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侵略者の夏やすみ  作者: 碓氷烏
第十一話
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第十一話17

 ミカド本部4階層、ここにはタルーヴァに関する機密文書が収められた倉庫がある。倉庫と言っても地球のように書類があるわけではなく、これまでのデータが入った巨大なコンピュータが中央に置かれ、その周りにこれまでのタルーヴァに関する歴史の資料やスクールの課題で集められた他の星の鉱物などの資料などが保管されている。

 この倉庫にある資料を使う場合、各個人の端末によって請求できるので普段ここに人が入ることは滅多にない。

 だがそこに3人の男たちがそれぞれに何かを探し回っていた。

「まったく、どうしてこのタイミングで例の発表の時間が早まるのだ!?」

「わかりません、わたしにも何が何だか……」

「ジェイド様、こちらは違いますか?」

「ん~~~……違う!もっと前のデータを探してくれ!」

 ジェイドと呼ばれる初老の男と、その部下であろう二人の若い二人はそれぞれあるデータを探していた。

「いいか、あのデータさえすり替えれば儂らの地位は一気に跳ね上がる。そして侵略総司令部に立てばあの星は儂らのものと同然!何としても遂行するぞ!!」

「「はい!!」」

 このジェイドという男、ミカドの中央幹部では地方監査の担当をしているのである。彼はそんな地味な役職から抜け出すため、今日スクールの課題を発表する生徒のデータを自分の息子にすり替えようと、そのすり替えるための適当な星のデータをこうして探しているのである。

「ねえねえおじちゃんたち、ここで何してるの?」

 突然彼らの会話に割り込んできたのは一人の幼い少女だった。

「っ!?」

 目の前に突如現れたその少女に彼らは思わずたじろいだ。幹部クラス以上でなければ簡単に入ることができないセキュリティをこんな幼い少女が迷い込んで入るなんて有り得ないのだ。

「な、何ですかこの子は……。一体どこから?」

 と、部下の一人が彼女に近づこうとすると、

「ソイツに近づくな!!」

「えっ?」とこちらに振り返った刹那、一瞬で部下は壁に吹っ飛ばされた。

「…………っ!?」

 壁に叩きつけられた部下はゆっくりと地面に落ち、そのまま動くことはなかった。

「あ~あ、壊れちゃった」

 少女はつまらなそうに指をくわえながら眺めている。

「う、撃て!!いいから撃て!?」

 ジェイドはすかさず残る部下に拳銃で撃つよう命令する。

「にひひっ!」

 だが、部下が拳銃の引き金に指をかける前に彼女は笑みを浮かべながら目の前に立ち塞がる。

「ひぃっ!?」

「ダメだよお兄さん、もっと早く動かなくちゃ。じゃないと……」

 と言いかけた瞬間、

 パァン!!

「こんな風にやられちゃうんだよ?」

 それは部下が発砲した音ではなく、少女の小さな拳によって粉砕された部下の頭の音だった。まるで風船が破裂したように。

 あまりにも速すぎる拳の風圧で彼女には一滴も血痕が付かず、その少し先にいたジェイドの顔にほぼかかってしまう。

「あっ……ああ…………」

 ジェイドはたった数秒で起きたこの光景に腰が抜けてしまいその場に倒れ込んでしまった。

「おじちゃん、ティアのこと覚えてる?覚えてるよね?でも直接会うのは初めてかな?あの時おじちゃんが殺したパパの娘のオルティアだよ」

「な、何を言っている……?」

「今更とぼけないでよ。ティア知ってるんだよ?あの時おじちゃんが指示してパパを殺したってこと」

「わ、儂は監査担当だぞ!?何故儂が関係のない国防担当のレヴォーグを殺さなければならんのだ!それに、ヤツが儂に一目置いていることだって……!?」

「ティア、まだパパの名前言ってないよ?」

「…………っ!?」

 これは完全に墓穴を掘った。突然の窮地に思考が回らなくなりつい少女の口車に乗せられてしまった。

「でもおじちゃんが何か言ったところで証拠は揃ってるんだけどね。ねえ、お話しよ?どうしてパパを殺したのか、あの時どんな感じだったのか詳しく教えて?」

 オルティアと名乗る少女はゆっくりゆっくりと動けないジェイドの方に近づく。ジェイドは腰に隠し持っていた小銃を取り出し少女に銃口を突きつけた。

「無駄だよ?おじちゃんじゃティアを殺せない。だってティア、お姉ちゃんのおかげでいっぱいいっぱい強くなったんだよ。おじちゃんを殺したくて殺したくて一つでも関わった人間たっくさん殺してきたんだから」

「来るな……、来るな来るな来るな来るなーーーーーー!?」

 パァン!!

 ジェイドは目の前の恐怖に震えながら引き金を引く。

「や……った……?」

 確かに弾は当たった。だが、オルティアはびくともせず変わらずに笑みを浮かべていた。

「言ったでしょ?無駄だって。ティア、そんな弾じゃ貫通しないの。そういう体なの」

 それが彼女の特殊能力だった。体を極限まで硬くし何物もはじき返す。そして筋肉さえも硬化し速さ、強靱さも向上させるのである。

「ば、化け物…………!?」

 その言葉に呼応するようにオルティアはジェイドの首根っこを掴むと一瞬で地面に叩きつける。そしてそのまま腹部に拳を入れると彼の口から大量の血が吐かれた。

「汚い……」

 そしてそれからは文字通り目にも止まらぬ速さで殴り続けジェイドは文字通りボロ雑巾と化した。ギリギリ意識が残る程度で。

「アハハ!見て見て!!おじちゃんの方がよっぽど化け物だよ!!面白いねっ!」

「………………」

 彼にもはや言葉を発する方法はなくなっていた。それでも意識だけ残っているのは彼女がそううまくコントロールしたからだ。こんなことなら一瞬で殺してほしかった。それをしなかったのはオルティアなりの復讐心からだった。

「パパの話聞こうと思ったけどやりすぎちゃった。まあいいや。ティアね、パパとよくボール遊びしてたの。だから最後の思い出におじちゃんとボール遊びしてあげる。ねえ、あれが何かわかる?」

「ぁ…………」

 オルティアは壁の方に指差す。その先には正方形の白く小さい箱が置かれていた。

「あれね、作戦の合図に使う爆弾なの。せっかくだからおじちゃんを合図に使うね」

 その言葉の意味を理解してか、ギリギリ残った体力で抵抗しようとする。

「じゃあ、あの的に当たったらティアの勝ちね!行っくよ~!」

 オルティアはボールを持っているかのように軽々と振りかぶり、

「さよなら」

 彼の体を白い箱めがけて投げた。

 そうして、4階層から爆発音がこだました。

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