繰り返せば日常です
黒竜と白竜がほぼ毎日来るようになった。
来ている時は朝起きると既に居て、陽が落ちる前に帰っていく。
特に圧力という訳ではないが、俺からの要求を待っているようだ。
だからといって、ずっと俺に張り付いている訳ではない。
大体は世界樹の花を観賞しながらイチャイチャしているのだが、時折森の中に入っていく姿も見かける。
多分、デート感覚なんだろう。
………………。
………………。
「帰れ。というか、そういうのは自分の家の近くでやれ」
「まあまあ、そう怖い顔をするな。我たちにも気を休めたい場所が必要で、ここが最適なのだ」
「……はあ?」
「おそらく、この樹のおかげなのだろうな。この樹を中心とした一帯の空気は非常に澄んでいる。そのおかげで非常に心地いいのだ」
黒竜がそう説明する。
いや、だからって、そう頻繁に来られても困るのだが。
「というか、ほぼ毎日来ているけど、暇なの? 仕事とかは?」
「我は竜だぞ。そんなモノあると思うか? 現状だと、せいぜい竜たちを取りまとめるくらいだ」
「……だよな」
基本、暇って事か。
ここに来るのは暇潰し的な思いもあるのかもしれない。
だからだろうか、順応するのも早かった。
竜たち側だけでなく、こちら側も。
「あっ、おはようございます。今日も来たのですね」
「うむ。運動がてらな」
「ああ、いいですよね、体を動かすのって」
「その通りだ。なんなら、我も時間はあるし、偶には訓練相手として付き合ってやるぞ」
「ありがとうございます。その時はよろしくお願いします」
ある日の隊長エルフと黒竜の会話を一部抜粋。
実際、この会話があったあとから、黒竜がエルフたちと模擬戦みたいな事をするようになった。
ちなみに、白竜の反応は――。
「キャー! かっこいいわよ! あなた! 頑張って!」
応援するものだから黒竜がはりきり……結果、エルフたちを一方的にボコってしまう。
初めてその光景を見た時は、さすがの俺も「D五六四零八ー」を取り出してしまった。
「待って待って! それは待って! 反則! それは反則だから!」
黒竜が直ぐに謝った。
白竜もそれは勘弁してくださいと俺をとめ、エルフたちもこれは訓練ですと、とめに入る。
………………冗談ですよ。
「でも、ほどほどにね」
黒竜による、エルフたちの訓練は適切に行われる事になった。
「……いや、ちょっと待って」
黒竜とエルフたちに待ったを入れる。
「えっと、あれ? 黒竜って弱いんじゃなかったの?」
そう尋ねると、言っている意味がわからない? という風だった。
なので、俺が思っていた事を説明。
要は、黒竜は自称竜王で、大して強くないんじゃないか? と。
……正直に言ったのがいけなかった。
「………………」
「大丈夫。強いわよ。本当に強いわよ。ただ、あの剣は卑怯よね。竜だったら誰だって勝てないわ」
黒竜がいじけて、白竜が宥める。
エルフたちからも、どういう勘違いですか? と少し呆れられた。
え? 違うの?
なら、黒竜は本当に竜王で強いって事になるんだけど……。
それなら、どうして俺はこうして無事なの? と思う。
いや、「D五六四零八ー」を手に入れたあとならわかるけど、その前、ドラゴンブレスをどうやって防いだ? という話になる。
……わからん。
とりあえず、保留にした。
でも、黒竜が弱いと誤解した事だけは、きちんと謝っておく。
「変な誤解をしてすみませんでした」
「う、うむ。わ。わかってくれれば、それで……」
黒竜は許してくれた。
「D五六四零八ー」を持ちながら謝ったのが、功を奏したのかもしれない。
黒竜が強いとわかった以上、念のために身を守る手段は必要だ。
それから、ドリューと騎士ジンも、黒竜とエルフたちの訓練に参加している姿を見かけるようになった。
騎士ジンはわかるけど、ドリューも?
「モグモグ」
何を言っているのかはさっぱりだが……強くなりたいのかもしれない。
なので、好きなようにやらせる事にした。
また、黒竜と白竜に慣れたのは、エルフたちだけではない。
ディナさんたちも同様だ。
冒険者さんたちや私兵さんたちは、まだ恐れが見えているけど挨拶は交わしている。
クーニャさんだけは、まだ恐れの方が大きいのか、上手く挨拶できないようだけど。
シャールさんは既に普通に話しかけていた。
さすが王族。
「竜の鱗……いや、そのかけらだけでもあれば、ゴーレムの幅が……」
欲が漏れていますよ。
こういう人種は、偶にそういうの関係なくなるから怖い。
ただ、ある意味一番仲良くなったのは、ディナさん、ラナオリさん、レーヌさんの三人だろう。
もちろん、仲良くなったのは黒竜ではなく白竜の方。
聞いちゃいけない女同士の会話がなされているらしい。
何度か、シャールさんと黒竜が並んで体育座りをして、仲良くたそがれている姿を見かけた。
近くに川とかあったら、石で水切りとかしていそうな雰囲気だ。
ほんと、いつの間にか黒竜と白竜はこの場に溶け込んでいった。
……というか、俺も居るのが当たり前みたいに思えてきたな。




