを抱き上げるとパラソルの下へと担ぎ込んだ。
意外だった。みこっちゃん曰くシスカちゃんはかなりの剣の腕前で身体能力がハンパないと言っていただけに、水泳も大丈夫かと思っていた。いや、今はそんなことどうでもいい。彼女を早く助けないとっ!!?
彼女は水を含んだのか、ぐったりとして反応がない。
人口呼吸は初めてだけどやるしかない。確か気道を確保してから胸の辺りを三回ほど押して……、
「……………………っ!」
彼女の溢れんばかりの胸の大きさに思わず息を飲んだ。いや、こんな時にたじろいでる場合じゃない。スギは意を決してそっと胸元に手を置き、三度リズムよく押す。
そしてそっと口づけし空気を送った。
ああ、なんやかんやこれがうちの初キッスだけど何か嬉しいかも。キスってこんな優しくやわらかいもんなんて……、
あ、あれ?なんか頭ぼおっとしてきた……。こんな時に熱中症なん……て…………。
「けほっけほっ!あれ、わたしは……」
水を吐き出し意識を取り戻したシスカがゆっくりと体を起こすと、傍らで倒れているスギに気付いた。
「ど、どうしましたスギ様!?」
「え、あれ?うちどうして倒れてんだ……。何か急に力が入んなくなって……、でも良かった。シスカちゃん大丈夫そうで…………」
と、スギはそっと笑みを浮かべた。
まさか、わたしを助けるために自らエネルギーをくれたというのか?だが、スギ様にはそんなこと知らないので自覚はなさそうだけど。
「すみません、わたしが泳げないと言っていればこんなことには……」
「こっちこそごめんね……うちが勝手にやったことだから。それにしても、運動神経いいって聞いてたのにまさかカナヅチだったなんてね」
「意外ですか?」
「まぁ意外と言えば意外だね。でも何か安心した。シスカちゃんて結構完璧主義なイメージあって、リディアちゃんとは違って何か他人には言えない秘密を持っていそうな……そうミステリアスなとこって言うか、近づき難いとこっていうか……」
と、スギは少し照れながらボソッと呟いた。
「わたしは……あの、スギ様っ!」
「さてっと。さっきより大分楽になったことだし、みこっちゃんたち心配するからそろそろ行こうか。あっそれとシスカちゃん、うちに『様』付けんの禁止な!何か距離取ってるようで嫌なんさ」
「しょ、承知しました……」
「んじゃ行こっか。今度はうちがしっかり教えるから、安心してっ!」
と、立ち上がり無邪気に笑うスギはシスカの手を引っ張り海へと駆けてく。
わたしは彼にあのことを言うべきだろうか。いや、これ以上無関係な人が巻き込まれないためにもこのことは内密にしておこう。今はこのひとときを楽しむことにしよう。
「ミステリアス……か。フフ、勘のいい男だ」




