睡眠は大切です
魔法は発動しなかったが、魔力なるモノが存在している事はわかった。
それと、水と果実が手に入った。
そろそろ陽が落ちそうになっているが、これで今日はとりあえず乗り切れる。
だが、この状況でアレを忘れてはいけない。
そう、「火」だ。
これがなくては、暗い夜を過ごす事になる。
何より……火とかないと普通に怖い。
獣が出てきた場合、対抗する手段がない。
……待てよ。
火の明るさが、逆に獣を引き寄せる事にならないだろうか?
………………。
………………。
深く考えないようにしよう。
所詮、どんなモノでも使い方、使い手次第だし。
でも問題なのは、どうやって火を起こすかだ。
まずは服のポケットを確認。
火打石……なし。
ライター……なし。
金貨……5枚。
さすがに金貨で火は……無理だよね。
せめてビスケットでも入っていれば、一枚を二枚にしたのに。
となると、自力で火を起こすしかない、か。
知識を頼りに答えを導くなら……まずは木を擦り合わせ、火種を作らなければいけない。
それと、その火種から火を起こすための燃えやすいモノだが……。
うーん。周囲を窺うが、そういったモノがない。
木の枝すら落ちておらず、擦り合わせられそうな木片が一切ない。
これはここら辺だけなのか、それとも他も一緒なのかを確認したいが……その場合は別の問題が発生する。
地図や方位磁石がない以上、一度ここから離れ過ぎてしまうと、迷って戻れなくなる可能性がある事だ。
木に目印を付けるなんて方法もあるが……ここが森というだけの事はあって、木はたくさん。
どの木に目印を付けたとか、絶対わからなくなる自信がある。
それに、他の場所の様子を窺っている間に、間違いなく陽が落ちる。
……仕方ない。
今日は真っ暗な夜を過ごそう。
火を起こす事より、どこか眠れる場所を見つける方が先……いや、待てよ。
確か、眼鏡の度数が高ければ、虫眼鏡の要領で焦点を合わせて火を起こせるはず。
まだ陽は出ているし、本当にできるかどうか試す価値はあるはずだ。
よし、早速……って、
ra・ガーン!
思わず変な表現をしてしまったが、俺、眼鏡かけてなかったわ。
当然、持ち物にもない。
馬鹿な!
知識として、俺は眼鏡好きだったはず。
なのに、眼鏡をしていない、持っていない、だと!
認められない。こんな現実。
……いや、していない、もっていないからこその……眼鏡好き、なのか。
この世界に眼鏡がある事を切に願う。
届くかはわからないが、空に向かって真剣に祈った。
………………さて、と。
寝る場所探すか。
―――
もちろん、寝ようと思えばそこらで寝れる。
だが、硬い地面の上なんてナンセンス。
その上、夜風から身を守るモノもないのだから、それで風邪を引かないなんてナイセンス。
………………。
真面目に考えよう。
気温がどうなるかはわからないが、今のところは寒くない。
肌寒さも感じないので、外で寝ても大丈夫……だと思う。
でも、硬い地面の上にそのまま寝るのは避けたい。
逆に疲れるかもしれないし、体がバッキバキになる事間違いなし。
でも、一番の理由は、なんの対策もなしに地面の上に寝ると……簡単に襲われてしまうという事だ。
特に、あんな危険なウサギが居るからには、安易な選択は出来ない。
となると……まず候補としては、木の上?
近くにある果実の木を見る。
……登る事はできそうだし、背中を預けて座れそうだから、寝る事はできると思う。
その姿を想像してみる。
………………。
駄目だ。寝返りを打って落ちる可能性が高い。
それで打ちどころが悪ければ、最悪死に至る。
それは嫌だ。
というか、そもそも自分の寝相がわからない。
何しろ、そういう記憶を消されてからまだ初日。
大丈夫だと判断できるだけの経験が足りない。
今の状況であと取れる手段は……寝ない事だろうか。
徹夜、か。
できなくはないだろうが、問題は明日に影響が出まくる事だろう。
思考能力低下、判断能力低下、運動能力低下。
全体的に能力値が下がる、状態異常:徹夜(一徹)となるのは間違いない。
今日は逃げ切れたけど、そんな状態であのウサギと直面した場合、生き残れる自信がない。
でも、安全な寝床もない。
……もういっそ、全てを投げ出し、運に任せてそこらで寝てしまおうか。
それでも大丈夫なような気がしないでもないが……気が休まらないのは事実。
せめて、寝返りを打っても大丈夫なくらい太い木があればいいんだけど……見える範囲にある訳がない。
あればここまで悩まないし。
……というか、悩んでいる間に、もう陽が落ちそうだ。
暗くなる前に決めておきたい。
無防備に、硬い地面の上で寝るか。
落ちるかもしれないが、木の上で寝るか。
………………。
木の上でも襲われる可能性がない訳ではないので、襲われた場合の機動性を重視し、木を背にして眠る事にする。
……だって、落ちるの怖いし。