そうなりました
リュオとリュヒは、いつものように竜の姿のまま、世界樹の一輪の花を見て、甘ったるい雰囲気を醸し出していた。
そこに突入したのは、「D五六四零八ー」を持ったヴィリアさん。
バチバチと火花が散った。
ヴィリアさんとリュヒの間で。
「………………」
「………………」
双方とも、何も言わない。
互いにガンくれ……見つめ合っているだけ。
迫力が実体を得たかのように周囲の空気が重い……気がする。
正直なところを言えば、どこかから何かが「ジョッ」と出るかもしれないくらいに怖い。
「フフフ……」
リュヒさんから笑みが零れた。
何も言わずに一歩下がる。
ディナさんたちは既に家に退避していた。
一声かけてくれてもよかったんじゃないだろうか?
すると、何歩も下がってきたリュオが人の姿となって、俺にこっそり耳打ちしてくる。
「リュヒとタメを張っている人間など初めて見たぞ。何者だ?」
「俺の主。ここの本当の責任者」
ごくりと、リュオの喉が鳴る。
多分だけど、最初の時にヴィリアさんと相対しなくてよかった、とか思っていそうだ。
実際、「D五六四零八ー」がなくても対等に渡り合えそうな迫力がある。
「あの剣がなくても、リュヒと渡り合いそうだな」
リュオも同意見のようだ。
でも、わかっていないな。
あの迫力があるからこそ、ヴィリアさんの美しさがより際立つんだ。
剣を持つ姿は、さながら女帝のようで……。
「……凄むリュヒも美しいな」
再びリュオと同意見だった。
驚きでリュオを見ると、リュオも俺を見て……俺がどう思っているのか気付いたようだ。
リュオから手が差し出された。
………………ガシッ! と固い握手を交わす。
すると、ヴィリアさんとリュヒの方にも動きがあった。
リュヒが人の姿となって……ヴィリアさんと固い握手を交わす。
「竜だと身構えてみたが、仲良くできそうだねぇ」
「ええ、いいお付き合いができそうです」
何やら通じ合うモノがあるのだろうか。
でも、この組み合わせは危険な気がする。
何しろ、俺はヴィリアさんに逆らわない。
リュオはリュヒの尻に敷かれている。
……とりあえず、リュオに一言。
「まあ、頑張って」
「お前もな」
何故かそう返された。解せぬ。
「……あっ、そうだ。リュオに言っておかないといけない事があるんだった」
「ぬ? なんだ?」
「これから俺ちょっと出かけるから、ここに来るのはいいけど、花は摘むなよ。あと、みんなに迷惑かけるなよ」
「あの剣で斬られたくないからな。絶対摘まん。というか、出かける? どこにだ?」
「どこって……俺も詳しくは知らない。行った事ないところだし」
というか、この不滅の森から出た事ないし。
そう考えると初めてだな、町に行くのって。
「とりあえず、どっかの国のどっかの町だな」
国に問題って言っていたし、王都とかそういうところだと思うけど。
というか、王都って……ザ・都会って感じの響きだよね?
それに、都会という事は、デートスポットもたくさんあるはず。
オシャレな恰好をして、オシャレなお店に行って、オシャレな飲食店で食事……そして二人は夜の町中に消えていき……。
「つまり、人の町という事か?」
「……そうだよ」
丁度いいところで邪魔された。
声をかけるにも、もう少しタイミングというモノをだね。
「それは面白そうだ! 久しく人の町にも下りていないし、我も行くぞ!」
「……は?」
「リュヒよ! どうやらハクウはこれから人の町に向かうそうだ! 我たちも一緒に行かんか?」
そう言って、リュオがリュヒの方へ確認に向かう。
いやいや、待て待て。
なんでそんな話に? と思うのだが、ヴィリアさんが俺にキツイ視線を向ける。
まるで、何を言ったんだい? と問うように。
あれ? もしかして、俺のせいにされる?
「それは面白そうね、リュオ。私たちも同行していいかしら? もちろん、そちらの迷惑にならないように配慮はするわ。この姿のままで居るとか、有事の際は手を貸したりとか、ね」
「………………」
ヴィリアさんは即答しなかった。
でも、揺れ動いているようには見える。
国の問題に竜の協力が得られるかもしれない、とかかな?
「……まあ、仕方ないか。その様子だと、断っても自力で来そうだしね。それなら、まだ行動が把握できた方がマシだね」
連れて行く方に天秤が傾いたようだ。
リュオとリュヒは大喜び。
すると、ヴィリアさんがこちらに来て、「D五六四零八ー」を俺に返しながら一言。
「あたしは向こうでもやる事があるし、コーポジレット大国の方にも一応話を通しておくけど、基本この二体? 二人? の事は、あんたに任せるよ」
「わかりました」
大人しく返事をし……ちょっと待って。
俺に任されるとなると、リュオとリュヒの動向を見ておかないといけなくなるよね?
つまり、それなりの時間、行動を共にしないといけない訳だ。
それじゃ、ヴィリアさんとのデートの時間は?
……初めての都会はあまり楽しめなさそうだ。