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別 ヴィリア・ワイズ・キャスターレ

 ――少し前、変なヤツが現れた。


 家の中で世界樹の種について考えていると、外が騒がしい事に気付く。

 考え事を邪魔されたという事で苛立ちながら扉を開けると、外に居たのは気絶した男と結界に阻まれたでかい猪。


 ……とりあえず、肉の確保だと魔法で猪をスパッと狩っておく。

 男の方は、ソファーに寝させておいた。


 状況が読み込めない。

 何しろ、ここは不滅の森。


 魔物は現れても、人が現れる事は一切ない。

 まあ、馬鹿なヤツが馬鹿な事をしに来る場合はあるかもしれないが、これまで外から人が現れる事はなかった。


 初めての客ともいえる男を見る。

 おそらく猪に追われていたんだろうが、完全に油断しているような締まりのない顔で寝ている姿は……どこか馬鹿っぽい。


 こんなのが、よく不滅の森の中をここまで進んでこれたものだ。

 何かしらの能力スキルがあるのかもしれないが、話は起きてからでいい。


 今は、肉の確保を優先しないとね。


     ―――


 目覚めた男から話を聞く。

 突拍子がなさ過ぎて現実感がない。


 違う世界? 転移? 複製?

 作り話と一蹴する事もできるが、嘘を吐いているようには見えない。


 ここがどういう場所かも、本当にわかっていないようだ。

 嘘を吐く理由がないというのもある。


 それに、モノを複製できる能力スキルは危険だ。

 真実を確かめるという意味でも、目の届く範囲に置いて監視した方がいいかもしれない。


「つまり……おばあ様のヒモになれって事ですね?」


「違うわ、馬鹿たれ!」


 その思考はおかしい。


     ―――


 それから、自らの名を「ハクウ」と名乗った男との共同生活が始まる。

 そうしてわかるのが、ハクウの特異性。


 スキルの力がどうもおかしい。

 アイテムボックス一つとっても、これまで聞いた事がないような段違いの性能だ。


 おそらく、いくらでも入る?

 水自体がそのまま入っている?


 意味がわからん。


 それに、同じ「鑑定」でも、表示される文面も違うときた。

 もう好きに生きてくれ、と言いたくなる。


 特に問題は……あるにはある。

 行動と言動がおかしいし、時折妙な悪寒がする事があった。


 大抵、ハクウが何やら考え事をしている時なので、思わず手が出てしまう時がある。

 しばくと、何故か悪寒が消えるのだ。


 ……どうやら、ハクウが妙な事を考えている。

 最初の「ヒモ」発言から推測すると、もしかするとあたしを女として見ているのかもしれない。


 ………………。

 ………………。


 いやいや、それはないね。

 確かに、あたしの若い頃の見目は麗しかった。


 モテてもいたけど、狙いが透けて見えて蹴散らしてやったけどね。

 でも、今は歳よりは若く見られるかもしれないが、それだけだ。


 けれど、悪寒は度々走る。

 まっ、今は周囲にあたししか居ないからだろう。


 周囲に若い女が増えたら、そっちに目がいくさ。

 だから、あたしも気にしない。


 ……あたしの中に残っている女の部分がうずいたりなんかしてしない。


 ただ、ハクウに関して見過ごせない問題があった。

 異常な魔力だ。


 桁違いとか、そんな話では済まない。

 ……神の魔力?


 深く考えない事にした。


 しかし、その異常な魔力のおかげと言うべきか、世界樹が遂に芽吹く。

 その事には……感謝だけだ。


 ハクウとの共同生活も……まあ、悪いモノではない。


     ―――


 ユルドがハクウの事を気に入ったようだ。

 エルフたちを下に付けるとか、相当なのだろう。


 迷惑をかけられなければ別に構わないが、ある日の事。

 ハクウが「魔力水」の補充をしたいとお願いしてきた。


 必要性は理解できるが、最低でも不滅の森の中層まで赴かなければいけないため、仲間に協力をお願いする。


 ユルドとアイシェが来た。

 充分だろう。


 何しろ、アイシェはあたしが知っている中で最強だ。

 ユルドも文句なく一流。


 これで問題はない……はずだった。


 ハクウの装備の事を忘れていたのは失念だったが、そもそも戦闘に関して期待していないので、逃走用のマントだけ渡しておいた。

 これで充分だ。


 問題なのは、あたし、ユルド、アイシェの三人だけではなどうしようもできない魔物が現れた事。


 カマキリ型の巨大な魔物。希少種。

 不滅の森の中層より奥は、こういうのがゴロゴロ居るから不滅なのだ。


 体躯の大きさだけでは判断できないが、基準の一つにはなる。

 いきなりこの大きさで生まれてきた訳じゃなければ、この大きさになるまで生き残ってきたという事だ。


 それなりの経験を積んで生き残ってきた魔物。

 間違いなく、強い。


 肌で感じる強さも、こちらよりも上だと伝えている。

 ユルド、アイシェと目配せし、頷く。


 逃走を選択。

 しかし、その際、焦っていたのかもしれない。


 久々に感じる命の危機に、注意散漫だったのだろうか?

 死角からの攻撃からあたしをかばったハクウが遠くに飛んで行った……。


     ―――


 カマキリ型の巨大な魔物から逃走は成功した。

 けれど――。


「あたしはあいつの保護者みたいなもんだ。捜しに行く義務がある。あんたたちまで付いてくる必要はないんだよ?」


「わざわざ確認しなくても大丈夫だよ、ヴィリア。私たちは仲間だ。それに、ハクウくんは私のお気に入りってだけじゃなく、世界樹にとっても大事な人だからね」


「まあ、確かに、世界樹のためにも必要だからね」


「素直に心配って言えば?」


 ユルドの言葉にアイシェがにこにこしながら頷く。


 ……ふんっ!


 とりあえず、二人も共に来てくれるようだ。

 ……まったく、物好きな二人だね。


 そこで、アイシェが聞いてくる。


「でも、結構飛ばされていたけど大丈夫なのかしら?」


「まあ、死んではいないだろ」


「不思議と生きていそうな気がするんだよね」


 ハクウはしぶとそうな感じがするから、そこが関係しているのかもね。

 飛ばされた方向も憶えているし、ここが不滅の森、その中層でなければ問題はないが……。


 翌日。問題が起こった。

 逃げ切ったと思っていたカマキリ型の巨大な魔物が再び襲いかかってくる。


 どうやらあたしたちを完全に狙っているようだ。

 これはどこまでも追ってくると判断して、難しいが迎撃する事を選択する。


 あと二人の仲間が居れば、どうにかできたものを。

 苦戦で劣勢を強いられるが、そこにハクウが現れたのに驚く。


 だが、ハクウが連れて来ていた大きなモグラがカマキリ型の巨大な魔物を瞬殺した事の方が驚きだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 硬い体にドリューという強攻撃力を得て、一気に強くなったなぁ
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