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侵略者の夏やすみ  作者: 碓氷烏
第一話
12/121

第一話11

 高崎駅にあるデパートで水着を選び終わり、由衣たち三人は中にあるカフェでお茶をしていた。

「それにしてもこの星の文化ってすごいですねっ!あんな露出度の高い服で出歩く風習があったなんて」

「う~ん……そんなには出歩かないかなぁ~」

「それにこんなにかわいい服ももらっちゃって、由衣さんありがとうございます!」

 と、前日に由衣からもらっていた白のワンピースにリディアはテンションが上がっていた。

「アイツのうち女性ものの服ないでしょ?年頃の女の子がオシャレしないでどうすんのよ」

 まぁ、あげたの全部わたしのお下がりなんだけどね。

「わたし、スクールでは校則で決められた服しか着れなかったんです。だからあまりかわいらしい服に疎いんです」

 そりゃああんな真っ黒な格好だけじゃあファッションセンスとか疎くなっちゃうよね……。

「でもさ、リディアちゃんのすぐ隣に萌え要素の塊がいるじゃない。そっちはいいの?」

「モエ……要素?」

「いるじゃないそこに」と、隣にいるメイドさんことシスカに目を向けると難しい顔をして何か考えていた。

「…………」

「どうしたのシスカ?」

「えっ?」と今頃になってやっと口を開いた。

「もしかして、まだ体調悪い?」

「そうなの?わたし無理させちゃったかな」

 考えてみればそうだ。ここに来てまだ日も浅い彼女らを半ば振り回しているのだから、疲れるのも無理はないだろう。

「いえ、わたしたち昨日の夜の記憶が曖昧なんです。朝起きると頭が痛くて……今は大分楽になったんですが」

 と、苦笑いしながら説明するリディア。通りで今朝あんな抵抗なく襲えたわけか、と少し納得。

「記憶が曖昧で翌朝頭痛……、何か二日酔いみたいね。二人とも昨日お酒でも飲んでたの?」

「オサケ……って何ですか?」

「う~んと……わたしもまだ飲んだことないからわかんないんだけど、飲むと気持ちよくなって開放的になっちゃうやつかな。それに飲み過ぎるとグロッキーになっちゃって」

 いくらなんでもミコトが彼女たちにそんなもの飲ますわけないか。それにアイツ、以前お酒のにおい嗅いだだけでふらふら~って目を回してたし。

「そんなものをわたしたちに盛っていたのか!?」

「飽くまで仮定の話よ、それにおじさんもいるんだからそんなの出すわけないし。それよりさ!もっと聞かせてよリディアちゃんたちの星の話っ!」

 由衣は目をキラキラさせながら前のめりになって話を切り出した。今のところ学校の課題で侵略することとか地球より遙かに文明が栄えていることしかわかっていないため、俄然興味は沸いていた。

「そうですね、わたし……」

「答える必要はありません」

 と、シスカはリディアの間に入り質問を拒否した。

「え~どうして~?今更隠すことなんてないじゃ~ん」

「あなたたちは我々を知りすぎています。本来なら罰せられてしまうことなのに」

 その原因をお隣にいるお嬢様がやっているんですが……。

「あなたたちはわたしたちの星の奴隷になるんです。変なことをされたらお嬢様の迷惑になる……」

「シスカっ!!」

 リディアがシスカを制止する。

「お嬢様もお気付きでしょう、この星の人間がエネルギーの家畜に相応しい存在だってことを」

「えっ……家畜?」

 家畜……って、えっなに?リディアちゃんがわたしたちを食べるっていうこと?でもリディアちゃんて血を見ることすらダメだってミコトがいってたような……。

「それは……そうであっても、わたしはミコトさんたちを奴隷になんかしません!この星を征服しても共存するって決めたんです!」

 と、いつも温厚なリディアちゃんがシスカを叱った。

「ま、まぁ二人とも落ち着いて」

「そうだよ、せっかくのかわいらしいスマイルが台無しだぜ?」

 と、二人の後ろで割り込んできたのはスギだった。

「なんでアンタがここにいるのよ」

「かわいい娘いるところうち現る!なんてね。たまたまそこ通ったら由衣が見えたからさ」

「あなたは……?」

 突然現れたスギに警戒しているのか、思い切り睨みつけながら問いかける。

「初めまして、うちの名前はスギ。貴女の奴隷になるために生まれてきました」

 と、清々しいほどの笑みを浮かべながらスギは恭しく一礼する。『奴隷』と言う単語を発する時点で彼は大体のことを把握している、シスカはそう感づいていた。

「す、スギさん!わたしは奴隷なんかっ……!?」

「お待ち下さいお嬢様。貴様、何を企んでる?」

 どう見てもくさい台詞で口説こうとしているだけですが?と思ったけど面白そうなので、由衣はそのまま聞いてることにした。

「企む……そうだね、キミのハートを盗みに来た恋愛ハンターかな?」

 よくそんなイマドキ誰も言わないような台詞言えるわね……なんてため息混じりで見ていたけど、シスカの反応は予想外の方向へ傾いた。

「そ……そうやってわたしたちを誑かすつもりだったのか!?」

 えっ……?

 シスカはどこからか細剣を取り出しスギの首もとに切っ先を突きつけた。

「うぐっ……!?」

 さすがのスギも予想外だったのか、咄嗟のことに声を詰まらせてしまっていた。

「さあ吐け!貴様等が考えていること全てを!黙秘を決めたら容赦なく……」

「シスカやめ……!?」

「ちょ~っと待ったぁ」

 と、何者かが背後からシスカの後頭部に軽いチョップをした。彼女は振り向きざま切っ先を何者かに向けると目をきょとんとさせた。

「ミコト、様…………?」

 そう、それはここにいるはずのないミコトだった。「何故あなたが……」と言いかけたところでシスカはやっとこの場の空気に気付いた。

 このフロアにいる全ての人間がシスカを注目していたのである。大多数が怯えた表情をして。

「……いいからそれをすぐに降ろせ」

 そうだ、わたしが注意しなければならないことを守らないでどうする。お嬢様のため、わたしがしっかりしなければならないのに、全てがダメになってしまった……。

「わたしのせいで……お嬢様の課題を……」

「はいカット!そうそうシスカそんな感じ。その演技で本番やってみようか!」

 ミコトが突然パンッと手を叩くと、意味のわからないことを言い始めた。演技?本番?なんの話だ……?

「み……ミコトさ……」

「いいから何も言わず笑っとけ。俺らが何とかするから」

 と、シスカに耳打ちするとミコトは由衣とスギにアイコンタクトを交わした。

「さっすがシスカちゃん!台本渡して一日で覚えるなんて、それに殺陣も完璧じゃない!」

 と、由衣も突然立ち上がりシスカの『演技』に拍手をしだした。

「まったく、これが本物だったら確実に殺されてるよ。変な汗が出てきちゃった」

 スギも張り詰めた緊張から解かれたように、ぐったりと膝に手を突いてため息を漏らしていた。

「よし、今日はここまで。あとは明日部活のときに合わせしようっ!あっすいません、これ演劇部の読み合わせなんです。お騒がせしました~!」

 と、ミコトは心配そうに見ている周りの客たちに頭を下げ状況を説明していた。

 すると周りの客たちは「なんだ高校の演劇部か」「まぁあのメイドの格好ならね」とそれぞれ納得したように騒ぎが落ち着いていった。

 ミコトたちも緊張の糸が切れたのか「はぁ~」と大きなため息をついてイスにドサっと座った。

「どうして……わたしたちはあなたたちを侵略するんですよ!それなのに何故庇うんですか!?」

「侵略なんてしません」

「お嬢様……?」

 答えたのはミコトたちではなくリディアだった。

「わたし決めたんです。この星の人たちを侵略ではなく共存するんだって。だってこんなに温かい空間を壊すなんてわたしにはできない。ずっと、この空間を大事にしたい。こんなに一生懸命に守ってくれたミコトさんたちを今度はわたしたちが守りたいの。……ねぇ、それだけじゃダメ?」

 シスカは主の懇願にたじろいだ。

「……わかりました。お嬢様の命とならば断る理由がありません。それにあなたたちの気持ちも受け取りました」

「じゃあ!」

「わたしも出来る限りあなたたちを守ります。その、タイヤキというのもまた食べたいですし……」

 と、顔を赤らめながら小さく呟く。そんなに好きだったのか、あの鯛焼き……。

「ふ~ん、ミコトもうシスカちゃんに餌付けしてたんだぁ~?」

「ちょっ!?ちげえよっシスカがお腹が空いたからって……!」

「わたしはそんなこと言ってませんが?」

 相変わらず真面目な返答っ!!

「羨ましいなぁみこっちゃんは~。こんなにチャンス回ってきて~」

「スギ、顔がマジだぞ?」

「あ~あ、うちもこんな恵まれた出逢い欲しいなぁ」

「……あの、わたしたちのことそんなに嫌だったんですか?」

 天然ピュアなリディアの痛烈なアタックだった。軽い冗談で言ったつもりが真に受けて即座に涙目モードに切り替わってしまった!?

「え……あ、そんなわけで言ったんじゃないよ!?なんていうかその……し、シチュエーションが欲しいっていうか!なんていうかその……すいませんでした!!」

 と、動揺しまくりながら説明すると、なんとかリディアの涙腺ダムの決壊は免れたようだ。

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