第十一話20
俺たちはマリアから渡された地図を頼りに無事侵入口にたどり着くことができた。途中何度か監視カメラの横を通り抜けたが警報器が鳴るわけでもなく、本当はダミーなんじゃないかと思ってしまうほどだった。
そして地図の示した侵入口、そこは何もない真っ白なただの壁だった。
「シスカ、本当にここで合ってんのか?」
「ええ、あの女の地図が間違ってなければ」
「でもよ~、扉もないしテンキーみたいなものもないぜ。一体どうやって……」
と、シスカが突然壁に向かって歩き出すと彼女の体が吸い込まれるように壁をすり抜けていった。
「マジか……」
そうだった、ここ地球じゃないんだ。この時三人は改めて認識させられた。
「どうしました?時間ありませんよ?」
と、シスカはにゅっと壁から顔を出し、怪訝そうに問いかけた。
何かこの光景地球でも見た覚えがある……。
恐る恐る壁に触れると水に手を突っ込むようにするする壁に入っていく。触っている感触はないが何か背筋がぞわぞわするのはなんでだろうか。
「何一人で抱きついてるんですか?気持ち悪いですよ」
俺は無意識にそのぞわぞわした感覚に自分を抱きしめるように腕組みをしていた。
「気持ち悪いは余計だ……。それにしてもこんなところにこんな仕掛けがあるなんて、アズールは何でもやるんだな」
「いえ、わたしもこれは知りませんでした。アジトの入り口を隠す時このようなホログラムを使いますがまさかミカドにも細工されていたとは……」
どうやらシスカにも知らされていないことはまだまだあるらしい。つくづく謎が多いな、アズールという組織は。
「それでこっからはどう行けばいい?」
「マリアの地図によると課題の会場は百階層の大広間みたいですね。あちらにエレベーターがあるので一気に上がります」
地図によると隠し通路があるこの部屋を出て数百メートルほどにそのエレベーターホールがあるらしく、それに乗って一気に上がればリディアのいる課題発表会場にたどり着くらしい。
百階層、そこまで行けばリディアが……。
「どうやら、そう簡単に行けそうにないみたいだね」
笹本に言われて正面を見ると、白い制服を着た警備部隊がこちらに向けてレーザー銃を構えていた。
「待ち伏せですか……」
「ああ。まるで、俺たちがここから来るのをわかってたみたいだな……」
偶然にしては出来過ぎるぐらいだ。しかしどうしてこんなことが……。
「やあ、きみがミカド様が嗅ぎ回っていた来訪者かな?」
警備部隊の後方で俺たちに問いかけてきたのは40代ぐらいだろうか、少し貫禄のある風貌の男だった。
「アンタは?」
「失礼、わたしの名はドマーニ。このミカドで政策担当をしている。と言っても、これから死ぬ君たちに言っても意味がないけどね」
こっちで言う○○大臣的なポジションなんだろうか。それにしてもいかにも黒幕が言いそうな余裕のある口ぶりだ。
「へえ、そんな政策担当さんが何で俺たちを待ち伏せしてこうして銃構えてんだ?まるで俺たちがここに来ることをわかっていたみたいに」
「そんなのは簡単ですよ。どこの誰だか知りませんがご丁寧にアズールの動きを追いかけてる者がいましてね、その者のデータを拝借したまでです。それがあまりによく出来てましてデータの解読に一苦労しましたよ」
それはきっとクラウドのことだろう。どうやらミカド本部には彼の存在までは認識していないらしい。
「確かきみはリディア君の恋人だったみたいだね。彼女のデータを見せてもらったよ。まさか異星人であるきみがここまで追ってくるなんて想像もしなかったよ。何がきみをそうさせるんだい?」
「恋人だって他に理由は必要か?」
「ええ、恋人のためにアズールと手を組むなんて正気の沙汰ではありませんからね。てっきりこのミカドを転覆させるために来たのかと思いましたよ」
「それも悪くないな。地球侵略を目論んでいる星のヤツらをのさばらせるわけにはいかないしな」
と言ってとりあえずファイティングポーズを取ってみるもののこの後どうすればいいか全然わからない。
「フフ、威勢だけいいのはわかったよ。でもこの状況、きみはどう乗り越えるつもりだい?」
相変わらず銃はこちらに向いている。他のみんなが武器を持っていてもそれでここを乗り切れる確率はかなり低い。
「倉持、やっと出番来たじゃねえか。良かったな」
「いくらこれでも無理だって……」
「……だよな」
いくら高校生的な過信でもこれには現実を突き付けられる。本当に万事休すか……。
「さて、わたしも忙しいのでね。きみたちには死んでもらいますよ」
と、ドマーニが腕を上げ振りかざすと、
カチャッ。
兵士の銃口が一斉にドマーニに向けられた。




