出発しました
出発しようとすると、綺麗に整列したエルフたちが見送ろうとしてきた。
ユルドさんの姿を確認した瞬間、エルフが自主的に整列したのだ。
ただ、それだと、俺の下じゃなくて、ユルドさんの下に付いているように見えるんだけど。
そう思ったのは、俺だけではなかった。
「帰ってきたら、もう少し教育……お話し合いをしようか」
ニッコリと笑うユルドさんは怖かった。
エルフたちもガクブルである。
助けを求められる視線を向けられても困る。
どちらかといえばではなく、俺はユルドさんの味方だから。
そして、自然物の「魔力水」を求めて出発した。
―――
ヴィリアさんによると、ルデア川の場所はわかっているので、まずはそこに向かう。
で、そこから上流に向けて進んでいき、中流、もしくは上流で採取を行うそうだ。
「魔力水」自体は中流でも問題ないと思うが、念には念を入れて。
それと、他にも目新しいのや特殊な素材が手に入れば、という思いも込めて、追加として上流を目指すらしい。
もちろん、上流を目指すのは問題が起こらなければ、という事らしいけど、どんな問題だろうか?
まあ、危険な不滅の森の中を進んでいくのだから、色んな問題があるんだろう。
日程としては、全体で大体七日ほどで考えているそうだ。
七日も! と思ったのだが、ただしこれは中流まで行って帰っての日程。
上流まで行けば、もっとかかるらしい。
不滅の森においてはそれだけ広大であり、慎重に進まないといけない場所だから、というのが俺を除く三人の共通意識である。
多分だけど、この三人はこの世界における強さで上位に居るのは間違いない。
なのに、それでも慎重に進まないといけないのが、この不滅の森なのだろう。
……う~ん。改めて、なんてところに居たんだろう、俺。
やらか神には、マジで謝罪をして欲しい。
そうして不滅の森の中を進み始めるのだが、陣形は既に決まっていた。
先頭は斥候を担っているユルドさんで、次いでヴィリアさん、俺、アイシェさんの順で並ぶ陣形である。
ユルドさんが前方を、ヴィリアさんが全体を、アイシェさんが後方を警戒するような形らしい。
俺はもちろんただの役立たず。
……役立たずっぷりが発揮されて捨てられたくない。
ヴィリアさんのヒモで居続けるためにも、俺も頑張ろう。
出来る事はそうないと思うけど。
アイテムボックスの枠は空きまくっているし、というかどこまでも入りそうだし、荷物持ちでもすればいいだろうか?
というか、この行程の間の食事とか諸々はどうすれば、と思ってヴィリアさんに尋ねたのだが――。
「このためにあたしのアイテムボックスの中を空けて色々詰め込んできたから安心しな」
「でも、それだったら、俺のアイテムボックスの中に入れれば空けなくてもよかったんじゃ?」
「もしもの場合、あたしとあんたじゃ、どっちが生き残ると思う?」
「ヴィリアさんですね」
「即決かい」
「もしもの場合、ヴィリアさんを守って先に死ぬと思いますから」
キリッとキメ顔。
「……猪に追いかけ回されて気絶していたのはどこの誰だったかい?」
グゥの音も出ません。
「厳しいけど、ここは不滅の森なんだよ。より確実な方が荷物を預かっていた方がいいんだよ」
それは納得できる。
「その代わり、採取物に関してはあんたのアイテムボックスの中に入れていくから、しっかり管理するんだよ」
「お任せください!」
との事らしい。
やる事があってよかった。
そして、陣形を崩さないように進んでいく。
とりあえず、下流というか、この辺りに出て来る魔物に関しては、特に問題ないらしい。
ヴィリアさん、ユルドさん、アイシェさんなら、一人でまだ対処可能だそうだ。
だからだろうか、アイシェさんから非常に話しかけられる。
といっても、別に困る事ではない。
色々と知る事もできた。
まず、アイシェさんがリーダーで、ヴィリアさんとユルドさんが所属しているパーティ「勇者前進」だが、パーティ名を付けたのはアイシェさん。
「物語の勇者のように、何があっても前に進めるようにと思って」
恥ずかしそうにアイシェさんが言う。
……本人にとっては黒歴史って事かな?
で、そのアイシェさんは、以前は「勇者」と呼ばれていたとの事。
といっても、この世界における「勇者」は、特別な力なんかなく、国が認める肩書きでしかない。
その国というのが、破滅の山を中心にした東西南北にある四大国。
その内の一国に、アイシェさんは「勇者」と認められていたとの事。
でも今は違うので、正確には「元勇者」である。
「となると、新たな勇者が居るんですか?」
「娘がその候補となっているから、今仲間たちと一緒に鍛えているの」
その仲間たちというのが、「勇者前進」の残りの二人。
「勇者前進」は五人パーティで、冒険者パーティとして活動している。
それで、まだ出会っていない二人を含めた「勇者前進」全員で、ユルドさんとアイシェさんの娘を今鍛えているそうだ。
「……という事は、ヴィリアさんも?」
「偶に魔法を教えているよ」
買い出しとか行っている時かな?
いずれ全員を紹介してくれるそうなので、詳しい話はその時を待つ事にした。
ちなみに、ユルドさん、ヴィリアさんによると、「勇者前進」の中で強いのは、アイシェさんが頭一つ突き抜けて最強らしい。
だから今も、後方の警戒を任せられるそうだ。
アイシェさんを見れば、包容力のある優しい笑みを返されるが……人は見かけによらないものである。