判明しました
ヴィリアさんは瞬間移動の魔法陣を使用して、定期的に買い出しに赴いている。
俺は基本的に欲しいモノはないのでいつもなら特に気にはしない。
それに、町に何があるかとかわからないし。
あいにくと、この世界の知識はまだまだ足りない。
なので、気にしていなかったのだが、今回は違う。
その理由はただ一つ。
ドリューからのお願いで、巨大カマキリの売却をお願いしていたからだ。
ヴィリアさんのアイテムボックスをわざわざ空けてもらい、売りに行ってもらった。
食い扶持は自分で稼ごうとしているので、ドリューも気になるのだろう。
ヴィリアさんが行って帰ってくるまでの間、ソワソワしていた。
「ドリューに落ち着きがないんですけど、どうかしたのですか?」
当たり前のように居るアイシェさんが俺に聞いてくる。
「……あの、娘さんの方はいいんですか? それに、ユルドさんも居ませんけど」
「娘ももう大きいですからね。そろそろ自立してもらわないと。それに、今はユルドが娘を鍛えていますから、多少お出かけしても問題ありません」
なるほど……と言いたいけど、狙いが透けて見え過ぎる。
現に今も、ソワソワしていたはずのドリューを抱き抱え、器用に撫でながら話しているし。
……平和という事だな。
そして、戻ってきたヴィリアさんと会う。
「ふう。今回は時間がかかってしまったね」
買い出ししてきた物を協力してしまっていく。
俺はただのヒモじゃない。
お手伝いを率先して行うヒモだ。
その間、アイシェさんはドリューを構い続けるだけ。
いや、ドリューが、俺とヴィリアさんの邪魔にならないように、相手をしてあげている可能性もある。
ドリューなら、それくらいの気遣いをしそうだ。
そして、売却結果を聞く。
「……その前に、アイシェ」
「何?」
「まだここに居るつもりかい? そろそろ帰って晩御飯の支度をした方がいいと思うけどね?」
「あら? もうそんな時間? ドリューちゃんと一緒に居ると時間が進むのが早いわね」
そのまま帰ろうとするアイシェさん。
「「いやいや、待て待て」」
ヴィリアさんと一緒にとめる。
ドリューをそのまま持ち帰ろうとしたので。
ドリューも大人しく持ち帰られようとしないように。
注意しておく。
ドリューを返してもらい、アイシェさんを見送って、ヴィリアさんから巨大カマキリの売却金をもらう。
――銀貨30枚。
「……安過ぎません?」
確か、不滅の森の中層で強い部類なんだよね?
それならもっと高そうだけど。
「それは仕方ないだろ。胴体に大穴が空いて、丁度そこにあったらしい魔石を砕き、武器として転用できたはずの大鎌部分は裂かれていたんだ。まともに素材になるような部分がほとんど残っていなかったんだからね」
なるほど。
言われてみると、確かにその通りだ。
「でもまあ、それでも滅多に出る類のモノではなかったから、何かしらの利用方法はあるだろうと、その金額さ」
俺はまあ、納得できる。
本来ならもっと安いか、買取不可の可能性もあったかもしれない。
でも、持ち込んだのが「賢者」の肩書を持つヴィリアさんだからこそ、優遇してくれたんだと思う。
信頼性とかありそうだし。
だから納得できるのだが、問題はドリューがどう思うか。
チラッと確認する。
窺うように俺を見ていた。
……どういう意図で?
落ち込んでいる……かどうかは微妙だ。
となると、聞きたい事、もしくは知りたい事があるように見える。
……物事を複合的に考えて………………わかった。
「これでどれだけ複製できるのかと知りたいって事か?」
それ! とドリューが器用にパチンと指を鳴らす。
本当に器用だな。
ちゃんとドリューと絆ができているようで、ホッと安堵。
「そうだな……複製金額は最安値が多いし、満腹何回か分にはなるかな」
ドリューは、なら問題ない、とニヒルな笑みを浮かべる。
大物感があるな。
でも、もし次があれば倒し方も気を付ける、と仕草で伝えられる。
いや、無理しなくていいから。
ドリューの安全が一番である。
それに、帰る前に収納した「マジック」シリーズはそこそこあるし、このお金に手を付けるのはまだ先だろう。
とりあえず、ドリューが稼いだ分は、俺のアイテムボックスの中の一アイコンを専用で保管する事にした。
―――
ドリューの特技が判明した。
親指っぽい指を立てたりしていて器用だな、と思っていたけど、本当に器用だった。
それが発覚したのは、ドリューがエルフたちの家に意匠を施していたのを、隊長エルフが見つけたからだ。
デフォルメされたモグラを、隠すように彫っていた。
エルフたちは気にしないようだったが、今後は駄目だよ、と注意しておく。
なんかやりたくなったらしい。
で、エルフたちが試しに家を作った際に余った丸太をドリューに渡すと、自分の爪を器用に使って彫り進め、自分と巨大カマキリが戦っているシーンのフィギュアを作った。
おお~、と拍手が起こる。
ドリューはどこか自慢げだ。
休日の趣味が褒められたような感じだろうか。
だが俺は、そのフィギュアを見てピンときた。
金ガチャで当たった「生命の核」を使う体を、ドリューに作ってもらえばいいのではないか? と。
その事を説明すると、ドリューは任せろと胸を叩く。
俺とドリューのゴーレム製造計画が始まった。