名を付ける事になりました
黒竜と白竜に対して苦情が入った。
どこからかと言えば、エルフたちや冒険者さんたち。
それを何故か俺が言いに行く。
「いや、もう気安く付き合っているんだから、エルフたちでも大丈夫じゃ?」
「畏れ多くてとてもとても」
隊長エルフがそう言って俺の背中を押して前に。
……まあ、ここに居るメンツで、誰が黒竜と白竜にそういう事を言えるかと考えれば、俺だけだろうけど。
みんな、怖がり過ぎ。
という訳で、いつものように世界樹の花を見ながらイチャイチャしている黒竜と白竜に苦情を告げる。
「という訳で、その大きさどうにかなりませんか? 話しかける度に上を向かないといけないので、首が痛くなりそうとの事です。いや、俺は特に痛くないんだけどね」
「なるほど。……まあ、できなくはないぞ」
「え? できるの?」
てっきりできないかと。
「うむ。要は、お前たちと同じような姿になればいいのだろ?」
……同じような姿? と思っていると、黒竜と白竜が何やらごにょごにょ言ったかと思うと、ピカッ! とその体が発光して、段々と小さくなっていき……だけじゃなくて、姿形も変わっていく。
まるで人のように……というか、人そのものに。
発光が収まると、そこには二人の人が居た。
一人は男性で、乱暴に掻き上げられた黒髪に、野性味溢れるワイルドイケメン。
見事に鍛え上げられた上半身は裸というか、蛮族の王みたいな恰好だ。
もう一人は女性で、絹のような白色の長髪に、鋭い目付きが特徴的な美人。
スタイルよく、あまり着飾っていない白いドレスを身に纏っている。
というか、この流れからすると……。
「黒竜と白竜?」
「その通りだ。竜は本当に暇でな、偶に姿を変えて人の町に行く事もあるのだ」
「久し振りに変化しましたが、上手くできたようでホッとしました」
なんでもありのように思えてきたな。
でもまあ、これで苦情は解決だな。
と思っていると、人の姿となった黒竜が俺をジッと見ていた。
「……何? なんかあるのか?」
「いや、どうせなら、ここに居る時はこの姿で居るようになる訳だし、お前たちが互いを名で呼び合うように、我と妻にも名を付けてもらおうかなと」
「……え? 名前ないの?」
「ある訳ないだろう。誰が王かわかればいいのだ」
「んな淡白な。だったら、誰かに何かを頼む時はどうするんだ?」
「おい、そこの、とか、お前、とか……あとは鱗の色や、山の頂を中心にした方角で、とかか」
なんとも言えないが、そういう生態と言ってしまえばそれまでだな。
「……というか、俺が付けるの?」
「うむ。言うなれば、我に勝った記念だ」
「いや、そんな記念別に要らないというか、余計なプレッシャーになるんだけど」
「どんな名前でも受け入れよう!」
「だから、それがプレッシャーなんだよ!」
わかっててやってないか? こいつ。
白竜の方もそれでいいのか、ニコニコと待ち態勢だ。
なので、ちょっと真面目に考える。
見た目でいえば、「クロ」と「シロ」なんだけど、さすがにそれは……と思ってしまう。
「悩んでいるようだな」
黒竜人型がニヤニヤと笑みを浮かべてそう言う。
真剣に考えているんだから、茶化さないで欲しい。
とりあえず、パッと思い付いたのは、竜の王でリュウ………………いや、これだとどこかの仮面ラ〇ダーを思い出すので却下。
安直に竜と王の頭文字を取れば……格闘主体の戦隊モノの首魁の名になるな。
なんとなく却下。
あっちはカッコいいけど、こっちの黒竜にあんなカッコよさはない。
次はそこからもじり、それぞれの頭文字のあとに横棒を足してみれば………………いや、これも駄目だな。
翼のあるガン○ム系のモビル〇ーツになってしまう。
………………。
………………。
「よし、決めた」
「うむ。では聞こう」
「難しく考えるのはやめた。まず、黒竜の方が、『リュオ』。竜の王で『リュオ』」
それでいいか? と視線で確認。
黒竜は少し悩んだあとに、問題ないと頷く。
「で、次。白竜の方は、『リュヒ』。竜の王妃で『リュヒ』。それで構わないか?」
白竜も少し悩んだあと、問題ないと頷いた。
大仕事をやり遂げたような感覚だ。
とりあえず、ホッと安堵。
ただ、連絡を怠ってはいけない。
人の姿となった黒竜――リュオと、白竜――リュヒを連れて、ドリュー、騎士ジン、エルフたちに姿と名を告げ、ディナさんたちにも同じように告げる。
ドリュー、騎士ジンは特に気にしていないようだったが、エルフたちは訓練がやりやすくなったと、ディナさんたちの方はその姿に興味津々といった感じだった。
まあ、受け入れられるのは別にいいんだが……。
「愛しているよ、リュヒ」
「私もよ、リュオ」
イチャつく絵面に対して、よりイラつくようになったのは確かだ。
「帰ってイチャつけ!」
……ヴィリアさんが恋しい。




