強くなりたいそうです
ドリューと共に、ゴーレム製造計画が始められる。
といっても、直ぐできるという訳ではない。
まず必要なのは、詳細な設計図だ。
俺の担当。
どのような形にするかは、俺に委ねられている。
大きさに関しては、俺の1.5倍くらいを予定。
同じ大きさというのもなんだし、大き過ぎるのも製作時が大変になるので、それぐらいの大きさに落ち着いた。
製作のメインはドリューで、俺はその手伝い。
あまり負担になるような大きさにしたくなかったのだ。
という訳で、まずは俺の設計図待ち。
その間、ドリューは使えそうな素材を取りに行くと、不滅の森の中に入って魔物を狩ってくるようになった。
ドリューによる、狩猟時間が導入された瞬間である。
不滅の森の魔物にとっては恐怖の時間だろう。
なので、完成にはもうしばらくかかりそうだ。
時間がかかるのは別にいいんだけど……。
「ついでにこの魔物が居たら、狩ってきてくれないかい?」
狩猟時間前になると、ヴィリアさんがドリューに頼み事をする場面を時々見るようになった。
俺に任せてくださいよ! と言いたいところだが、向かう先は不滅の森。
下手をすれば、中層や深層にも向かう。
よく考えなくてもわかる事だ。
命を大事にしましょう。
なので、俺に任せてとは、言えなかった。
俺ができるのは応援だけ。
「頑張ってくれ。でも、怪我しないように」
ドリューがキメ顔っぽいのを見せて、不滅の森の中に入っていく。
まあ、今のところは、毎回怪我一つせず帰ってきているけど。
「そもそも、ドリューに勝てる魔物って居るんですか?」
「そりゃ居るさ。あんたの鑑定に出ていたんだろ? 最強種の一つだって」
「はい」
「一つって事は、他にも同レベルのが居るって事さ。といっても、そこまで心配しなくてもいいけどね」
「というと?」
「そういうのは、大抵の場合は数自体が少ないもの。寧ろ、遭遇する方が稀さ」
そう言われてみると、そんな気がしてくる。
それに、ドリューは賢い。
勝てないと判断すれば、無理に戦おうとはしないと思った。
―――
『お願いします!』
ある日、エルフたちからお願いされた。
その内容というのが、強くなりたい、らしい。
純粋に戦闘能力を高めたいという事だった。
というのも、この不滅の森に出現する魔物は、他の場所に現れる魔物よりも強い。
そんな森の中で生きていく以上、ある程度以上の強さは必須。
エルフたちが弱いという訳ではないが、「魔力水」を取りに行った際に同行できなかった事に思うところがあるようだった。
俺の下についた以上、同行できなかったのは悔しい、と隊長エルフは語る。
……いや、その割には、あの時嬉しそうにしていたけど。
だからだろうか。
今のは表向きの理由で、本命の理由が別にあるんじゃないかと疑ってしまう。
「……で、本当のところは?」
言い渋るエルフたち。
中々口は堅いようだが、態度で反応してしまっては丸わかりだ。
これまでのエルフたちの行動を思い出して考える。
……なんとなく、思い当たるのがあった。
「もしかしてだけど、強くなれば自分たちだけで中層まで行けるから、『マジック』シリーズが取り放題、とか?」
『………………』
エルフたちは答えない。
ただ、どうしてわかった! と思いっきり表情に出ていた。
でも、俺としては、寧ろそっちの方がわかりやすくていい。
できる限りの協力をしてあげようと思った。
「わかった。俺に任せてくれ」
『ありがとうございます!』
お礼はまだ早い。
それに、俺自身は正直言って強くもなんともない。
「なので、お願いしました」
「お願いされました。いやぁ、強くなりたいんだって? 嬉しいね。意欲があるキミたちには、私も頑張って鍛えてあげようじゃないか」
アイシェさんの来る回数が増えた事で、必然的に来訪が多くなったユルドさんにお願いしてみた。
となると――。
「人数も多いですし、私も手伝いましょう」
アイシェさんも参加。
更に――。
「偶には体を動かした方がいいってのもあるけど、研究が上手くいかなくて溜まった鬱憤を晴らさせてもらおうかね」
ヴィリアさんも参加。
「勇者前進」の三人による地獄の特訓が始まった。
これを耐えきれた時、エルフたちは今よりも格段に強くなっている事だろう。
「……モグ?」
ドリューが、自分も行こうか? と言っているような気がする。
さすがにそれはオーバーキル過ぎるので、やめておいた。
エルフたちに死んで欲しい訳ではない。
本人たちが望んだように、強くなって欲しいだけだ。
『きゃあああああっ!』
その日から、時々エルフたちの悲鳴が聞こえてくるようになった。
うん。あれだけ叫べるなら、元気な証拠。
今日も平和である。