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引っ越してきました

 ユルドさんは、ヴィリアさんの魔法で元々居た場所に送られていった。

 その際――。


「世界樹の実ができたら教えてね。何があっても駆けつけるから」


 と言って、真顔だった。

 本気で欲しいようだ。


 この場に残るエルフたちも、どうぞどうぞと異論はないようだ。

 そんなにハイエルフになりたいんだろうか?


 なりたい、と言われるのが目に見えてわかるので、聞かなかったけど。


 そして、残るエルフたちだが、一旦帰りたいらしい。


「逃げる?」


「滅相もない」


 即否定された。

 逃げた場合のユルドさんが怖いのだろうか。


「寧ろ、ここに骨を埋めるつもりですので、そのための支度とか色々と持ってきたい物があるのです」


 骨を埋めるときた。

 それだけ世界樹の傍に居たいって事なんだろうか?


 世界樹の実、狙いで。

 とりあえず、ヴィリアさんも大丈夫だと言うので、帰省を了承。


 近場らしいが、ユルドさんと同じく、ヴィリアさんが魔法で送った。

 ちょっとスッキリしたって顔をしていたけど、本当に面倒と感じているのかもしれない。


「あたしは基本ノータッチだから、エルフ共はあんたの好きなようにしな」


 丸投げされても困る、と泣きつく。

 いやいや、ヒモが立場的に上になるとか無理だし、ヴィリアさん以外の人のヒモになるつもりはないんですけど。


「まあ、世界樹の育樹に関して人手が増えて助かる場合もあるかもしれんし、それがエルフなら文句はない。それに、あんたには色々教えなきゃいけない事もあるし、エルフ共に任せて時間が作れるようになるんだから、頑張りな。相談くらいならのってやるよ」


 丸投げされたような気がしないでもない。

 でも、不思議と頑張れと言われたら頑張りたくなる。


 しかし、正直な話……どうなんだろう。

 俺が上に立って、上手くいくのだろうか?


 不安。

 これがもし、エルフではなくて、異世界といえばの獣人、それも猫の獣人であれば可愛がるだけで満足できるのに。


 ……いや、どうなんだろう。

 相手は人型、というか人権が確保されている人だ。


 猫と同じように接するのは危険だ。

 絵面的にもアウトだろう。


 そういう関係なら、まだ猫プレイ中だと言い訳ができるかもしれないけど、そうじゃないなら即通報モノだ。


 自制……自制……。

 猫の獣人は猫じゃない。いきなり撫でれば即通報。


 よし。これで大丈夫。

 自らに戒めを刻んで、日々を過ごす。


 ……はあ。でも、猫の獣人、見てみたい。

 男女は問わない。


     ―――


 十数日後。

 ちょっと忘れかけていたが、エルフたちが戻ってきた。


 本当はもう少し早く戻ってくる予定だったらしいが、持ってくる資材の選別と量に加えて、人数の問題で色々と揉めたらしい。


 そう、人数。

 増えた。単純に倍に。十六人。追加の八人も全員女性。


 持ってきた資材を後ろに置き、家の前で綺麗に整列していた。

 ヴィリアさんと俺が玄関前に立つと。


『私たちの忠誠はハクウさまに。これからよろしくお願いします』


 ………………。

 ………………。


 ヴィリアさんが面倒そうな表情を浮かべている。

 きっと、俺も。


 でもとりあえず、確かな事がある。

 俺は無言でヴィリアさんの手首を掴んで持ち上げた。


「勝者!」


 ヴィリアさんは満足げに頷いて、家の中に戻っていった。

 あとは俺に丸投げという事だ。


「……俺がハクウです。とりあえず、人数が増えた理由を教えてもらっても?」


「はっ!」


 短く返事をして、代表者っぽい人が一歩前へ。

 俺に襲いかかってきたエルフだと思う。


「世界樹とハクウさま、両方のお世話を円滑に満遍なく行うためです! また、自分たちのエルフの里がハクウさまに敵意はないと伝えるためでもあります」


「……つまり?」


「里の上層部は、ユルシラグドさまに弱み……敵対する意思はないと示したいのです」


 なるほど。

 よくわかる理由である。


「で、ついでに、世界樹の実もいただけたらと?」


「はっ! もちろん、ユルシラグドさまのあとで構いませんので、できれば慈悲をいただきたいと」


 正直に答えるんだね。

 まあ、現状は世界樹のへそを曲げ、ユルドさんの不興を買っている状況みたいだから、まずはそこをどうにかしたいという事かな。


「それはわかった。まあ、俺も無闇に敵対したい訳じゃないから、そこは安心して」


「ありがとうございます!」


 代表エルフが頭を下げると、他のエルフも頭を下げた。

 ……なんか軍隊みたいだな。


 恰好も依然と変わらず黒装束だし。

 寧ろ忍者? ……いや、でも、行動そのものは軍隊っぽい。


「それで、そのうしろにある資材は?」


「まずは住居用です。足りない物は、その都度里から持ってきます」


 ああ、そうか。

 まずは住むところを確保しないとね。


 ヴィリアさんに確認すると、別に誰かの土地という訳じゃないから、好きなところに。

 エルフたちの要望は、やっぱりというか、できれば世界樹の近く。


 ただ、今は近過ぎると世界樹が怒るので、世界樹から見ればヴィリアさん家が盾になるような、ヴィリアさん家の隣に建てる事になった。


 世界樹 - 森 - ヴィリアさん家 - エルフたちの家


 みたいな感じ。

 その事をヴィリアさんに伝えると、面倒そうにしていたけど、張っていた魔物避けの結界を更に広げてくれた。


 ほら、エルフたちもお礼を言いなさい。


『ありがとうございます!』


 こうして、ご近所というか、隣にエルフたちが引っ越してきた。


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