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侵略者の夏やすみ  作者: 碓氷烏
第一話
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第一話9

「ただいま~」

 さすがに夜でも蒸し暑く、いち早く汗を流そうとすぐに風呂場へ向かった。リビングの扉の向こうでは親父がテレビを観ながらバカみたいにでかい声で笑っている。多分片付けを終えて晩酌タイムに入ったのだろう。シスカもそれに付き合っているに違いない。

 ていうか、宇宙人に酒飲まして大丈夫か?

 まぁ、親父もああ見えて他人に無理強いはさせないから心配ないだろう。

「そんなことよりお風呂お風呂~」

 と、一日の疲れをすぐにでも洗い流そうと浴室の扉を開いた。

「…………」

 そこには浴槽のお湯に顔を突っ込んでいるリディアがいた。

「ぶくぶくぶく……」

 俺は一瞬、自分の思考回路が停止したのを認識した。

 目の前の彼女の奇っ怪なその光景に、俺の思考力が全部ショートし数秒経って何とか再構築をすることができた。

「あの、何をしてらっしゃるんですか?リディアさん」

 俺の声に気付くとリディアはザバッと顔を上げ、ぼけ~~っとした表情でこっちを向いた。

「ふぇっ?あ、ミコトさん……。わたしちょっとノド渇いちゃって、そしたらちょうどいいとこにいっぱいお水があったんで頂いてましたぁ……」

 ずいぶんスケールのデカい水分補給ですこと!?

「ありぇ……?どうしてミコトさん裸なんですかぁ?もしかして夜這いですかぁ?」

 コイツが『夜這い』という言葉を知っていることは置いといて、俺はそっとそばにあったタオルを腰に巻いた。

「違うっての!ったく、服もびしょぬれじゃねぇ……か!?」

 頭が真っ白になっていて気付かなかったが、シャツが濡れてビチッと豊かな胸の膨らみとギュッと細いラインが強調されている。

 それを前にしてつい唾をゴクリと飲み込む。まるでその音が聞こえるように。

 て、何考えてんだ俺っ!そこはまだ越えちゃいけない一線のハズだろ!とりあえずここは……、

「っ……!?」

 ふとリディアのとろんとした眼差しに動揺してしまう。落ち着け!落ち着け俺!?

「ミコトひゃん……」

 囁くのもつかの間、彼女は急に俺の首の後ろに手を回すとあっという間に抱きしめられた!?

「り、リディ…………!?」

 離れようにも予想外にきつく逃げることもが出来ず、俺の顔は凶器に近いその胸元に埋められ声すら出ない。

「うにゅ~~~~ミコトさ~~~ん」

 コイツ、なんでいきなりこんな積極的なんだ!?

「…………!!」

 そして俺の背後、ドアのところに殺気が伝わる。警戒心が高くなったのか、感覚が研ぎ澄まされている。

 ……て、そんなことはどうだっていい!早く抜け出さないと、後ろで俺を睨みつけているシスカさんに殺される!!?

「むぐっ!むぐぅ!?」

 だがその後の展開は俺の考えていた予想を遙かに越えていた……。

「けしからん!けしからんぞミコト様っ!!男が女性に主導権を握られてどうする!!まったく、このわたしが直々に手ほどきをしてやる」

 するとシスカは首がもげるんじゃないかっていうぐらいの腕力で俺の顔を反対に向けた。

「良いか?こういうのはだな……?」

「や~ん!シスカ大胆です~~」

 さっきからやけにゴキゲンなリディアは何を思ったかいきなり俺の背中を勢いよく押し倒し、唇が重なった……!?

「んぐっ……!?」

 嘘だろ……。

 声など発せられないまま意識が遠のき、俺は気を失った。微かに聞こえる彼女らの慌てた声を耳にしながら。


 気が付くと、俺はリビングのソファーで横になっていた。おでこには濡れたタオルが置いてあり、少し顔を動かすとスルリと落ちてしまった。きっとのぼせて倒れたと思って置いてくれたのだろう。

「…………」

 時計を見ればあの時から30分ぐらい進んでいる。今回は比較的軽かったようだ。

「起きたかミコト」

 すぐ横のイスで親父が晩酌をしつつこっちを向いていた。

「っああ……俺、のぼせちまったのか」

「まったく、風呂場でドサって音がしたから何事かと思ったぞ」

 やっぱりそう見られてたかと思うと、少し安心する。だが裸の男一人に女の子二人が取り囲んでいたらどう見てもやましいことをやるんじゃないかと思うが、そこはとりあえずのぼせたということにしてもらおう。

「二人は……?」

「リディアちゃんは今シスカさんが寝かしつけたところだ。で、今風呂に入ってもらってるよ」

 そう言って親父はテレビを観ながらおちょこに日本酒を注いでいた。

 そしてくいっと飲み干すと、

「あんまり心配かけんなよ。お前に何かあったら母さんに顔向け出来ねえんだから……」

 一瞬だけど親父の表情に寂しさが出た。

「……は、はあ!?なんだよそれ」

「いや、悪い。聞き流せ。ああもう飲み直しだ、麦茶でもいいから付き合え!」

 そこでいつもの親父に戻った。いつものように酒に酔って俺に絡んでくる。たまにケンカになるけど手は上げない。それは本当に大事なときだけにしなさいって、死んだ母さんと約束したからである。だから俺も親父のどうでもいい愚痴であっても嫌がることなく聞くことが出来るのである。

「……ったく、わかったよ。アンタの好きなだけ付き合ってや……、なぁ親父。まさかとは思うけどあの二人に酒とかやってないよな?」

 俺はふと、あの二人の豹変ぶりに疑問を抱いた。変に顔が赤く、そしてへろへろに呂律が回ってなかったりハイテンションだったりと、いかにもな酔っぱらいあるあるだったからだ。

「宮司やってる俺が未成年の子に酒なんて飲ますわけないだろう。お前と同じお茶しか出していない」

 言われてみればあの時俺の目の前でリディアは熱めのお茶を飲んでいた。猫舌なのかふーふーと冷ましながら少しずつ飲んでて、その後気が付いたら寝ていたのを覚えている。

「だ……よな」

 じゃあなんだろう。まさか夜になるとあんな風に酔っぱらってしまう……、いやないな。昨日は一緒にいて普通だったし。

 結局いろんなことを考えたけど答えなんて出るわけがなかった。

 そしていつものようにテーブルに突っ伏して寝てしまった親父を抱え、部屋まで運んでやった。

「ふう、まったくこれだけはホント勘弁してほしいところなんだけどな。それにしても、ありがとな。無茶なお願い聞いてくれて」

 昨日今日と知らない女の子二人を泊めてあげるなんて普通じゃ認めるわけがないのに、親父はそれを歓迎してくれた。彼女らの言ってる事情なんて何の確証もないのに、ただ俺を助けてくれた人たちということだけで。

 だけど、アイツらが侵略者だということは知らないだろう。それだけは何とも歯がゆい気持ちにはなる。俺だって、このまま侵略されていいのか悩んでいるところだ。こんなただの高校生の頭じゃ何が正解なのかわかるわけがない。

「いっそ、楽になりたいぐらいだよ……」

 そう呟きながら俺は自分の部屋に戻った。


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