同義だと思います
言っていた通り、ヴィリアさんが留守しがちになった。
暗殺者たちは、瞬間移動魔法を利用して、ヴィリアさんが連れて行ったのでもう居ない。
今はユルドさんやアイシェさんと協力して、色々と動いているようだ。
偶に報告に帰ってきては、ディナさんたちと話し合いを行って、また出かけている。
正直に言えば、寂しい。
でも、喜んでいる人たちも居る。
「……という訳で、しばらくユルドさんも来れないようです」
『……っ!』
エルフたちは声にならない喜びを、体全体で表現していた。
喜び過ぎじゃない? と思わなくもないが、降ってわいた休日的な感覚なのかもしれない。
ただ、俺の中には寂しさと同時に、誇らしさも心の中にある。
この場所を任せてくれたのだ。
それはつまり、俺を伴侶として認め、自分の帰るべき場所を守って欲しいという事と同義と考えてもおかしくはないんじゃないだろうか?
ヴィリアさんの隠された想いに気付き、俺の中でやる気が漲る。
まったく……恥ずかしがり屋さんなんだから。
そうならそうと、口に出してくれてもいいのに。
ヴィリアさんと俺の愛の巣であるこの場所を守ってみせるぞ! と拳を突き上げる。
すると、ドリィーが俺を軽く突っつく。
「ん? どうした?」
「モグモグ……」
ドリューが首を左右に振る。
まるで、それは違うとでもいうように。
………………。
………………。
とりあえず、ヴィリアさんの留守中は何事も起こらないように頑張ろうと思った。
―――
とりあえず、これから生活を共にするのだし、相手の事を知るのは大事な事だ。
なので、積極的に関わってみる。
まず、ヴィリアさんの知り合いである、ディナさん。
話を聞いてみると、昔は冒険者として活動していたそうで、ヴィリアさんだけではなく、「勇者前進」の全員を知っているそうだ。
「つまり、ユルドさんやアイシェさんも?」
「当然だろ。二人の結婚式にも呼ばれたね」
友好関係なのは間違いないだろう。
で、その冒険者時代に、帝国最強の人と知り合って、そのままゴールイン。
「旦那は本当に強くてね。しかも、あとから聞くとお互い一目惚れで……」
ディナさんの旦那さんに対するトークがとまらない。
お、俺にはヴィリアさんが居るから悔しくなんてないからね!
心の中でそう自分を慰める。
ただ、ディナさんには今後頼る事があるかもしれない。
というのも、ディナさんが、集団のリーダー的立場だからだ。
集団の中には王族も居るけど……まあ、本人たちがそうした方がいいと思っているようなので、変な諍いみたいなのもない。
冒険者時代もリーダーだったようなので、引っ張っていく力が強いんだろうと思う。
そんなディナさんの娘さんである、ラナオリさん。
「今後とも、よろしくお願いいたします」
「あっ、はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
礼儀正しい。
本人自体も、どことなくフワフワしている雰囲気がある。
でも、細かいところに気付く事が多いというか、些細な事に気付いて相手を気遣う様子を偶に見かける。
とてもではないが、強気なディナさんの娘とは思えない。
真逆と言ってもいい。
ただ、俺は騙されない。
こういうタイプは怖いのだ。
些細な事から推測して、大きな秘密を暴く、みたいな事をしそうだ。
何より、帝国最強の人が父親で、婚約者が王子。
……敵ではなく味方にしておきたい。
心の平穏のために。
仲良くしたい人その一がラナオリさんなら、その二はラナオリさんの婚約者のシャールさんだろう。
何しろ、王族。
今は敗北した方だけど、今後の展開次第というか、高確率で返り咲くのは間違いないと思うから、未来の王様と言っても過言ではない。
なのに。
「これからお世話になります」
「いえいえ、こちらこそ、大したもてなしもできませんけど」
「お気になさらず。今はこうして匿ってもらえるだけで大いに助かりますから」
偉そうな態度は見えない。
隠している風でもないので、地だろう。
でも、油断していけない。
こういう人に限って、簡単に冷徹な判断をする可能性がある。
でも、できれば本当に仲良くなりたい。
振り返ってみれば、この世界に来てから初めての同年代の同性だ。
何かきっかけでもあればいいのだが……。
そんなシャールさんのお母さんである、レーヌさん。
こちらも息子のシャールさんに似て、偉ぶったところがない穏やかな女性だった。
「シャールは立場上、これまで仲良くなれるような子が居なくて。よければ、仲良くしてあげてくださいね」
「はい。もちろんです」
なんとなくだけど、この人は敵に回さない方がいい気がした。
愛する者のためなら、どんな手段でも取りそうな気がする。
……似た者親子なのかもしれない。
とりあえず、これでヴィリアさんが言っていた、主要人物四人の事は記憶した。
私兵さんたちも居るが、正直多過ぎてまだ無理。
冒険者さんたちは、まだディナさんたちに付き合うそうだ。
時々森の中に探索に出かけているけど、まだまだ甘いとエルフたちにしごかれていた。
自分たちの部下だとか思っているのかもしれない。
まあ、それは別にいいんだけど……やっぱり俺は、猫の獣人さんが気になる。