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期待に応える男です

 リビングにヴィリアさんの姿はないが、ユルドさんと見知らぬ人は、まるで我が家のようにのんびりと寛いでいた。


 見知らぬ人も十中八九ヴィリアさんの仲間だろう。

 なので、挨拶をしっかりと行う。


 ヴィリアさんの相手(自称)として、相応しい振る舞いをしないと。

 将を射るならまず馬を射よ……外堀から埋めていこう。


「おはようございます、ユルドさん」


 好印象を抱いてもらうために、丁寧に朝の挨拶。

 ユルドさんは飲んでいたお茶を噴いた。


「……ぶふ、げへ、ごほっ。……おはよう、ハクウくん。狙いが透けて見える、そんな透き通るように輝いている朝だね」


 ……どうやら、俺の狙いが見透かされているようである。

 それでもそこを言わないって事は、協力してくれるって事だろうか?


「ハクウくん」


「はい」


「世界樹をきちんと世話してくれているようだね。感謝していたよ。ありがとう」


「いえいえ。当然の事です」


 どうやら、世界樹のところに行って帰ってきたあとのようだ。


「うん。だからね。世界樹のためにも、キミとヴィリアには良好な関係でいてもらわないと困る。そのためなら、いくらでも協力するから、ね」


 なるほど。

 どうやら、ユルドさんは味方のようだ。


 心強い味方を得た気分。


「ありがとうございます。それで……」


 見知らぬ人に視線を向ける。

 見知らぬ人は、ユルドさんが噴いて汚れたテーブルの上を拭いていた。


 三十代くらいの女性。


 長いシリーズの四番目の勇者みたいな緑色のもじゃもじゃな髪に、優しい顔立ちの美人。

 胸当てに高そうな衣服を身に纏っているが、どことなくむちむちである。


 それでも、そこはかとなく醸し出されている雰囲気が包容力に満ち溢れているんだけど……だけど……なんかぶっちゃけエロい。


 テーブルの上を拭き終わったのか、私ですか? とニッコリ微笑まれる。

 俺もつられて笑みを浮かべた。


「どうも。はじめまして」


「あっ、はい。はじめまして」


「あなたの事はユルドから聞いたわ。さっき、ヴィリアからもね。あんなに楽しそうなヴィリアを見るのは久しぶりかも。あなたと過ごしている日々が楽しいのね、きっと。ヴィリア本人は認めないだろうけど」


 え? そうなの?

 そんな素振り、見た憶えがないけど。


 でも、本当にそうなら嬉しい。


「これからもヴィリアの事をよろしくね。期待しているわよ」


「はい。任せてください。期待に応える男、ハクウです」


「ははは。うん。期待しているわ」


「それで、えっと……」


 結局、あなたはどちらさま?

 不思議に思っていると、ユルドさんが答えてくれる。


「彼女は『アイシェルシア・アーチャード』。私もヴィリアも、アイシェがパーティリーダーを務めるパーティ『勇者前進ブレイブ・アドバンス』のメンバーなんだ」


「なるほど」


 ヴィリアさんはリーダーではなく、メンバーの方だったのか。

「勇者前進」って名前は……まあ、触れないでおこう。


 若気の至りで付けて、もう変えるのも面倒だから、そのままにしているかもしれないし。

 それに、俺は別に嫌いではないから、寧ろそのままで。


 ……というか。


「『アーチャード』? それって」


 ユルドさんを見ると、それはもう嬉しそうな笑みを浮かべていた。


「私のワイフだよ」


 そう言って、左手の薬指にはめられている指輪を見せてきた。

 女性の方も照れながら同じ動作を取っている。


「ほうほう。それはなんというか、ごちそうさまです。それでえっと、ユルドさんと……アルシェル……」


「ああ、長い名前ですので、『アイシェ』、もしくは『アルシア』と」


「じゃあ、『アイシェ』さんで。それで、二人がここに居るって事は……」


「もちろん。魔力水を取りに行くのに同行するためだよ。世界樹のためというのであれば、協力しない訳にはいかないからね」


「助かります」


 そう答えると、ヴィリアさんが奥から現れた。

 これまで見た事のない、立派な杖を持っている。


「起きたようだね。それに、アイシェの事も教えてもらったようだし、特にあたしが紹介する必要はない、と。じゃ、行くかい?」


「行く? どこへ?」


 そう尋ねると、背後でも動く気配。

 振り返れば、ユルドさんが弓を背負って矢筒を持ち、アイシェさんは綺麗な装飾が施された長剣と鞘を腰から提げていた。


 武装したというのが一目でわかる。


「ああ、もう出発するって事ですね」


「そうだよ。あたしはともかく、そこの二人は色々と忙しい身だからね。時間的余裕はあるけど、だからといって急がない理由にはならないよ」


「なるほど」


 なら、俺も準備を……。


 頭を触って、両肩を触って、両腕を触って、両胸を触って、おなかに手を当てて、両ふとももをポンと叩く。


「特にこれといった準備はありませんね」


 寧ろ、この状態で不滅の森の中で生きてきたし、そこから何かしらの装備品を手にした訳ではないので。


「そういえば、こいつはこういうヤツだった……」


 ヴィリアさんが頭を抱える。

 ユルドさんは大笑いで、アイシェさんは微笑んでいた。


「今からあんた用の装備は無理だから、とりあえずこれでも羽織っておきな」


 ヴィリアさんからマントを受け取って羽織った。

 マントがあるだけで、イケてる感が上がった気がする。


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