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移動しようとしたら変な音が鳴った。
というか、電子音?
……いや、電子音が鳴るとか、この状況ではありえない。
何かが起こったという事。
一体何が? と周囲を窺う。
………………特に何も起こっていない。
せいぜいが、木の葉が風に舞って流れていっただけ。
俺もあんな風に舞えたら……きっと気持ちいいだろうな。
目が回りそうだけど……じゃなくて。
もしかしてだけど、今の電子音は俺だけに聞こえていた?
そういう可能性がある。
となると、俺の中に該当しそうなのがある事に、自然と気付く。
なので、鑑定して自分のステータスを開くと、左上の「お知らせ」というボタン表記があった。
押してみる。
『図鑑ボックス(β版)配信のお知らせ
開発資金援助の協力、ありがとうございます。利用者の現状を鑑みまして、この度、事前の告知通りβ版ですが、「図鑑ボックス」を早急に配信する運びとなりました。機能としては未熟も未熟ですが、現状は打破できると思われますので、頑張って生きてください。応援しています。また、こちらも製品版を目指して奮闘し、順次更新していきますので、何卒援助をよろしくお願いいたします。 開発に携わる神一同』
………………。
………………。
あー! と叫びたいが、とりあえずその行動はまずいと考えて踏みとどまる。
ゆっくり噛み砕いていこう。
まず、β版とはいえ、今日から何かしらの力が使えるようになったのはありがたい。
ありがとう。
……感謝を言うのは早かったかな?
中身も確認せずに言うべきじゃなかったかもしれない。
でも、ありがとう。
機能はあとで確認するとして……それっぽい事を書いているけど、本当に現状を打破できるんだろうか?
というか、頑張ってとか、応援しているとか……見てんの? 俺の事。
なら、一言いいかな?
……もう少しわかりやすい形で援助してくれた方が、ありがたいんですけど。
無双する力……は戦いばかりになりそうで嫌だから、最強装備……はなくしたら困るし、魔法……は種類を憶えるのが大変そうだ。
……とりあえず現状維持で大丈夫です。
あと、β版と製品版なら、製品版の方が優れているのは間違いない。
となると、製品版はできるだけ早く欲しいけど……さらっと援助をお願いしてるよね?
更なる資金を捻出しないといけないのだろうか?
それと、複数の神様が関わっている事もわかった。
関わっているのが、やらか神だけじゃないのは……ホッと安堵。
は、まだ早いか。
まともな神様たちが関わっている事を切に願う。
……切に、願う。
という訳で、これで振り返りは終わらせて、前を向いていこう。
β版でも一応使えるようにはなっているんだし、まずは「図鑑ボックス」を確認してみる。
……どう使えばいいんだろうか?
声に出せば……違った時のダメージが大きい。
昨日までの出来事を思い返すと……更に追加ダメージが。ぐふっ。
声に出すのは最後にしよう。
まずは、ステータスに表記されている「図鑑ボックス(β版)」をポチッと押してみた。
ブンッ! と新たな半透明の板が現れ、そこに映像と音楽が流れる。
壮大な音楽と共に、白い鳥が大地から空へ羽ばたいていく。
そのまま白い鳥は陽の光の中に消えていき、「図鑑ボックス(β版)」というロゴが浮かび上がる。
画面は切り替わり、町の中、工房のような施設を背景に、たくさんの人たちが動き回りながら生活している光景が映る。
……え? 何これ?
もしかしてだけど、OPだろうか?
しかも、ここが異世界なだけに、実写かCGか判別に悩む。
というか……これ、必要?
もしかしたらOPを飛ばせるかもしれないけど、俺の体は動かない。
恐らく、初回はOPを必ず見ていたんだろう。
なら見るけど……なんか無駄に力が入ってない?
まさかとは思うけど、このOPを作るせいで遅れた訳じゃないよね?
開発資金、これに使った訳じゃないよね?
……疑惑が生まれる。
疑っている間に、OPが終わった。
「使用者の名前を入力してください」という文字が現れ、キーボードが表記される。
……まあ、いいんだけどさ。
使えるようになったんだから、無闇に突っ込むのはやめよう。
「ハクウ」と入力する。
――ERROR
なんでだよっ!
何か間違った? と首を傾げると、「使用者の名前を正しく入力してください」という文字に変化する。
……どういう事?
別に間違ってはいないと思うけ………………まさか。
「ハクウ・エンジェル・オブ・ゴッド」と入力する。
――認証しました。
やっぱりか!
これ関わってるの、絶対やらか神だよね!
なんかこの名前じゃないと絶対駄目とか、ゴリ押ししたような気がする。