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0.プロローグ

 世界は、3枚の平たい大地が重なり合ってできている。


 上の大地は、『聖竜王』が支配する『聖なる大地』。

 下の大地は、『魔竜王』が支配する『魔の大地』。

 これらに挟まれた『狭間の大地』には、人族や魔物等、いずれの大地に属するモノ達でも自由に生息できる。



 ――大地を支配する竜王達は、長い時を経てその子へと世代交代を行う。


 『聖竜王』『魔竜王』も、自身の力が弱小化する未来を悟ると、竜王候補となる子供達を『狭間の大地』へと送り、次期竜王の座をめぐって争わせる。


 『狭間の大地』からすると非常に迷惑な話だが。『狭間の大地』は、古より聖竜と魔竜の後継者争いの場として利用されていた。

 今も、ここ数年以上に渡り、『狭間の大地』では魔竜側の後継者争いが繰り広げられている。


 この後継者争い、魔竜側と聖竜側で同時に開催されることはない。


 ……はずなのだが、今回の魔竜側の後継者争いが、異様に長引いていた。その結果、魔竜側の後継者争いと並行して、同時期に聖竜側の後継者争いまで始まってしまった。


 当初は魔竜側も聖竜側も、お互いの後継者争いにまで干渉するつもりはなかったが、それぞれ派手な戦闘を繰り広げている間に、いつしかそれは混戦する。


 最終的に。

 後継者争いは完全に後回しで、『聖竜』対『魔竜』という対図ができてしまっていた――。


◇◇◇


「うひゃぁっ、こ……攻撃がでたらめすぎるっ!怖すぎるっ」


 聖竜のフュノは、敵味方から有象無象に飛び交う攻撃を必死にかわし、大空を飛び回っていた。


 聖竜側の竜王候補は、長女・桃竜コハル、次女・緑竜ナツキ、三女・橙竜シュウカ、四女・青竜フュノの四姉妹。


 フュノは四姉妹の末っ子として生まれたが、立派な姉達と比べると、サイズも能力も全てが劣っている。

 強力な能力が使える姉達とは違い、フュノの能力は唯一『テイム』のみ。

 逆に『テイム』を使えるのは四姉妹ではフュノだけなのだが。これは、自分より弱い相手限定で、対象のモノを完全に従わせる能力。

 自分より強い竜しかいないこの場においては、何の意味もない。


 フュノは青色の竜なので、青い空を飛び回ると迷彩色となって、敵にも味方にも見つかりにくい……ということだけが、不幸中の幸いだった。



 一方、魔竜側の竜王候補は、黒竜、銀竜、茶竜、黄竜の、四体の竜兄弟。


 魔竜四兄弟は、全員サイズも大きく、その能力も強い。中でも、銀色の竜は突出して異様に強く、全ての攻撃を飄々と軽く躱している。



 フュノはその銀竜に、執拗に追いかけられていた。


「っな、なんでっ、あの銀色はこっちばかりに来るのよっ」


 銀竜はフュノに追いつくと、致命傷にならない程度の攻撃を与えて、わざと逃げる隙を与えてくる。

 フュノがその隙に逃げると、銀竜は青空に青竜フュノが溶け込むまでじっと待つ。迷彩色で青空にフュノがしっかり溶け込むまで待った後、銀竜は目を細めてその姿を探し――その姿を見つけると、楽しそうにまた追いかけて攻撃をする。


 それはまるで『ウォー○ーを探せ』状態。銀竜にとって、この『青竜を探せ』という遊びはとてもやり甲斐のある高難易度ゲームとなっていることだろう。


「うぅ、早く終わりたいぃっ」


 銀竜から逃げつつ、他の竜たちの攻撃を命からがら躱す。

 攻撃手段を何一つ持たないフュノは、ただこの長い時が終わることを祈るしかない。



 そんな、逃げ回るフュノの進路を妨害するように。目の前に茶色の竜が立ち塞がった。

茶竜は、フュノの小さな体を一瞥して鼻で笑うと、フュノを追いかけてきた銀竜へ言葉を吐き捨てる。


「ゼロン、何遊んでんだよ。

 こんなチビ竜さっさと殺しちまえよ」


 ゼロンと呼ばれた銀竜は、金色の瞳を細めて茶竜を見る。


「ヒャクマ……ボクの邪魔をしないで」


 その魔竜達のやり取りに、フュノは動きを止めて天を仰いだ。

 同時に魔竜二体に目をつけられてしまった。これはもう確実に逃げられない。もうフュノの竜生は、ここで終わりとなるのだろう。


 ゼロンに冷たくあしらわれたヒャクマが、鋭い牙を剥きだしてゼロンを威嚇する。


「邪魔なんかしてねえだろ……むしろ、協力してやってんだよ」


 ヒャクマが咆哮し、同時にフュノに向かって閃光を吐き出した。


「う、ひぇっ」


 フュノは小さな羽をバタつかせて何とか体を翻し、閃光の軌道から外れようとする――が、至近距離攻撃のため、これはもう間に合わない。


「ひえぇ、も……もうダメぇ」


 フュノが、死を悟った。

 その瞬間――。


 フュノの視界が、銀色に染まる。

 目の前の銀色が揺れ、「ヒュ」という乾いた音と共に。ヒャクマが吐き出した閃光は、別方角へと飛んで行く。


 何が起きたかわからず。フュノは目を見開き、喉を鳴らして閃光の行く末をただ眺める。

閃光は遠く離れた海の上で、大きく爆発をした。


(……い、一体?)


 未だ何が起きたか分からず、視線をヒャクマに戻す――と、いつの間にか。フュノの目の前には、銀竜ゼロンがいた。

 ヒャクマがフュノに攻撃をした瞬間。ゼロンはヒャクマとフュノの間に入り、その攻撃を弾いてくれていた。


 ヒャクマが低く唸る。


「……ゼロン。お前……一体何を」


 ヒャクマとゼロンは静かに睨み合い、対峙をする。


(え?え……え?)


 状況はよくわからないが、ヒャクマの歪んだ表情から察するに。この二体は確実に仲が悪い。


(わ、わたしを、茶竜から守ってくれたの……?)


 フュノは混乱しつつも、二体の魔竜への警戒を崩さず、そっと距離を取る。


 ゼロンが金色の瞳をさらに細めて、ヒャクマを睨みつける。


「ヒャクマ……。ねえ、聞こえないの?」


 瞬間、ゼロンがヒャクマに詰め寄る。

 その威圧感に、ヒャクマは冷や汗を流し――無言で後ずさる。


「ねぇ、邪魔しないでよ。これは、ボクのだから」


 どうやら助けてくれたのではなく、『自分のオモチャに手出しをするな』ということらしい。

 高難易度ゲーム『青竜を探せ』を邪魔されたゼロンの怒りは込みあがり、その身体からは濃い瘴気が巻き上がる。


 その空気は風となり、ふわりとフュノを掠める――。


 ――その風は、冷たくも、甘い匂いがした。


(ボクの……? 銀竜……ゼロン様。わたしを、助けてくれた……)


 フュノは静かにその場から逃げ出し――何だか妙にドキドキする胸を押さえて、ゼロンの言葉を何度も反芻する。


 そう。


 吊り橋効果とかいろんなナントカ効果で、フュノはゼロンに恋に落ちてしまった。


◇◇◇


 ――『聖竜』対『魔竜』の戦いが長引き始めたことから、聖竜四姉妹は、体制を立て直すために『聖なる大地』へ引き上げる事にした。


 聖竜達が消えたことで、魔竜達も、長年にわたる後継者争いで築き上げてきた各々の陣地へと戻る。


 『狭間の大地』は、再び仮初の落ち着きを取り戻した――。


◇◇◇


 『聖なる大地』の王宮で、次女・緑竜ナツキがヒステリックに声を上げる。


「あぁもう!何なのよ、あの銀竜っ!強さがでたらめじゃない!」


 興奮するナツキをなだめるように、長女の桃竜コハルが今後の策を練る。


「そもそも、総力戦だと戦いが長引くだけですわ。

 これからは、一対一の個別撃破を狙いますわよ」


 聖竜側には、戦力にならないお荷物竜のフュノがいる。一方、魔竜側には異常な強さの銀竜がいる。総力戦だと、聖竜側が圧倒的に不利。

 コハルが言う通り、フュノは見捨てて個別撃破の方が良いだろう。


 ……良いのだが、それはつまり、誰かが銀竜と一対一になるという事。

 慌てて、三女の橙竜シュウカが手を挙げて飛び跳ねる。


「ハイっ、ハイっ!私、茶竜がいいデス!」


 コハルとナツキがお互いを見つめ、黙り込む。シュウカが茶竜という事は、どちらかが銀竜と戦う事になる……。


 その沈黙を破るように、フュノは小さく手を挙げた。


「あの、私、ゼロ……げほぅっ、銀竜と戦いたい、です」


 危うく銀竜を名前で呼ぶ所だった。それを咳込んで誤魔化しつつ、フュノは瞳を輝かせて、ぐっと姉達を覗き込んだ。



 コハルが、ナツキとシュウカと視線で会話をする。



 ――姉達は、先の聖竜王の後継者争いでも、フュノが最初に死んでくれることを期待していた。


 フュノは『テイム』という能力を持っている。そもそもフュノは格段に弱いので、フュノより強い姉達が『テイム』に掛かる事はない。

 ……実際、無害ではあるのだが。


 何かの間違いでフュノが強くなってしまうと、その『テイム』という能力で、後継者争いは一瞬で決着がついてしまう。

 姉達は、それを何より危惧していた。


 『脅威になる前に、さっさと死んでほしい』

 それが、姉達の、フュノに対する願いだった。



 フュノの申し入れに、コハルがにっこりと微笑む。


「わかりましたわ、フュノ。しっかりと銀竜を倒してくるのですよ」


 ナツキ、シュウカもニンマリと。コハルの後ろで、笑顔を引き攣らせて賛同する。


「ありがとうございます、お姉様!それでは行ってきます!」


 フュノは興奮を抑えつつも、姉達より先に『狭間の大地』へと戻っていった。



 目指すはゼロンが陣地を置く大陸。


 ゼロンは魔竜側の後継者争いに、何一つ本腰を入れていないという。

 何を考えているのかは分からないが、その大陸で建国をして、小さな国を治めている。城まで作って、そこに住んでいるという事も、事前にばっちり調査済だ。


 鼻の奥に残る――あの冷たく、甘い匂い――。


 あの匂いを、もう一度嗅ぎたい。超嗅ぎたい。バレない程度に近づいて、脱ぎたての服とか私物をコレクションしたい。

 想像するだけで鼻血が込みあがる。



 こうして、フュノというストーカーは『狭間の大地』へと降り立った。


初めての投稿で、これで設定が合っているのかもわかっていませんが……是非よろしくお願いします!

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