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6.ゼロン様 登場

 まだ足取りはおぼつかないが、何とか魔素の中でもまともに歩けるようになってきたフュノ。

 すれ違うメイド達に、軽く会釈ができる程度の余裕は出てきていた。


「それで、まずはどこを目指すんだ?」


 ポチはストラップの姿でキョロキョロ辺りを見回す。『森の主』とはいえ、滅多に城の奥までは入れない。

 ポチはどこか城内散策を楽んでいるように見える。


「そうね。まずは、ゼロン様が見たいわ!

 実物だと出会った瞬間に殺されちゃうかもしれないから、肖像画でいいのだけど……」


 フュノがゼロンを見たのは、ヒャクマから助けられた時が最後。

 その姿は脳裏に焼き付いていつでも再生可能だが、実際にもう一度、自分の目でゼロンの姿を見ておきたい。


「タマちゃん、ここから一番近くにある肖像画ってどのあたりかしら」

「んン……。肖像画ならいくつかあるけど、人の姿でよければ、この近くにあるわよォ」

「むしろそれを拝みたいわ! あぁ、ゼロン様……」


 銀竜の姿も素敵だったが、きっと人の姿も素敵に違いない。むしろそれが素敵でないはずがない。

 妄想力豊かなフュノは鼻血を我慢しつつ、タルマウスの指し示す方向へと進んでいく。



 少し開けた場所で。メイド達が休憩がてら、洗濯物を足元に置いて、お喋りをしている姿が目に入った。

 ゼロンの噂が聞けるかもしれないので、メイドの話も色々とチェックをしておきたい。


 フュノは掃除をするふりをして、そっとメイド達に近づいていく。


『ねぇ聞いた?何でもタルマウス様が失踪したらしいわよ』

『うそでしょ!?でも……そういえば、確かに最近タルマウス様を見かけないわね……』

『失踪って……それでゼロン様、最近ご機嫌が悪いのね』

『そうよ、タルマウス様の業務もお一人でこなされて、体調があまり良くなくて……』


 フュノの腰にぶら下げられたタルマウスが、ガタガタと震えている。


「あぁ……なんてこと……。ごめんなさい、ゼロン様ァッ!」


 フュノは震えるタルマウスをぎゅっと握って口を塞ぎ、メイド達から静かに離れていく。

 ゼロンが体調を崩しているというのは聞き捨てならないが、タルマウスを解放するつもりは、さらさらない。


「タマちゃん。ここは『それはそれ、これはこれ』の精神よ。

 さぁ、肖像画を探しに行きましょう!」

「やだぁ、本当残酷!アンタ、少しはアタシとゼロン様の心配を……って。

 ……フュノ、何持ってんのォ!?」


 フュノは、メイド達の洗濯物から、一枚のスカーフをこっそり抜き取っていた。そのスカーフは銀色の布に、金糸の刺繍が施されている。

 洗濯前だったのだろう。そのスカーフに、持ち主らしき匂いが残っている。


 ――あの時の、冷たくて甘い匂い。


「いやいや。何も持ってないわよ?」


 フュノはそう言うと、鼻血をメイド服の裾で拭い、スカーフをしっかりと自分の首に巻きつける。


「いやっ、やめて、やめてェ!

 アンタの鼻血が付いちゃう、それだけはダメよォ!」

「もし鼻血が付いたら、責任を取るしかないわね。

 ……責任取って持って帰るから、何も問題ないわ。大丈夫」


 タルマウスの様子から、もうこれはゼロンの私物で間違いないだろう。

 何より。この匂いは、間違いようがない。

 全身全霊を込めて、深呼吸と共にその残り香を嗅ぐ。


 タルマウスはフュノを食い止めようと、ストラップ姿でフュノのスカートにしがみつく。


「やめてェ、なんか変態っぽいから。それはやめてェ!」

「ちょっ、ちょっとタマちゃん。スカート引っ張らない……で」


 ふと。


 フュノは何かの視線を感じて、黙り込んだ。


(……何か――?)


 フュノは辺りをぐるりと見回し、とうとうそれを見つけた。

 ……見つけてしまった。


「ふぉ……」


 そこにあったのは、探し求めていた肖像画。


 ふんわりとした銀の髪の毛。冷たく光る金色の瞳に、薄く笑みを乗せていてる。

 ゼロンはフュノより相当年上だと思われるが、『竜』の寿命は長い。人の姿だと、外見年齢はあまり変わらない。


「ふ……!ぉ……ぉ……!!」

(素敵!素敵っ!ああ素敵!人の姿も素敵!想像を超えた美しさだわ!ああ好き大好き!この肖像画で白飯食べ放題だわ!?)


 脳内では盛大にお祭り騒ぎなのだが。

 大興奮で喉はカラカラ。掠れて、声が出ない。


 フュノはふらふらと……まるで吸い寄せられるように、肖像画へ近寄る。

 少し高めに飾ってある肖像画には、背の低いフュノでは届かない。背伸びをして、その頬にそっと手を触れる。


 目を閉じて、あの時、茶竜ヒャクマから助けてくれた、美しい銀竜の姿を思い出す。


「へへ……えへ……」


 あの時、ゼロンはフュノのことを『ボクの』と言った。是非ともゼロンのものにしてもらいたい。

 フュノはさらに肖像画に近づき、頬ずりをする。


「タルマウス様……。俺、これはさすがに、道徳的とかいろんな意味でアウトかと思うのですが」

「ほんと、ちょっとした恐怖よねェ……」


 その一線を超えた危ない姿に、冷静にドン引く二つのストラップ。

 だけど、あまり油断もしていられない。メイド達は常に城内をうろついている。見つかって騒がれたら面倒な事になる。


「ちょっとフュノ。誰か来るかもしれないから、さっさとやめなさい」


 タルマウスがスカートを力の限り引っ張り、フュノも妄想の世界から意識を取り戻す。


「え、あ、うん。そ、そうね……。急がないと!」


 フュノは慌てて両手で肖像画を掴むと、それを壁から外しにかかる。


(あ、コレ持って帰る気だな)

(あ、コレ持って帰る気だわァ)


 タルマウスとポチの意見が一致した。


 この肖像画は、慣れているモノでも迷いやすい城内の道標にもなっている。これが無いと、城内で迷子が発生してしまう。

 タルマウスがフュノを止めようと、もう一度、スカートを引っ張ろうとする。


 その時――。


「――何をしている」


 冷たく低い声が、その場に響き渡る。


「……!」


 フュノは肖像画から手を放し、声がした方を振り向いて――息を止める。

 その声を、聴き間違えるはずがなかった。


 銀の髪、金の瞳。全ては、肖像画のそのもの。

 あの、甘い匂い。


 その姿は人型ではあるが。何も、あの時と変わらない。

 大好きな、竜。


(ゼロン、様……)


 はらり、と。フュノが首に巻いていた、銀色のスカーフが床に落ちる。

 フュノは再開した喜びの反面、すぐにでも逃げなければ、という焦燥感で混乱し始める。


 ゼロンは再び、その冷たい声で、目の前の不審者――フュノに質問をする。


「……ここで、何をしている」


 肖像画はこの城において道標であるとともに、ゼロンの象徴でもある。城のメイドが、勝手に触れて良い物ではない。

 つまり。この目の前の女は、メイドの格好をしているが……城の者ではない。


(あ……ゼロン様、気が付いていない……)


 不幸中の幸いか。ゼロンは、目の前の女――フュノが、聖竜であることに気づいていない。


 竜は鼻が利くはずなのだが。ゼロンは聖竜にそこまでの興味もなく、あれだけ追い掛け回したフュノの匂いすら覚えていなかった。


 ゼロンに聖竜だと気づかれた時点で、残念ではあるが――ここで、フュノは命を失う。

 フュノは肖像画から手を放し、逃げる隙を伺う。


「あ……あの……」

「――お前は、誰だ」


 刹那。


 ゼロンはフュノに逃げる隙を与えない。一瞬でフュノの目の前に移動をして、その首を片手で締め上げる。

 背が低いフュノの体が、締め上げられて宙に浮く。


「……ぐ……ぅ……」

「……貴様。……『聖なる大地』のモノか」


 ゼロンはフュノの首に触れる事で、その体が魔素に拒絶反応をしている事に気がついた。

『聖なる大地』のモノ。それは、ゼロンにとって敵という事を示している。


 ゼロンは首を締め上げるその手から、フュノへ直接魔素を流し込む。


「あぁ……ぐうぅ……ッ」


 フュノの全身を、聖竜にとって毒となる『魔素』が大量に駆け巡る。


 聖竜の身体が魔素へ抵抗を試みるが、最弱竜フュノの『聖なる力』は弱い。血が沸騰しているかのように、全身が熱くなる。


 最強竜ゼロンと最弱竜フュノの力は、比べ物にならない。

 ただ、魔素を流された、それだけで。フュノが力尽きるのも、時間の問題となってきた。


 ――フュノは、自分の死期を悟る。


(……死ぬなら、せめて……ゼロン様に……触り……た……)


 朦朧とする意識の中。

 フュノはゼロンの手を振り払う素振りをして――その手を、両手でぎゅっと握りしめた。


 ひんやりと冷たい。

 その手は、フュノの両手でも包みきれないほど、力強く、大きい。


「……馬鹿め」


 直接触れてさえれば、そこからゼロンは魔素を流し込む事ができる。

 ゼロンに触れているフュノの両手にも、大量の魔素を流し込む。


「ふぉお!……まさに……ちょく……ま……」


 突然流れ込んできた大量の魔素に耐えきれず、フュノは「ガクン」と全身の力が抜け、その意識を失った。


(直魔素って言った)

(直魔素に悦んだわァ)


 気絶したフュノの顔が笑顔で鼻血が出ている理由は、二つのストラップのみぞ知る所だった。


やっとゼロンさんが出てこれました。。

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