憶えておこうと思います
何故俺がドラゴンブレスを受けて無事だったのか、リュオからその仮説を聞く。
「……そもそも命中していなかったという事は? 多分だけど、直前で目を閉じちゃったんだよね、俺」
「安心しろ。命中したところは、我がきちんと見ている。というか、その時にも言ったと思うが?」
……そうだったっけ?
「というか、あの時、我は威嚇のつもりで撃ったのに、ハクウの方から当たってきたのだぞ。……なんでそんな行動したのかはわからんが」
それは、威嚇射撃の先にディナさんたちが居たからだよ。
クーニャさんの結界で見えていなかっただけで。
その結界の事を勝手に教える訳にはいかないな。
クーニャさんの強みの一つだし。
なので、話を進める事にする。
「それじゃあ、どんな仮説なのか聞かせて」
「三つある」
リュオが指を三本立てて見せてくる。
……やっぱり、ごく最近似たような経験しているな、これ。
「まず一つ目は、直撃の瞬間、無意識で魔力を放出したという事だ」
「……魔力」
今そこを突かれるのは危険な気がする。
そこには突っ込まないでくれと言いたい。
まだ事情を知らないから、リュヒもニコニコとしているだけだし。
「といっても、これは可能性の話であって、できるとは思っていない」
「そ、そうなのか?」
「当たり前だ。先ほども言ったが、我のドラゴンブレスは相応の魔力を使用している。それを相殺、もしくは対抗しようとするのなら、ほぼ同量が必要だからな。さすがに人の身で、ドラゴンブレスと同量の魔力量は無理だろう」
だから、これは仮説で可能性の話だと、リュオは念を押して言う。
……当たりな気がしないでもないけど、今は言えない。
「で、次は?」
「うむ。二つ目は、服は燃えたが体は無傷であった。つまり、体自体の防御力がドラゴンブレスを受けても平気なくらい、異常に高いという事だ」
それは……いくらなんでもどうなんだ?
「ちょっと無理がないか、それ?」
「我もそう思うのだが、可能性としては考えた場合、あるかないかを比べると、ありえる方に傾くのだ」
傾く……か?
いくらなんでも、と思いたいが、どこかで俺も否定はできない。
でも、俺の体は多少頑丈になっているだけ。
やらか神がそう……し………………いやいや、待て待て。
………………いくらなんでもそんな事……ねえ。
でも、俺が考える可能性としては、一番高くなった。
もしかしてだけど、俺が想定しているより頑丈になっている?
……あり得過ぎる。
多少と言いつつ、実はうっかり相当頑丈に……なんてのは、あり得過ぎる。
何故ならそれをやったのは、やらか神……あり得過ぎる。
これはもう、一気に確定してしまったのではないだろうか?
でも、リュオは三つの仮説と言っていた。
実はそれが正解かもしれない。
「なるほど。それで、三つ目は?」
「三つ目は、一つ目と二つ目共が正解の可能性だ」
「………………」
「いや、正確に言うのであれば、その複合だな。どちらかだけでは尖り過ぎて可能性としては低いが、そこそこの魔力量を持っていて、そこそこの防御力を持ち、それらが複合的に上手く作用して防いだ……という訳だ」
ふむふむ……どうしてだろう。
そうじゃない、と言いたくなった。
「ちなみに、我はこの三つ目だと思っている。他の場合はさすがに人の身ではありえない」
「私も三つ目が一番現実的かと」
リュオがうんうんと頷き、リュヒも三つ目を推しているようだ。
……そういえば、今更ながらに思い出したけど、俺が人ってのも怪しいんだった。
鑑定で「人だと思っている」みたいな表示だったんだよね。
まあ、それは考えても答えが出ないから置いておいて。
結局のところ、俺としてはどれも可能性があって決められない。
「仮説を立てるのはいいけど、結局どれも確認しようがないような」
「いや、確かめる方法はある。もう一度試せばいいのだ!」
もう一度試す?
………………まさか!
「またドラゴンブレスを放つつもりか! で、それを受けとめろと!」
「一度できたのだ! またできる!」
「いや、できなかったら?」
「………………」
「………………ノープランかよ! 実験に安全性の確保は必須だろ!」
「駄目か。あんな危険な剣を持つ者を殺れるチャンスだと思ったのだが」
おおい、本音が漏れているぞ。
まあ、不思議と耐えられそうだから、別に受けてやってもいいんだけど、やっぱり怖いモノは怖い。
それに、もしもや万が一の可能性もある。
でもなあ、もしそれだけの防御力があるのなら、それは知っておきたい。
けれど、確かめるためにドラゴンブレスを受けるのは嫌だな。
せめて、俺の体をいじったやらか神と、どうにか話せる機会でもあれば尋ねるんだけど。
……よくあるのは、教会とか神像の前で祈り、とかだよな。
そんなのここにないけど。
でも、町とかに行けば……。
その機会があれば試してみようと思う。
とりあえず、リュオの仮説については保留にしておいた。