第一話10
「…………」
えっこれ、どういうことだよ。何でみんな倒れてんだよ…………?
目の前に広がった光景に俺は言葉すら出せずにいた。真昼、高崎駅の西口のロータリーは大手デパートが取り囲むように建っておりそれなりに人通りが多い場所だ。なのに今、この場所には何も音がしない。それもそのはずだ、ここにいる人全てが倒れているのだから。
まるで戦争映画のように爆撃でも喰らってしまった街みたいだ。唯一おかしいのは破壊された建物が一切見当たらないだけだ。
「誰か……、おいっ!誰かいないかっ!?」
どんなに叫ぼうとも返事は来ない。どんなに走っても見えるのは倒れた人のみ。
「はっはは…………、嘘だろ?これって……」
「ミコトさんのおかげですよ?」
背後から聞こえる優しいその声にゆっくり振り向く。
そこには、ぐったりとしている由衣を抱きながらキスをしているリディアがいた。その光景はまるで吸血鬼が血を貪るような……。
「俺が……」
これが、選択した結果だというのか?
嘘だ、嘘だ……!?
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!?
「嘘だ!!……ぁ?」
叫んだところで、それが夢の中であったことに気付いた。
右手をいつも見る天井に手を伸ばし、絶叫している姿に俺は少し恥ずかしくなった。
「また俺、やっちまったか……?」
そしてすっと起き上がると、すぐそばのカーテンを開けた。当然だけど外はまったく何も変わっていない。それだけで俺はつい安堵のため息をついてしまった。
「ったく、なんて夢見てんだよ俺……」
それでも、そんな結末が来ないという保証なんてどこにもない。現にシスカだって俺のことを『下僕』だと認識している。
「あーやめだやめだ!はぁ、寝汗でも流してくるか」
きっと暑さのせいでこんな嫌な夢を見たんだろう。シャワーでも浴びてくか・・・。
寝ぼけながら階段を降り洗面所のドアを開けると、由衣がシスカを押し倒していた。
「…………」
由衣が犯罪現場を目撃されたような目でこっちを見ている。シスカの胸に顔を埋めながら。
「……お取り込み中のようで」
と、ゆっくりと戸を閉めた。シスカの「助けっ……!?」という声を耳に入れながら。
「ということで、ミコト。この二人貸して」
何の脈絡もなく唐突にこんなことを言われた。由衣は放心状態になってる二人(リディアもあの直後やられてたらしい……)をまるで自分の私物のようにがしっと掴みながら。
「用件が短絡的すぎる。何する気だよ?」
「決まってるじゃない、リディアちゃんたちの水着買いに行くのよ」
「そんなん、お前の貸せばいいじゃねぇか」
「そりゃあ試しに採寸はしたわ。けどやっぱり二人ともわたしのよりサイズが大きいのよねぇ……、くそっ!嫌みかっ!わたしへの嫌がらせかっ!!」
なるほど、それでさっきコイツらを襲っていたわけか。
「ということで、いいでしょミコト。別に今日やることないでしょ?」
「ま……まぁないと言っちゃあないけど……」
「よしっ!じゃあ行きましょ二人とも!!」
と、間髪入れることなく由衣は二人の腕をガシッと掴み、勢いよくリビングを抜け出した。魂が抜けた状態のアイツらのことなんてお構いなしに。
「行っちまった……」
さて、仮にも侵略者である宇宙人二人をあのおっぱい魔神由衣に預けて大丈夫なのだろうか。それはもちろん答えは出ている。
「ダメに決まってるだろ、そりゃ……」
別に由衣を全部信用してない訳じゃない。アイツだって普通の女の子だ、世界征服に加担できるほどの知識なんて持ち合わせてるはずがない。ただ単にリディアたちと仲良くするための一環なのだ。
「あれがスキンシップねぇ……」
軽く苦笑い。あの気だけ治せばなぁ……。
とにかく、さすがに何もしないのもいろいろ問題なので後をつけることにするか。
俺はちゃっちゃと朝飯を済まし、自分の部屋へ着替えを取りに行く。
「ん?」
自室に行く途中、リディアたちの部屋から何かが光っているのが見えた。
部屋を覗くとそこには緑色に光るホログラムがあり、何やら文字が多く並んでいた。
「なんて書いてあんだ?」
読めるわけがないがとりあえず近くへ行き、マジマジと見つめる。
「う~ん……さっぱりわからん」
「そんなところで何してるんだ?」
「うわっ!?親父っ!!」
咄嗟に現れた親父に驚き、体勢を崩してしまった俺はそのままホログラムに向かって倒れてしまった。
「痛った…………」
「おい大丈夫か?」
「あ……ああ、ちょっとぶつけただけだよ」
「なんだ、勝手にあの娘たちのものに手を出すなよ?」
と言って部屋を後にした。どうやらこの宇宙的なホログラムは隠しきれたようだ。
「あっぶな~……いな。これ触っちゃったけど大丈夫かなぁ……?」
ホログラムを見たって何書いてあるのかわからないので判断しにくい。後で正直にシスカに……いやいやいや待て!?そんなことしたら覗き見したって八つ裂きにされちまう!!
とりあえず、様子見ということにしよう。
そう結論を出し、俺は改めてアイツらの後を追った。




