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2.ピエロ、ゲットです

 ピエロはフュノの握手には応じる事はなく、臨戦態勢を取った。

 ひょろりとした長い両手を高くクロスさせると、その上に大きな光の円盤が現れる。


「これで終わりよォ!」


 ピエロがその高く掲げていた両手を、フュノに向けて振り下ろす。光の円盤はピエロの動きに合わせて、フュノ目掛けて鋭く飛ぶ。


 ――実際に、このピエロはこの国でゼロンに次ぐ強者だ。


 この円盤攻撃は、そんなピエロが一番得意とする技。

 円盤はピエロの意志で自由に動かせ、触れたものを一瞬で『分解』することができる。かなり反則に近い攻撃技。


 光る円盤が、フュノに触れる――これで終わりだわァ、とピエロが嗤う。その瞬間。


 フュノは、軽く首を傾けると、最小限の動きでひょいとそれを躱す。


「……えェっ!?」


 ピエロは驚くが……フュノが偶然に攻撃を躱せたものと判断する。

すぐに円盤を方向転換させて、再び背後からフュノを狙う。


「ほーぃ」


 ――が、気の抜けた掛け声を出して。フュノは背後を見ることもなく、くるりと体を翻すだけで、再びそれを躱す。


 ピエロは冷や汗を流しながらも、再度円盤を方向転換させ、今度は真横からフュノを狙う。


 だが。フュノは軽々と指先だけでその円盤を耳元で掴み――扇子のように円盤でパタパタと顔を扇いでみせた。


「ぇえ!?ちょ……やだやだやだぁっ!つ、掴んでるゥ!?」


 円盤を取られたことに驚き、口に手を当てて子犬のように震えるピエロ。

 フュノは円盤で口元を隠して、ニンマリと笑ってみせた。


「んふ。驚いちゃったかな?」


 誰として、その円盤に触れる事などできない。触れるだけで分解されてしまうはずなのに。目の前の女は、平然とそれを掴んでいる。


(……ちょっ、ど、どういうことよォ!?)


 ピエロはまだ気づかない。

 フュノが、竜であることに――。


 『竜』とは、生物の頂点に君臨する存在。『竜』と『竜以外』の間には、生物として根本的な差がある。

 確かに、ピエロはこの国ではゼロンに次ぐ強者ではあるが……『竜』であるフュノにとって、『竜以外』のピエロは、敵ではない。


(これは……逃げないとォ……!)


 ピエロは本能的に負けを悟る。

 即座に戦いを放棄し、この場から逃げる算段を立て始める。


 もちろんフュノもピエロを逃がすつもりはない。このピエロは奇跡的なゼロンへの足掛かりなのだから。

 フュノはその人の姿を、元の姿に――青竜へ戻ることを、イメージする。

その姿は、見る間に大きくなり、全身に青い鱗が生えていく。その身体にしては少し小さめの翼を、バサリと広げた。


「うそォっ!……竜ですってえェ!?」


 ピエロは目の前の女が竜だったのだと気付き、顔面蒼白となる。

 『竜』ならば、ピエロは何をしても適うはずがない。逃げられるのかどうかすら、危うい。


 竜の姿に戻ったフュノは、ピエロに向けて片手を突き出し――ただ一言だけ、呟く。


「テイム」

「……ひっ!?」


 ピエロの短い叫び声と同時に、その首と両手首が青く光を放つ。

 青い光は焦げ付く匂いと共に次第に輝きを失い――その痕に、複雑な文様が刻まれた。


 ピエロに文様ができた事を確認すると、フュノはすぐに人型へと戻る。目をキラキラ輝かせて ピエロに走り寄ると、その両手をガッシリと握りしめた。


「わ、わたしはフュノ。あなたの、名前は?」


 ピエロには自分の身に何が起きたのか理解ができない。

 だが、この青い竜に関わってはいけない事だけは、はっきりとわかる。

 とにかくこの場を立ち去らないと――。


「ちょ、ちょっと触らないでェ!アタシの名前は『タルマウス』……モゴっ!?」


 手を振り払って逃げようとしたつもりだったが。自分の意志に反して、身体はフュノの手をガッツリ握り返していた。

 さらに、自分の名前まで口にしてしまったことに、慌てて口を押える。が、もう何もかもが遅い。


「タルマウス……『タマちゃん』ね!んふふ、よろしく!

 あのね、わたし、今ここに小屋を作ろうとしていたの。タマちゃんの円盤、ノコギリぽくて丁度いいわ。それで木を加工してくれる?

 ……色々お話しがしたいけど、それは後にしましょうっ!」

「エっ、ちょっ、まっ……」


 フュノがタルマウスの意見を聞く気配はない。タルマウスへ小屋づくりの指示を出すと、フュノはタルマウスを置いて、屋根に使えそうな大き目の葉を探しに行ってしまった。


「ヤダ……ヤダァ!ちょっと!?

 アタシ、絶対、アンタの為に、木の加工なんてしないわよォッ!?」


 そう叫ぶタルマウスの言葉とは裏腹に、その身体は止まらない。チェーンソーのように円盤を器用に操作して、木を加工し始めている。


「ヤダァっ!?アタシ本当に、何やってるのォ……こわっ怖ァっ!?」


タルマウスは自分が繰り広げる、謎の行動に恐怖を覚えていた。



 ――これが、聖竜達が恐れる『テイム』という能力。


 竜の姿以外では、この『テイム』は使えない。そのため、一度竜に戻る必要はあるが、一度『テイム』してしまえば、後はどんな姿に変身しても支障はない。

 フュノが解除しない限り、この状態は、一生続く。


◇◇◇


 完成した小屋を前に、やり遂げた感に満ちて汗を拭うフュノ。


「ふぅ、完成だわ!素敵!」


(さ……最悪だわァ……)


 一方、タルマウスは離れたところでスンスンと泣いていた。


 まるで積み木で遊ぶように、軽々と小屋を組み立てた青い竜。それに無条件で従っている自分が怖い。

 しかもこの青竜、人の話を全く聞かないアホ竜ときている。コミュニケーション能力が極端に低すぎる。


 そんなタルマウスを無視して、フュノは最後の仕上げとばかりに小屋の周りに聖竜の結界を張った。

 これで、もうこの小屋には、結界者のフュノより弱いモノは、許可がない限り近づけない。


(あ、コレ、多分アタシ詰んだわァ……)


タルマウスは満点の星空を仰ぎ、一筋の涙を流した。

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