別の場所に来たようです
一瞬、浮遊感がしたかと思うと……それだけだった。
……えっと。
「着いたよ」
ヴィリアさんが端的に言う。
「いや、でも、何も変わっていませんけど?」
そう言ってしまうのも仕方ない。
何しろ、本当に浮遊感が一瞬しただけなのだ。
室内は何も変わっていない。
「なんだ? 気付いていないのか?」
「大気中の魔力濃度がまったく違いますよ」
リュオとリュヒがそう言う。
なるほど。大気中の魔力濃度の違いか。
「………………いや、わかるわけがない」
そういうのはまだ習っていないからね。
「まあ、外に出ればわかるよ」
ヴィリアさんがそう言って、部屋から出て行く。
リュオとリュヒを伴って、俺も部屋から出る。
……全然違った。
ヴィリアさん家じゃないのが直ぐわかる。
小屋だった。
で、その小屋を出ると……一変した。
高い壁に囲まれた庭のような敷地一杯に、様々な色の鮮やかな花や草木が植えられている。
絵画に描かれている風景のようだ。
リュオとリュヒも感嘆の息を漏らして……イチャイチャするんじゃない。
「ここに植えてる中には毒草もあるから、迂闊に触るんじゃないよ」
ヴィリアさんから注意が入る。
毒草という言葉に、一気に現実に戻された。
もし体が頑丈だった場合、毒とかどうなんだろう?
効果あるのだろうか?
「リュヒ、いつかここよりも綺麗な花畑をプレゼントするよ」
「まあ、嬉しいわ、リュオ。楽しみに待っているわね」
……「D五六四零八ー」を取り出したくなった。
大丈夫。命まで取る気はない。
ただ、そこに流れている空気を斬りたいだけだ。
「何やってんだい! さっさとついて来な!」
ヴィリアさんからの注意がまた入る。
そうだ。付いて行かないと……。
「あの、リュオとリュヒに動く様子が見られないんですけど。このままここに置いておいていいですか?」
「馬鹿言ってんじゃないよ! さっさと連れて来な!」
ですよね。
仕方ないので、「D五六四零八ー」を取り出し、リュオとリュヒの間に刺さるように放り投げる。
「そ~れ!」
リュオとリュヒが全力で避け、抗議の視線を向けてくる。
「もう少し呼び方というのがあるのではないか?」
「できれば、次からは別の方法でお願いします。呼ばれる度に命の危険を感じるのは少々……」
「いや、お前たちだけの世界に割り込もうとするとなると、あれしか」
「普通に声をかけてくれれば大丈夫だ」
それはどうだろうか?
まあ、次があれば、まずは声をかけてみるか。
それで駄目なら、同じ方法を取る事にしよう。
とりあえず、リュオとリュヒを連れて、ヴィリアさんのあとを……。
「ヴィ、ヴィリアさん」
「なんだい?」
「えっと、俺の見間違えでなければ、そこというか、隣にお城があるんですけど?」
敷地の隣に立派なお城が建っていた。
それで、ヴィリアさんが出て行こうとしている出口は、そのお城の方に繋がっているように見える。
というか、ここってお城の敷地内なんじゃ……。
「ああ、あたしにも見えているよ。そういうのも含めて説明してやるから、さっさと来な」
言われるままに、リュオとリュヒを連れて付いて行く。
敷地を出れば、お城の中庭のような場所だった。
綺麗に整えられた草木に、水飛沫がキラキラと輝く噴水があり、そのまま奥にある扉に向かう。
扉の前には二人の武装した騎士っぽい男性が居たが、ヴィリアさんの姿を見ると一礼して、扉を開けた。
……どう見ても、立場が上の人にやるような仕草である。
ヴィリアさんはさも当然のように通り過ぎ――。
「あたしの客だから、通してもらうよ」
それだけ言って、先に進む。
武装した騎士二人は「かしこまりました」と答え、そのまま扉を開けたままの姿勢。
……えっと、お邪魔します。
ドキドキしながらヴィリアさんのあとを追う。
えっと、ヴィリアさんのここでの立場は一体どうなっているのだろうか?
「ふむ。壺など飾る意味がわからんな」
「そうね。使わない壺に意味はあるのかしら?」
ヴィリアさんの所属は「勇者前進」。
つまり、「賢者」という肩書はあるけど、冒険者でもある。
「これは……肖像画というヤツか」
「リュオも描いてもらおうかしら?」
「それは悪くない案だが、どちらの姿でだ?」
「もちろん、竜の方よ。だって、リュオの勇ましさは、人の姿だと表現しきれていないもの」
高名なのは間違いないっぽいけど。
でも、冒険者に城勤めの人が一礼するだろうか?
「まあ、アレだな。色々着飾っているようだが、リュヒの美しさの前ではすべてが霞むな」
「まあ! リュオったら口が上手いですね」
「ははは」
「ふふふ」
……どうしよう。ものすごく「D五六四零八ー」を投げたい。
リュオとリュヒには緊張感とかないのだろうか?
なんか悔しいから、俺とイチャイチャしませんか? ヴィリアさん。
心の中でそう願い、目で力強く訴えてみるも、ヴィリアさんは反応せず……。
そうしてヴィリアさんの先導のままに進んだ先は、俺でもわかるくらい質のいい物がいくつも置かれた部屋。
そこに、ユルドさんとアイシェさんが居て、他に一組の男女が居た。




