問題が起こりました
不滅の森の中層に入ると、ヴィリアさんたちの様子が一変する。
誰も何も喋らなくなり、周囲への警戒でピリピリしていた。
なので、俺も黙る。
周囲の警戒もしているが、正直気配とかわからないので目視確認。
ないよりはマシレベル。
中層に入って直ぐ、ルデア川を鑑定してみるが……入って直ぐではまだ溶け込んでいる魔力が薄いようだ。
もう少し奥に行く必要があった。
そうして進んでいくのだが、ユルドさんの気配察知能力は高いようで、魔物よりも先にユルドさんが見つけている。
ただ、浅層の時のように先行したりはしなかった。
ユルドさん曰く、経験で相手の強さがなんとなくわかるらしい。
相手が危険なら多少遠回りになっても避けて、ヴィリアさんたちでも対処可能であればそのまま進む。
という訳で、戦闘の際は近くの茂みなんかに隠れて、ヴィリアさんたちの戦いを見る機会があった。
前衛はユルドさんとアイシェさん。
後衛はヴィリアさん。
基本戦術は、ユルドさんが牽制に専念して魔物に隙を作り、ヴィリアさんの魔法、もしくはアイシェさんの剣でとどめを刺す、といったモノ。
見た感じ、連携がしっかりしているように見えるので、それだけ長い時間を共に戦ってきた事が窺い知れる。
それと、ヴィリアさんは極力大きな魔法を控えているそうだ。
大きな魔法は威力が高い分、派手なエフェクトが起こるので、他の魔物の目に付くのは間違いない。
それを避けるため、である。
その代わりといってはなんだけど、アイシェさんがすさまじい。
娘さんが居る母親とは思えない強さだった。
何しろ、気の抜けた「ええ~い」みたいなかけ声と共に放たれる斬撃で、魔物の頭と胴体が斬り離されるのだ。
正直、その姿は魔物よりも怖い。
ヴィリアさんはもとより、アイシェさんも怒らせないようにしようと思う。
それと、戦闘を何回か見て気付いた。
一戦一戦、ヴィリアさんたちは本気というか、全力戦闘に近い感じのように見える。
油断せず、気を抜かず、一気に全力で仕留める事で、余計な時間と力を消費しないようにしているようだった。
戦闘終わりに、そうなんですか? とヴィリアさんに尋ねてみる。
「よく見ているじゃないか。その通りだよ」
当たっていた。
なら、もっと褒めて欲しい。
頭を撫でるだけじゃなく、もっと他のところも……て何を考えているんだ、俺は。
ここは野外。ユルドさん、アイシェさんという人目もある。
見られながら、なんて趣味はない。
いや、そうじゃなくて。
……一旦落ち着こう。
多分、中層での出来事を思い出して命の危機を思い出し、生存本能が高まっているのかもしれない。
つまり子孫を……てやめろ。
今考える事じゃない事だけは確かだ。
落ち着こう。冷静に。
そうして進んでいる内に、あのウサギの魔物「ソービッド」を発見した。
ヴィリアさんたちは、あの怖いウサギを普通に倒す。
なので、ヴィリアさんに思い切って聞いてみた。
「……もしかして、大した事ない魔物ですか?」
「中層でなら弱い部類だろうね。だけど、浅層より外に出すと、数体でゴブリンやオークの集落を殲滅できるレベルではある」
「えっと……なのに、弱い部類?」
「中層以降はそういう場所だよ。だから、長居するような場所じゃない。今日のところは、魔力水を収納したあと、陽が出ている内に一旦浅層まで引き返すつもりだからね」
「わかりました」
……当初、無闇にウサギを襲わなくてよかった。
そんな自分を褒めてあげたい。
「それと……」
他にもあるようだ。
ヴィリアさんが、視線でアイシェさんを示す。
見れば、アイシェさんがソービッドの刃耳をジッと見て、じゅるりと涎が……艶めかしい。
そういえば、珍味なんだっけ。
きっと大好物なんだろう。
ユルドさんが傷付けないように採取している姿も印象的だった。
また、異変らしきが起こる。
いや正確には、まだ異変かどうかはわからない。
それは、形跡から考えて、多分マジックリンゴが実っていただろう場所。
ただし今は丸裸というか、食べ尽くした跡があったのだ。
でも、周囲に魔物の影はない。
結局のところ、ヴィリアさんたちが警戒を強めただけの出来事となった。
そうこうしている内に、魔力濃度が充分なところまで来たので、ルデア川に手を突っ込んで収納していく。
その間、ヴィリアさんたちは周囲の警戒。
………………。
………………。
「収納終わりました」
アイコンで十個分収納しておいた。
これでしばらくはもつだろう。
入れようと思えばもっと入れられるけど、これ以上やると陽が出ている内に浅層まで戻る事ができなくなる。
なので、ここでやめた。
そういえば、今回は小魚の群れが来なかったな。
あのサイズの小魚だと、ここで生き抜くのは難しいのかもしれない。
即浅層まで戻り始める。
その途中にも魔物は現れるが、ヴィリアさんたちはきちんと対処しているので、危ない場面はなかった。
そろそろ夕方という頃、問題が起こる。
いや、運が少しだけ悪かっただけ、かもしれない。
もう少しで浅層というところで、大型の六本の腕がある熊の魔物が現れた。
でも、それは問題ない。
ヴィリアさんたちが的確に対処して、もう少しでトドメというところで問題が起こった。
熊の魔物が背後からの一閃で頭を斬り飛ばされて、胴体が倒れる。
その奥から現れたのは……こちらの倍くらいはありそうな、そんな大きさの巨大カマキリだった。
これが問題。