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忘れちゃいけない日です

 ドラゴン五六四零八コロスレイヤーの影響か、黒竜は直ぐに謝った。

 まあ、だからといって、それで解放という訳にはいかない。


「まずは、どうしてあの花を欲したのか、その理由を聞かせてもらおうか」


 何しろ、世界樹の花だ。

 どんな効果、効能があるか、計り知れない。


 ないとは思うけど、もしかしたら、命がかかわるような案件の可能性もある。

 それなら、内容次第では……仕方ないかな? と情状酌量の余地があるかもしれない。


「………………」


 でも、黒竜は答えない。

 言うものか、と目と口を閉じて、顔を背けた。


 どう見ても、なんらかの隠し事があるのは明白。

 そして俺の勘は告げている。


 多分、大した理由じゃないよ、と。


 なので、ちょっと口を開くように行動してみる。


「あっと、手が滑った」


 つるっと手を滑らせて、持っていた「D五六四零八ー」を放り投げた。

 剣は空中でくるくると回りながら落下して、黒竜の顔の真ん前に突き刺さる。


 かすり傷でも固定ダメージが入りそうな気がしたので、かなり気を遣った。

 かすっていないようで何より。


「いやあ、危ない危ない。……でも、次は当たってしまうかもな」


「全て話そう」


 黒竜が目と口を開いた。


「それで、なんであの花を欲しがったんだ?」


「やむにやまれぬ事情というヤツだ。察してくれ」


「いや、だから、それがなんなのかを聞いている」


 悪あがきをするので、もう一度「D五六四零八ー」をちらつかせる。


「実は先日、大切な日だったのだ」


「大切な日?」


「うむ。妻との結婚記念日だ」


 ………………。

 ………………。


 オチが読めるけど、念のために聞いておこう。


「それで?」


「その日、悪友と飲んで寝て過ごした」


「……つまり、忘れてしまって、怒らせてしまったから、そのお詫びとしてあの花を欲したと?」


「………………」


「………………」


「簡単に言うと、そういう事だ」


 黒竜は、わかってくれるよな? と俺を見てきた。


 ………………。

 ………………。


 チラッと、エルフたちを確認。

 全員、両腕を交差して×印を作っている。


 チラッと、結界内の女性陣を確認。

 全員、両腕を交差して×印を作っている。


 男性陣は、感情を見せていない。

 本能で今感情表現するのは危険だと察しているのだろう。


 チラッと、ドリューと騎士ジンを確認。

 もうやってしまわない? と俺を見ていた。


 世界樹から伝わる雰囲気は、更なる怒り。

 黒竜を押さえつける力が更に強くなった気がする。


 よって、結論。


「有罪」


「ちょっと待って! 待って待って! 待ってくれ! 仕方なかった! 仕方なかったのだ!」


「……どう仕方なかったんだ?」


「悪友の持ってきた酒が美味かったのだ! どうやらかなり高い酒らしく、美味かったのだ!」


「で、気分良く酔って、気持ちいいままに寝てしまった、と?」


 黒竜がこくりと頷く。


「よし、情状酌量の余地なし。有罪」


「何故だあ!」


 黒竜が驚きの声を上げる。

 いや、どう考えても無罪にはならないだろ。


 それに、これは満場一致の結果。

 黒竜の行動に、誰しもが×印を掲げていた。


「……はっ! 正直に話した分、減刑して欲しいぞ!」


 何を言っているんだ、黒竜は。


「自ら正直に話したんだから、減刑なんてある訳ないだろ」


「そこをなんとか」


 黒竜は必死だ。

 まあ、視線はD五六四零八ーに釘付けなので、本当に殺られるんじゃないかと不安なんだろう。


 でもまあ、殺るかどうかと問われれば、そこまでじゃない気がしないでもない。

 それに、問答無用で持っていかなかっただけ、この黒竜はまだ理性的なのかもしれないし。


「わ、わかった! あの花は諦める! それにアレだ! 友誼! 友誼を結ぼうではないか! 我が友となれば心強いだろう?」


「心強い? なんで?」


「我は山の竜を束ねる竜王だからな!」


 ふんっ! と鼻息荒く、自慢するようにそう言う黒竜。


「なるほど。でも、こっちはそれを確かめる術がないよね?」


「……それは、まあ」


 ここは山ではないのだから、それをそのまま信じる事はできない。

 自称竜王もその事はわかっているのか、自慢するような姿は鳴りを潜めた。


 ……なんか段々可哀想になってきた。

 それに、もし自称ではなく本当に竜王だとすれば、今の姿はちょっと……ね。


「……わかった。ここの責任者として、お前を解放する」


「本当か!」


「ただし、もし次、ここに迷惑をかける竜が現れた場合……俺はどんな手段を使用しても必ず山に行き、この剣で全てに竜を駆逐する。お前が本当に竜王というのなら、他の竜にきちんと手出し無用だと伝えておくんだな」


「わかった! わかった!」


 黒竜が何度も頷く。


「それと、今直ぐ帰って奥さんにきちんと謝れ。謝罪の品を用意する前に、まずは謝罪しろ。心から。謝罪の品は……わからないなら、奥さんとよく相談するんだな」


「……わかった」


 黒竜が男の顔になる。

 覚悟を決めたようだ。


 甘いかもしれないけど、それでいいかな? と周囲に確認すると、お好きなようにと返される。

 なので、好きにする事にした。


 世界樹に頼んで黒竜を解放してもらう。

 黒竜は、俺たちに向けて頭を下げたあと、山の方に飛び立っていった。


 そのあと、世界樹の機嫌を直してもらうために、たっぷりの「魔力水」と俺の魔力を与えて宥める。


     ―――


 翌日。

 黒竜と、もう一体――別の竜が一緒に姿を現した。


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