脚色は必要です
今から約三十年前。
コーポジレット大国の領土の地方にある村に、氾濫した魔物が襲いかかる。
そこが王都や大都市であれば、まだどうにでも対処が取れたのは間違いない。
でも、対象は地方の村。
氾濫した魔物に対して、満足な防衛戦力など当然なく、あっという間に蹂躙される。
魔物たちは暴虐の限りを尽くし、残る村人は十歳になったばかりの少年のみ。
その暴虐が少年に向けられそうになった時、流星のように空から幾重の光が降り注ぎ、魔物たちを燃やし尽くしていく。
少年の前に降り立つのは、笑みを浮かべる女性。
「……遅くなっちまって悪かったね」
そこから始まったのは、たった一人の女性が魔物たちを蹂躙していく光景。
圧倒的な魔法行使による、無慈悲な鉄槌。
瞬く間に掃討される魔物たち。
少年は、生き延びたのだ。
ただ、その少年は全てを失った。
家族も、家も、村も――。
そんな少年に向けて、女性が声をかける。
「辛気臭い顔してんじゃないよ。ここ以外に行くとこがないなら付いてきな」
少年は、女性に付いて行く事を選択した。
養子となり、女性に鍛えられ、少年はたくましく成長していき、のちに生涯の伴侶を得る。
伴侶の名は「シリス・コーポジレット」。
四大国の一つ、コーポジレット大国の王女。
そう。女性に助けられた少年は、のちにコーポジレット大国の王となるのだった。
―――
「つまり、ラロワさんを助けた女性というのは?」
「もちろん、言うまでもないだろう?」
ラロワさんがヴィリアさんに視線を向け、ヴィリアさんは「ふんっ!」とそっぽを向く。
恥ずかしそうだ。
ヴィリアさんにスパンと叩かれたあと、ラロワさんは大笑いして、自分の過去を簡単に語ってくれた。
ついでに、王とは言ってもこういう場で「様」付けとか必要ないと言われたので、「さん」付けにした。
「別に呼び捨てでも構わないよ。何しろ、将来の私の『父』になるのだろう?」
「そうだね!」
確かにその通りだ! と思ったが、瞬間的にヴィリアさんにまた叩かれた。
照れ隠しだな、きっと。
怖くて顔は見れないけど。
ついでに言えば、ラロワさんからも「養母のあんな顔を見るのは初めてだ」と、ユルドさんと似たような事を言われた。
「それじゃあ、ヴィリアさんも王族って事になるんですか?」
「養母は意固地でね。そんな堅苦しいのは要らないと、私がシリスと結ばれる時に養子縁組は解消されたよ。それでも、私にとっては変わらず養母だけどね」
ええ話や。
うんうん、と共感するように頷く。
そのままラロワさんから王妃様の事も紹介してもらい、同じように「さん」付けで構いませんと言われたので、シリスさんと呼ぶ事にする。
そして、本題。
「ヴィリアさんに言われるままここまで来たけど、その困っている問題というのは、どんな問題?」
そこを知らないと、どうにもできない。
もちろん、俺の中ではもう全面的に協力したい。
何しろ、将来の義息子の国の問題なのだから。
将来の義父として、手伝える事はなんでも手伝うよ、俺。
「その前に、あちらの方々は?」
ラロワさんが指し示すのは、勝手に本棚の本を読み漁っている二人。
「男性の方がリュオで、女性の方がリュヒです。今は人の姿だけど、正体は竜。というか、正確には破滅の山の竜王とその妻。なんか暇潰しに人の町に来たかったんだって。以上。で、問題というのは?」
『………………』
あれ? なんで無言?
ヴィリアさんは既に知っている事なので、どういう事? と視線を向ければ、何故か頭を抱えていた。
「え、えっと、ハクウくん。一つ確認なんだけど」
「なんですか? ユルドさん」
「嘘とか冗談の類い……」
「そんな事を言って何になるんですか。なんなら、リュオとリュヒに確認してもらっても構いませんよ。あっ、竜の姿に戻させます?」
それが一番早いかと思ったけど、全力でとめられた。
「別にハクウくんの事を疑う訳ではないけど、どうしてそういう事になったのかを、最初から教えて欲しい。……構わないかい?」
ユルドさんは俺ではなくヴィリアさんに確認する。
ヴィリアさんはため息を吐き、話してやりな、と言うので説明する。
といっても、一部脚色は加えた。
ドラゴンブレス関連と、さすがに結婚記念日を忘れてご機嫌取りで世界樹の花を欲して負けた、というのはリュオの体裁が悪い。
そこら辺を上手く濁して伝えた。
聞き終わると、ユルドさんがヴィリアさんに尋ねる。
「……ヴィリア。事実、なんだよね?」
「ああ、間違いないよ。竜の姿もきっちり見ている」
「そうか。……確かに、竜という存在には細心の注意が必要だけど、今抱えている問題に関しては、大きな助けになるかもしれない」
ユルドさんの言葉に、誰しもが頷く。
納得してくれたところで問いかける。
「それで、そろそろその問題がなんなのかを教えて欲しいんですけど?」
「そうだね……今この国は、高位精霊の怒りを受けている」
ラロワさんがそう答えた。




