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そう呼んで欲しいです

 ヴィリアさんに案内された部屋の中に居たのは、ユルドさんとアイシェさんの他に、一組の男女。


 男性の方は、四十代くらいで、茶髪に精悍な顔付き。

 上質そうな衣服を着ているのだが、その上からでも鍛えられているのがわかる体付きである。


 女性の方は、三十代くらいで、金髪に優しげな顔付き。

 同じく上質そうなドレスを身に纏っていて、その上からでもわかる抜群のプロポーションだ。


 そんな一組の男女が醸し出す空気感は、夫婦。

 非常に残念と思ってしまうが、リュオとリュヒが醸し出すのと同種だ。


 多分夫婦で間違ってはいないと思うけど、問題はそこではない。


「待たせたね」


 そう言って、ヴィリアさんが男性の方とかなり親しげに話し始めたのだ。

 ……一体何者?


 めらめらと、心の中に嫉妬の炎が燃え上がっていくのを感じる。

 くっ。気になる。紹介して欲しい。どういう関係なのか知りたい。


 でも、その答えによっては、俺はハートブレイクしてしまうかもしれない。

 も、ももも、もしかして……。


 オロオロしている俺とは違って、リュオとリュヒは気ままに室内を物色している。

 自由で羨ましい。


 いや、この場合は、もう相手が居る事が羨ましいと言うべきか。


 モヤモヤしていると、ユルドさんがこちらに来る。


「やあ、来てくれて助かったよ」


「まだ助けになってはいませんけど?」


「いや、ハクウくんならきっと解決してくれると思っているよ」


「どうでしょうか?」


 そもそも、どういう問題なのか、まったく教えられていませんけど?

 というか、あの男性が気になって仕方ない。


「彼が気になるようだね?」


 ユルドさんが察してきたので、尋ねる。


「誰なんですか?」


「う~ん、悪いね。本人からしたいと言われているから、私の口からは言えないんだ。でも、助言としては、キミにとっても今後何かしらの関係を築く相手になるかもしれない、といったところかな?」


 もう少し具体的にお願いします。

 それかヒントとして、ヴィリアさんとの関係をお願いします。


 そこさえわかれば、あとは特に気にしないので。

 ただ、ユルドさんの興味は別にあるようだ。


「というより、私の方が尋ねたいんだけど?」


「なんですか?」


「あの二人、誰?」


 ユルドさんが指し示すのは、リュオとリュヒ。


「う~ん……どう言ったモノか」


 俺はもうなんとも思わないけど、ヴィリアさんの反応を見るに、いきなり言うのはマズイ気がする。

 できれば、心の準備をしてもらってからの方が……。


 と思っていると、ヴィリアさんと話していた男性がこちらに来る。


「キミがハクウくんだね?」


 そう問いかけられながら右手を差し出してきたので、握手を交わす。


「はい。それで、えっと」


「初めまして。私は『ラロワ・ワイズ・コーポジレット』。この国の王と言った方がわかりやすいかな?」


 国王! ……様!

 室内や衣服で、そうだろうな、とは思っていたけど、改めて言われると緊張してしまうかもしれない。


 ただ、国王の話はこれだけではなかった。


「それとも、ヴィリア・ワイズ・キャスターレの子と言った方が親しみをもってくれるかな?」


 ヴィリアさんの子! つまり、息子!


 ……冗談ではないようだ。

 それは周囲の状況でよくわかる。


 つまり、事実。

 その事に、俺の体がビシッと固まる。


 ………………。

 ………………。


 まあ、そうだよね。

 これまで詳しく聞かなかったけど、そういう存在が居てもおかしくない。


 でも、いくら考えても、気になる事は一つだけ。

 今のヴィリアさんの状況だ。


 もし、今もそういう相手が居るのなら、ユルドさんやアイシェさんがそれとなく注意してくるはず。

 つまり、今ヴィリアさんのそういう相手は居ないという事。


 という事は、バツが付いた状態なのか?

 いや、他にもシングルマザー、未亡人という可能性もある。


 ………………正直なところ、どれでも問題ないな。

 気にしない、ならないというのが正確かもしれない。


 なら、俺がやるべき事は、目の前の息子さんを……息子さん?

 確実に俺より年上だけど……息子さん?


 ……まっ、年なんて関係ないか。


 そう結論付けていると、その息子さんが楽しそうに笑みを浮かべる。


「なるほど。ユルド様が言っていたのは、こういう事か」


「え? ユルドさん? 何が?」


「本当に申し訳ない。ユルド様から、嘘だと思うなら試してみればいいと、あえて言葉足らずで告げたのだ」


「え? 言葉足らず?」


「確かに私はヴィリアの子ではあるが、養子。幼い時に魔物の氾濫で滅んだ村の生き残りで、その時に拾われたのだよ。血の繋がりはないが、それでも母なのは変わらないがね」


 スッと、息子さんが耳打ちしてくる。


「それと、その時から今まで、様々な研究に熱心だった母にそういう相手が居なかったのは、私が保証するよ。ハクウくん」


 そう言って、離れた息子さんは、茶目っ気たっぷりの笑みを浮かべる。

 なるほど。つまり――。


「俺の事は『パパ』って呼んで」


 ヴィリアさんにスパーンと叩かれた。


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