向こうからです
問題が起こる時は、自分が起こすだけでなく、相手が起こす場合もある。
だから今回の問題は、俺が起こした訳ではない。
向こうから問題を起こしにきたのだ。
その原因となったのは、昨日の事。
世界樹に一輪の花が咲いた。
虹色に輝いている。
これがのちのち実になるらしい。
エルフたちが獲物を狙う肉食獣の目でその花を見ていた。
花はそんな目で見るモノじゃないと思うんだけど。
綺麗に輝いている花なんだから、もっとこう、優しい心で見ようよ。
というか、いつの間に花が?
「本来ならまだまだ時間がかかるそうなのですが、マスターが注いでいる『魔力水』に含まれる魔力が豊富なのと、マスターから直接注がれる魔力が源になって、早々に花を咲かせる事ができたそうです」
騎士ジンがそう説明してくる。
なるほど。そっか。
「………………え? わかるの? 世界樹の事が?」
「はい。と言いましても、そういうニュアンスが伝わってくるだけですが」
そうなんだ。
でも、そういうのって、エルフたちの役目じゃなかったっけ?
ユルドさんの時間が取れるようになれば、エルフたちにもっとキツイ訓練をお願いしようと思った。
とまあ、昨日までは特に問題も起こらず、日常という感じ。
問題が起こったのは、翌日。昼頃。
お昼ご飯の準備をしていると、隊長エルフが駆けこんできた。
「敵襲です! ここの代表を出せと要求しています!」
「えっと……敵?」
「はい。敵です」
「……ディナさんたちを狙って?」
「いえ、違います」
「じゃあ、なんの敵?」
「とりあえず、言葉で説明しても信じてもらえるかわかりませんので、来ていただければわかります。交渉をお願いしたいのです」
「交渉? というか、追い返せないの?」
なんか面倒な予感がするんだけど。
「無理です。それに、今、ここの責任者はハクウさまなのですから、お願いします」
それを持ちだされると困る……というか、答える前に無理矢理連れていくのね。
引きずらなくても自分の足で歩いていきますけど?
……走って?
いや、なんで行きたくないところに走って向かわないと……なんで、そこで速度が上がったの?
訳がわからない内に、連れて行かれた場所は、世界樹のところ。
ここに何が? と確認。
大きく目に付く存在は居るが、まずは一旦保留。
まず、エルフたちはその存在に警戒している。
それは、ドリューと騎士ジンもそうだった。
敵意をむき出しである。
ドリューは強いから大丈夫だけど、騎士ジンは鍛え始めたばかりだから、ちょっと距離を取って欲しい。
と、そこで気付く。
少し離れたところに、ディナさんたちが居た。
初めて見た時のように、私兵さんたちと冒険者さんたちと一緒に集まっている。
多分だけど……クーニャさんの例の結界発動中なんじゃないかな? と思う。
俺からすればガン見えだけど、当人たちからすれば隠れているようなモノか。
下手に近寄らなければ大丈夫だと思う。
それと、世界樹もどこか警戒しているというか、敵意みたいなモノをその存在に向けて醸し出している。
で、問題のその存在。
――それは、竜だった。
全身真っ黒な鱗の竜。
それが空で羽を大きく広げてホバリングしている。
空中なので確かな大きさはわからないけど、俺の目がおかしくないのなら、人を丸呑みできるくらいの大きさがあるように見えた。
あと、なんか怖いくらいに迫力がある。
それと、どことなく必死な感じが伝わってきた。
「えっと……」
さすがに許容範囲外なんですけど。
「あの竜が、代表者を出せと?」
隊長エルフに確認。
お願いしますと頷きが返された。
あんなの俺にどうしろと?
「……誰か臨時で代表を」
隊長エルフ含めて、エルフたちが俺から距離を取る。
ディナさんたちをチラッと見れば、全員が顔を左右に振っていた。
「ええい! 何をモタモタしている! さっさと代表者を……」
黒竜がいきなり喋り出したかと思うと、ジッと俺を見始めた。
え? なんで俺を見るの?
「さっき居なかったな……追加された者……つまり……」
あっ、なんか推理されている。
「貴様が代表者かっ!」
バレたっ!
黒竜が俺の前に降りてきた。
「………………」
「………………」
「どうして目を逸らす」
いや、ジッと見てくるから。
迫力負けです。
「それで、貴様がここの代表者で合っているな?」
「えっと、まあ、そうですね。今は臨時というか代行ですけど」
そう。今は俺が責任者なのだ。
しっかりしないと。
それに、会話ができるという事は、意思疎通が図れるという事。
つまり、力じゃない、対話による平和的解決を模索できるという事だ。
「ここに一体どのような用件で?」
「ああ、あれが必要なので、もらい受ける」
もう確定したかのように言われても困る。
何しろ、黒竜が指し示したのは、一輪しかない世界樹の花なのだから。




