新たに学びました
時間に余裕が持てるようになったので、再度ヴィリアさんから魔法について教わる。
魔法講座を受けるのは構わない。全然。
ただ、魔法講座を受けている時に思うのは、できれば女教師の恰好でお願いできないだろうか? という思いがムクムクと育つという事だ。
もちろん、その恰好にも注文はある。
まず、眼鏡。これ大事。
眼鏡があるのとないのとでは、魅力補正値に大きな差があります。
次に、白シャツは上からボタンを二つか三つ開けてください。
あとは、黒のタイトスカートに、ストッキングは――。
「真面目に聞いているのかい?」
「はい。真面目に聞いています」
危なかった。
こういう時、即座に答えないと余計に怪しまれる。
「なら、次は教本の642ページだから、まずはそこを読みな」
「はい。わかりました。……すみません。そんな膨大な教本じゃありません」
「指摘する前に了承したって事は、真面目に聞いていなかったという事だね?」
どうやら、見抜かれていたようだ。
さすが、できる女教師である。
真面目に聞けと怒られたので、真面目に受ける。
ちょっと思考が逸れていたようだ。
女教師とか、ムラムラしちゃうから考えちゃいけない。
魔法は危険なんだから、きちんと学ばないと。
小さなミスが、大きな失敗になる事だってあるのだから。
今回習ったのは、火の魔法の初歩。
本来なら野営などに役立つ着火の魔法を教える予定だったらしいが、俺にも何かしらの攻撃手段を持った方がいいと、急遽変更したのだ。
といっても、初歩の初歩。
まずは火の玉を放つ魔法から。
「詠唱」と「魔法名」を習って、準備完了。
早速と唱えて――。
「待て待て待て待て。家の中で使おうとするんじゃないよ! 燃やし尽くす気かい?」
ヴィリアさんにとめられる。
そのまま家の外に連行された。
体育館裏だろうか? できれば誰も居ない教室で個人授業を……。
まあ、そもそもの舞台がないけど。
着いたところは、近場の開けた場所である世界樹の近く。
「ヴィリアさん、どうしてここに?」
「ちょっと待ってな」
待てと言われたので待っていると、ユルドさんとアイシェさんが現れた。
「お二人ともどうしてここに?」
「「ヴィリアに呼ばれて」」
「来たようだね。早速、結界を強化……いや、少し穴を作って、そこに向かって打つようにした方がいいかもしれないね」
そう言って、ヴィリアさんがユルドさんとアイシェさんを巻き込んで、何やら結界をいじり始める。
どうやら、そのために二人を呼んだようだ。
結果、空の一部に大きな穴ができたらしい。
そこに向かって放て、という訳である。
「……ここまでする必要があるのかい?」
「そうね、少し過剰じゃないかしら?」
「あんたたちは見ていないからわからないんだよ。こいつの魔力の異常性に」
そこまで異常ではないと思うんだけど。
ただ、ヴィリアさんはそれでも安心できなかったのか、俺から距離を取り、森の中からこちらの様子を窺い出した。
「こっちは準備できたから、あとはあんたのタイミングでやりな!」
ヴィリアさんがそんな感じなので、ユルドさんとアイシェさんも同じように下がり、なんだなんだとドリューやエルフたちも集まる。
見られながらだと緊張するな。
というか、ちっちゃい火の玉の可能性だってあると思うんだけど。
どうなっても知らないぞ、と作られた穴に向かって「詠唱」と「魔法名」と唱える。
………………。
………………。
飛び出す瞬間が見たくて集中して手を見ていたが、何も出なかった。
「……失敗?」
首を傾げる。
でも、何も出なかったから失敗という事で間違いないと思う。
「ヴィリアさん。失敗したようです。どこが間違っていましたか?」
「………………」
念のため姿勢はそのままで視線だけ向けるが、ヴィリアさんは答えない。
ただ上を見ているだけ。
他のみんなもそうだった。
ポカーンと口を開けているエルフも居る。
みんなが見ている方を確認。
「………………なんじゃありゃ」
思わずそう呟いてしまうくらい、でっかい火の玉が結界の外――空中に佇んでいた。
どう表現すべきか……こう……ここら辺一帯を焦土と化してしまいそうな感じの大きさ。
……考えたくないけど、さっきまであんなのはなかった。
俺が手に集中している間に、出現した事になる。
ヴィリアさんたちを見る。
俺をジッと見ていた。
空いている手を利用して、巨大火の玉を指差し、自分を指差す。
もしかして、あれが俺の火の玉ですか?
綺麗に全員揃って頷かれた。
「くれぐれも、町中で使わないように」
ヴィリアさんの注意に、他の皆から強く頷かれた。
世界樹からも、「駄目。絶対」と言っているような雰囲気が伝わってくる。
魔法以外の自衛手段を身に付けないといけないようだ。
巨大火の玉は、空に向けて撃って処理しておいた。
どこまでも飛んでいけ……燃え尽きるまで。