親子って事です
アイテムボックスの中にある「真・ベヒモスネイル」をジッと見る。
……どうしようか、これ。
さすがに、持ってました、とは言えない。
思い出の傷が残っているみたいだし、見れば一発で自分が使用してきた剣だとわかるだろう。
となると、どうやって……となるが、さすがに俺のスキルの事は言えない。
でも、冒険者レオンさんは、鍛冶師への呪詛を吐きつつ、落ち込んでいる。
仲間たちが宥めているけど、まだ復活はしなさそう。
さすがにこのままというのは……ね。
それに、今この場所の責任者は俺。
いつまでもあの調子だと、周りに悪影響を与えるかもしれない。
なので、ここ最近急速に仲良くなって、スキルの事を教えたシャールさんに確認。
「……それは、本当に?」
お疑いのようなので、実際の剣を見せる。
剣を確認するシャールさんは黙ったまま。
そっと返される。
「えっと……それでどうすれば?」
「任せてくれ」
シャールさんが冒険者たちを集めて、ボソボソと話を行う。
何を話しているのかはわからないが、冒険者たちの顔を青くなっているように見えるのはきっと気のせいじゃない。
でも、最終的には喜んでいた。
「ハクウのスキルで直して、その影響で多少強くなったという事で話を付けておいたから」
詳細は一切語っていないらしい。
でも、レオンさんは立ち直り、嬉しそうに両手を俺に向けて差し出している。
………………そっと、「真・ベヒモスネイル」を置く。
「感謝の気持ちを魂に刻み込む。この恩、絶対忘れない」
剣を一目見て、レオンさんは俺に頭を下げた。
なんか仰々しい。
それは、剣を一目見た他の冒険者さんたちも似たようなもの。
喜び、俺に感謝の言葉を伝えてくる。
それだけ大事な思い出の剣だったのだろう。
直せてよかった。
………………と、ここで綺麗にまとまればよかったのだが、現実はそうもいかない。
レオンさんの仲間の冒険者たちが、ちらほらと俺に窺うような視線を向けてくるようになった。
それが別に不快という訳ではないが、意味がわからない。
多分、聞きたい事があるけど、どう切り出せばいいのかわからないとか、そんな感じだろうか。
「それは、ハクウに直して欲しいモノがあって、それをどう伝えればいいのか迷っているんだよ」
ゴーレム製造計画を進めている時にシャールさんに相談すると、そう返される。
なるほど。そういう事か。
でも、俺のコレは無償じゃない。
正確には、「上位変換」自体に金はかからないけど、複製が必要になるから、結局は金次第なんだよね。
世知辛い。
「まあ、僕が口添えしたから、自分たちから言いにくいってのもあるだろうね」
「ああ、なるほど」
「ハクウも気を付けた方がいいよ。ハクウのスキルは本当に危険だ。危険な誘惑を振りまき過ぎる。金という代価は必要だけど、貴重な品も産み出し放題というだけでも囲うのに充分な理由となるから」
「そんなもの?」
「そんなもの。だから、そういう意味でハクウをここに匿ったヴィリア様には、もっと感謝した方がいいと思うよ」
感謝はいつもしているし、体で返しなと言われたら、いつでも差し出すつもりなんだけどね。
このままではヒモとしての俺の立場が……。
「ところで、話は変わるけど」
「ん?」
「僕の弱みを聞かせるようでアレだけど……少し前、父上の大事にしていた壺を割ってしまったんだよね。今は残骸を隠して、精巧な偽物でどうにか誤魔化しているけど」
「………………」
チラッ……チラッ……と俺を見てくるシャールさん。
いや、何を言いたいのかはわかる。
というか、続きだよね? さっきの続きだよね?
話変わってないと思うけど?
「……まあ、必要経費さえもらえれば」
ゴーレム製造計画を手伝ってもらっているしね。
それくらいなら。
「ありがとう! ハクウならそう言ってくれると思っていたよ! 城に戻れた際は、直ぐに持ってくるから頼むね!」
俺が行った方が早いと思うけど……まあ、それはいっか。
わざわざお城に行くなんて、緊張するだけだし。
でも、この話はこれで終わらない。
後日、シャールさんのお母さんでレーヌさんに声をかけられる。
「シャールは、逃げている時はひどく落ち込んでいたのですが、ここであなたと出会ってから、明るさを取り戻したかのようです。一時の事かもしれませんが、ありがとうございます」
「いえいえ、お気になさらず」
大変な状況ですからね。
少しでも気晴らしになったのなら、よかったです。
と、これで話は終わりかと思ったのだが、レーヌさんは去らない。
寧ろ、まだ話があるとでもいうように、もじもじしている。
色気が醸し出されているけど……誘惑されている訳じゃないよね?
「えっと、まだ何かありますか?」
「実は、その……スキルで剣を直した事を聞きまして」
スキルについては教えたけど、「上位変換」の事は初めての試みだったしね。
興味を持っておかしくないか。
そう思っていると、レーヌさんが意を決したかのように言う。
「少し前、誤って夫の大切にしていた壺を割ってしまったのです! 偽物で誤魔化してはいるのですが、できれば修復のお手伝いを!」
あなたもですか、レーヌさん。
……果たして、これは同じ壺の事なのか、それとも別の壺の事なのか。
とりあえず、直す事は了承しておいた。