これも餌付けですか?
モグラがガツガツと食べていく。
俺が出した「マジック」シリーズを。
当初は、俺が食べられるのかと思った。
そのために襲ってきたのかもしれないし。
でも、あまりにも空腹で、その力すら出なかったようだ。
そうしてへたり込むモグラ。
その姿を見て……なんというか、見捨てられなかったというか、この世界に来た当初、困っていた俺に似ていると思ったのだ。
なので、「マジック」シリーズを与えたのだが、食いつきがすさまじい。
どこかのエルフたちを思い出すくらいに。
差し出したら差し出した分だけ食べ、催促もしてくる。
お願いします、と頭を下げてきたくらいだ。
ない、と言うと「そんなまたまた~。本当はまだあるんでしょ、旦那」と肘でぐりぐりしてくる。
多分、言葉が通じていると思う。
さすがに声帯器官が違うだろうから、話はできないようだけど。
でも、どことなく愛嬌があるのは確か。
なので、アイテムボックス内にある「マジック」シリーズを出し与えていく。
それに、これも俺の作戦の一つだ。
モグラが魔物なのは間違いない。
なら、今この状況は、モグラが捕食者で、俺は獲物の関係。
現に最初は襲われたし。
なら、その立場からの脱却のための方法の一つとして、モグラを満腹にすればいいのである。
満腹になれば、襲われる事はない。
でも問題はあった。
モグラの胃袋だ。
その体のどこに入っているのかと思うくらい、食べる食べる。
そろそろアイテムボックス内にあった「マジック」シリーズがなくなりそうだ。
頼む。もってくれ。
………………。
………………。
果物類も野菜類も全部なくなった。
これは不味い! 複製か? と思ったのだが、モグラもそこで満足したようだ。
大きく膨らんだおなかをぽんぽんと叩いて満足げである。
俺に向かって、親指っぽいところの指だけを立ててきた。
どうやら、友好関係を築けたようだ。
モグラも俺に襲いかかってくるような雰囲気もない。
とりあえず、朝になったら速攻で逃げよう。
そう考えていると、モグラが爪を器用に使い、つんつんと俺を突いてくる。
視線を向ければ、モグラが何やら動き出す。
僅かに残っている食べカスを指差し、次に自分の膨らんだおなかを指差し、最後に俺を指差す。
……ふむ。なるほど。
「俺もエサって事か?」
モグラは頭を左右に振る。
違うようだ。
モグラがもう一度同じ動きを取る。
……ふむ。
「丸々と肥えた自分を食べろ?」
モグラが必死に頭を左右に振る。
これも違うようだ。
再挑戦。
モグラの動きを的確に読んで………………わかった!
「『マジック』シリーズ……さっきあげたモノがまだあるか? って事か?」
こくり、とモグラが頷く。
「……いや、まあ、もうお前が全部食べてしまったけど」
モグラが絶望的な表情を浮かべる。
「でも、用意しようと思えばできなくはないけど?」
パアアッ! とモグラの表情が輝く。
俺の手を取って、ぶんぶんと振ってくるくらい喜んだかと思うと、器用に胸に手を当て、片膝を着いた。
まるで、俺に忠誠を誓うかのように。
「……えっと、もしかしてだけど、俺の下に付くって事?」
こくり、とモグラが頷く。
そこから再びジェスチャーが開始。
なんとかそれを読み取っていくと……俺のテイムモンスターとして扱ってくれて構わないが、定期的な食事をお願いしたい、という感じだろうか?
「で、合ってる?」
こくり、と頷く。
話せはしないけど、言葉を理解してくれるのは助かる。
正直、魅力的な提案だ。
食事に関しては、いざという時は複製できるし、単価は安い。
まあ、数が必要なので、それなりの出費にはなるが、ここで重要なのは定期的の部分。
モグラジェスチャーによると、数カ月に一回の食事で大丈夫らしい。
ならば問題ない。
ここに、俺とモグラの協力関係が結ばれる。
胃袋を掴んでいる俺の方が、立場が上っぽい。
モグラの方もそれでいいそうだ。
それと、敵は自分に任せてくれとモグラが自分の胸を叩く。
「……本当に大丈夫?」
まあ、この不滅の森に居る魔物なのだ。
戦力は期待してもいいかもしれない……というか、鑑定かければいいのか。
するすると時間が流れていったので忘れていた。
もう協力関係はできているし、別に弱くても関係を崩すつもりはない。
だって、どう考えても、一人で戻れそうにないし。
けれど、一応鑑定。
『 モグバトラー(希少種・特殊個体)
モグラ型の魔物で、希少種の中の特殊個体。
魔力濃度の高いモノしか食する事ができず、一度食事を取ると、数カ月はもつ。
代わりに、一度に取る食事の量はお察し。
また、特殊個体には、「風」を起こし、「雷」を纏うといった戦闘方法が確認されている。
不滅の森における最強種の一種。 』
……えっと。
食事に関しては理解できた。
よく食べる理由も。
それに、魔力濃度の高いモノしか食せないのなら、空腹であった理由もわかった。
それよりも気になるのは、他の部分。
希少種。特殊個体。最強種。
「……もしかしてだけど、お前ってものすごく強い?」
モグラは答えない。
ただ、ハードボイルドのような雰囲気を纏って、ニヤリと口角を上げるだけだった。