体が勝手に動きました
「カッマカマカマ……」
巨大カマキリが変な鳴き声を上げる。
ただ、その目は俺たちを見ていて、どういう意味で見ているのかが直ぐわかった。
捕食者の目だ。
俺たちを狩るつもりのようである。
巨大カマキリが両鎌を擦り合わせて、ギャリンギャリンと金属を擦り合わせたような音が響く。
切れ味は鋭そうだ。
検証は既に六本腕熊で確認されている。
つまり、危険。
「『鑑定』!」
ヴィリアさんが叫ぶ。
……鑑定しろって事か!
鑑定!
『 マンティウス(希少種)
カマキリ型の魔物の希少種。
鋭い両鎌は撫でるように滑らせても切り裂き、横に鋭く振れば風刃を巻き起こし、縦に振れば裂風を発生させ、両鎌を使用した十字斬りが得意。
両手がそこまで鋭い鎌だと、色々不便じゃないとか考えちゃいけないし、口に出してもいけない。
意味が通じるようで、キレるから。
不滅の森・中層・南部において、上位に位置する種。 』
えっと……口には出さないけど、そこを意識しちゃうと気になって仕方なくなるんだけど。
寧ろ、指摘しないで欲しかったというか。
でも、キレるというのなら、言いません。
だって、間違いなく恐ろしい魔物でしょ?
中層で上位に位置する種とか出てるし。
それに、先ほどからヴィリアさんたちの緊張感が半端じゃない。
ピリピリしているというか、明らかにヤバい魔物と出会った時のような雰囲気である。
俺もその空気に飲まれそう、と委縮しかけたところで、ヴィリアさんの指示が飛ぶ。
「聞こえているね! あたしも鑑定かけてこいつを見たが、ヤバい! あたしたちだけじゃ無理だから逃げるよ! 頭下げて目を閉じな!」
言われた通りにする。
瞬間。真っ黒な視界が真っ白になった。
「カマーカマー!」
変な声に反応して目を開けると、巨大カマキリは両鎌で両目を隠すように持ち上げていた。
先ほどの瞬間的な視界の変化と巨大カマキリの反応から察するに――。
「魔法で閃光を発生させて目を眩ませたけど、そう長くはもたないよ!」
そう言って、ヴィリアさんたちがこちらに向けて駆けてくる。
だから、俺だけが気付いた。
巨大カマキリは閃光の苦しみを紛らわせるように、乱雑に両鎌を振りまくり始め、鑑定にあった風刃がいくつも発せられる。
その内の一つが、ヴィリアさんに直撃のコース。
しかも、ヴィリアさんは逃走に意識を集中してか、それとも風刃が死角だったせいかはわからないが、気付いていない。
別に、何か考えがあった訳ではない。
言うなれば、本能。男の意地。体が勝手に、だ。
俺は前に飛び出す。
ヴィリアさんたちが驚きの表情を浮かべ、何かあると気付いたようだけど、対応には間に合わない。
でも、俺は間に合った。
追風のマントがあったおかげかもしれない。
普段なら間に合わなかったかもしれないが、今は間に合った。
俺はヴィリアさんの手を掴み、ユルドさん、アイシェさんの居る方に投げる。
投げる勢いを利用して、ヴィリアさんと入れ替わるように狙った位置へ。
風刃が当たった瞬間、ヴィリアさんの表情が見えた。
――なんて馬鹿な事を。
そんな感じの表情に見えた。
安心させるように笑みを浮かべるが、効果があったかはわからない。
俺は風刃の勢いで、空中に放り飛ばされた。
―――
空中に放り飛ばされた俺。
風刃の勢いが強かったのか、元居た場所がわからないくらい飛ぶ。
というか……着地、どうしよう。
それに、ヴィリアさんたちがどうなったのか心配だ。
上手く逃げていて欲しい。
……逃走成功を強く願っておく。
とりあえず、俺の問題もどうにかしないといけない。
まず、着地。
このままだと木か地面に強く叩きつけられるのは明白。
こんな場所と状況で怪我はマズイので、どうにか無事に着地しないといけない。
………………怪我?
そういえば、風刃をもろに食らったけど……特に痛みはない。
当たった箇所――背中に手を回して確認。
マントと背中側の服はズタボロになっている感触はあるけど、俺の背中に傷はなさそう。
器用に空中で胡坐を組んで考える。
……そこまで威力がなかったか、マントと服が身代わりになったか、かな?
でも、沸々と巨大カマキリに対して怒りが湧き上がってくる。
何しろ、ヴィリアさん手製マントを台無しにしたのだ。
……万死に値する!
巨大カマキリに直接言いたい。
どうにかして、あの巨大カマキリを倒せないだろうか?
そこに考えを集中させたいが、今は着地の方が優先だ。
その方法を考える。
……手詰まりだ。
なんの方法も思い付かないでいると、丁度いい高さの木が見えた。
その頂点部分を掴むと、惰性で曲がって別の木の枝が見える。
その枝を掴む。
まだ勢いが残っているので、惰性で曲がって別の木の枝が見える。
その枝を掴む。
まだ勢いが……を繰り返している内に、気付けば地面の上に立っていた。
………………。
………………。
「よし」
とした。
無事に着地できたのだから、それで充分だ。




